『一万年の進化爆発』

村上 浩2010年07月22日 印刷向け表示
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採点:★★★★☆

「人間」に興味ある人におススメ。論理展開が難解な部分も多いので、興味あることのつまみ喰いでも楽しめる。

ここのところ生物の「進化」にはまって様々な本に手を出しているが、本書を読んでから他の本を読むと様々な事象を理解しやすくなるかも。この手の本は最近面白いものがどんどんでている。例えば、加速する肥満(書評)や強い者は生き残れないや広い意味ではBorn to Run(書評)も挙げられる。マリス博士(自伝の書評)の研究のおかげもあってDNAの分析が安価かつ高速になったおかげで、絶賛新事実発見中なのだろう。


一万年の進化爆発 文明が進化を加速した 一万年の進化爆発 文明が進化を加速した
(2010/05/27)
グレゴリー・コクランヘンリー・ハーペンディング

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この手の本はどこまでが事実で、どこからが著者の「推測」かをきっちり見極めながら読まなければ危険だ。上で挙げた本とこの本の論旨でも大きく異なる。本書のタイトルから分かるように著者の主張は、「我々は(最終氷河期が終わり、農業を発明して以来の)1万年間で、人類生誕以来600万年間の平均の100倍異常のスピードで進化している」というものである。一方、上記「加速する肥満」は「人類が生まれて数百年だが、農業が発明されてたかだか1万年なので、我々は現代の食環境に全く適応できていない。だから、狩猟採集民のような食事をしよう」と言うものだ。

個人的には本書の主張の方が納得感が高い。「加速する肥満」の中にもあったが、農業によって直ぐに飽食の時代が訪れたわけではない。「食事中毒」になれる程の食料に国民の大多数が囲まれている(先進国だけだが)のは、せいぜい我々を含めて2~3世代だろう。我々が「飽食」に適応できないことをもって、この1万年間進化していないとは言えない。また、産業革命時のイギリスで蝶が1世代でその色を白から黒に変えたように、たった5万年前にアフリカを出たばかりの人類の姿形が大きく異なるように、進化は想像よりも速く、急激に起こるのだ。(「ミッシング・リンク」が多く存在しているのはそのため。この辺の話はザ・リンク―ヒトとサルをつなぐ最古の生物の発見に詳しい)

遺伝子の「量」ではなく「質」に注目すべきだ、といった話なども面白いのだが要約が非常に難しい。。。

この辺の議論は容易に人種差別と結び付けられてしまうので、しっかりと本書を理解することをお薦めする。例えば、「ノーベル賞受賞者にユダヤ人が多いのはなぜか?」という質問に対する著者の回答はお見事。IQの平均値はユダヤ人と他の人種で10程度の差しかないのだが、その差が分布の端の方(つまり、ノーベル賞を受賞できる程の知能を持った人間)の出現数を大きく変えてしまうのだ。平均が異なる正規分布を2つ描けば分かり易い。

ではなぜ、ユダヤ人の平均値があがったのか?という問いにもきっちり答えてくれている。

人間の遺伝子や進化は現段階では分からないことだらけなので、本書の主張が5年後にはあらかた論破されてしまっているかもしれない。分析技術も加速度的に進歩しているようだ(アメリカもキリスト教原理主義者の大統領が辞めたし)。このワクワクするような謎を解き明かすためには、人間の英知を総動員するしかない。人間皆平等だ(もしくはあるべきだ)!などという甘っちょろい考え方のために、足を止めてはならないと著者は声をあげる。

いまこそ、人間科学の研究者たちは、進化は静止しているとか、「精神の斉一性」といったドグマの鎖から解き放たれるべきだ。ぐずぐずしている暇はない。成し遂げなければならないことが山のようにあるのだから。
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