『スピンドクター』

栗下 直也2011年03月12日 印刷向け表示
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メディアなどが発信するスクープや横並びでない独自ニュースには誰かの意図が潜んでいることが大半だ。インターネットの掲示板や芸能人のツイッターのつぶやきだって、無邪気な書き込みではないことがほとんどだ。本書は情報操作(欧米では「スピン」と呼ぶ)や、それを担う「スピンドクター」と呼ばれる人々の話だ。

スピンドクターと聞くと何か特別な存在をイメージするかもしれないが、著者は身近な存在だという。もちろん、政治家の周囲には知る人ぞ知るスピンドクターもいるが、現在の日本では官僚や企業の広報も十分、スピンドクターの役割を果たしていると指摘する。


私自身が産業専門紙で企業取材を普段しているので、この意見には納得する。

昼間の取材という正規なルートだけ見ても、広報担当者によるスピンはしっかり行われている。優秀な広報は、発表以外のそこそこ大きい独自案件はA社、それ以外はなるべくB社とか、経営ネタはA社、技術ネタはB社とうまく振り分け、「ちょっといい話があるんです」と担当記者を呼び出し、「○○さんだけですよ」と耳元でささやきながらネタを与える。記者は基本的に話の中身にかかわらず、「○○さんだけ」という言葉に弱い。キャバクラでもないのに。

もっとスキルのある広報ならば、「ちょっといい話があるんです」などと自ら誘わず、記者から取材依頼があった時などに、役員に手渡す事前資料に「新規ネタ」を盛り込んでおいたりする。まあ、大半の記者は「お土産のネタ」を与えられたと認識するが(まあ、それでも手ぶらよりは遙かにマシなので忠犬ハチ公のごとく話に食らい付くわけですが)、記者の中には、意外にこれに気づかず、「ああ、今日はいい話を引き出せたぜw」とまるで自分の手柄のように満足気に帰る輩もいる。広報は新規ネタを与えるだけでなく、記者を上機嫌にさせて帰させることで、紙面でかなり大きく扱ってもらえるというわけだ。

こうした表に出る情報の背後には、無数の日の目を見ない情報もある。

それは書き手が意識的に書くのをやめることもあれば、あからさまにつぶされることもある。著者はいずれもスピンドクターが暗躍している可能性が高いという。直接的、間接的にその記事と真逆の情報を流し、記事化を思い止まらせたり、もしくはバーターで記事を止めさせたりする。「もみ消し」も重要なスピンというわけだ。


著者は実話系雑誌の副編集長をしていただけに、ネタがつぶされたことや自重したことも一回や二回ではないという。メリットとデメリットを天秤にかければ、雑誌の存続より、大事なネタなどないと主張する。これは何も実話系雑誌に限らず、普段、「報道の自由」を声高に叫ぶ、一般紙やテレビでも同じだろう。現場はただひたすら真実を追っても、会社として、それを表に出せないというのは往々にしてある(本書にも安部元首相のスキャンダルなどいくつか事例が記載されている)。


2011年現在、テレビや新聞の内容を「疑う」ことなく、そのまま受容する人は減ったと言ってもまだ大多数だろう。一方、「マスメディアは嘘つきだから、ツイッターで情報収集」という極端な意見もまた、世にはびこるマスゴミ論という情報を「疑う」意識が欠如してよう。すべての情報の裏には「スピン」があるのだ。

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