食事中毒患者 『加速する肥満 なぜ太ってはダメなのか』 ディードリ・バレット

2010年6月28日 印刷向け表示
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採点:★★★★☆

健康、ダイエットに関心のある人にはおススメ。人間にとっての「食事」の意味を考える

「太る」「食べ過ぎる」ことが如何に体に悪いかを様々なデータをこれでもかと畳み掛ける。本書を読めば自身の食生活を見直そうと考えない人は極少数だろう。しかし、実際に食生活を変える人もまた極少数だろう。

加速する肥満 なぜ太ってはダメなのか 加速する肥満 なぜ太ってはダメなのか
(2010/05/14)
ディードリ・バレット

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自然選択説という言葉がある。

Wikipediaによる説明は以下の通り。

厳しい自然環境が、生物に無目的に起きる変異(突然変異)を選別し、進化に方向性を与えるという説。1859年にチャールズ・ダーウィンとアルフレッド・ウォレスによってはじめて体系化された。自然淘汰説(しぜんとうたせつ)ともいう

自然選択の結果最適化されているはずの我々(の多く)がなぜ太ってしまうのか?

その答えは単純だ。自然淘汰や種の進化に要する時間のオーダーよりも圧倒的に短い期間で我々の食生活が変わってしまったのだ。人類がアフリカ大陸に出現して以来400万年程度なのに対して、農業が本格的に普及し始めたのは”たったの”1万年前しか経過していないのだ。

朝日新聞の2000年代のベストに選ばれた銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎の著者であるジャレド・ダイアモンドは農業を「人類史上最大の失敗」と評している。農業が人間の栄養や健康状態に悪影響を与えたということは、簡単には納得しがたいが、

先史時代の狩猟採集民の平均寿命は二十六歳だったことが化石証拠から明らかになっている。これは今日に比べると非常に短く感じられるかもしれないが、農業の到来とともにそれはさらに十九歳まで落ち込んだ。

ことからも、全く根拠の無い話ではないだろう。

しかし、平均寿命や個々の人間の栄養・健康状態の悪化は「人類史上最大の失敗」とは言えないだろう。人間という”種”全体で考えれば、生殖年齢に達する人数を増やすことに成功していることは間違いないのだから。

では我々はどうすればよいのか?

肥満を避けるための著者の主張は明確。

「我々の身体は現在の先進国の一般的食生活には最適化されていないので、我々の身体が最適化されているはずの狩猟採集民のように食べて、運動すべし。」

著者に言わせれば、過体重の人間は”薬物”中毒者と同じなのだ。

薬物乱用者は有害なものにみずから手を伸ばしているのに対して、肥満の人は増えすぎた体重の犠牲になっているだけだという見方がよくなされる。だが、肥満の人も「薬物乱用者」なのだ。何かをたくさん摂取したがために、身体が大きくなりすぎて、階段をうまく上れなかったり、椅子に座れなかったりすることに、これ以上ぴったりの定義があるだろうか。

そうであれば、我々に必要なのは「意志の力」や「身体に悪いものを垂れ流す社会を変えること」ではなく、「適切な治療」だ。薬物乱用者に「しっかり強い意志を持て」と言ってもムダだろう。案の定この本を読んで「食事の絶対量を減らそう」と思っていた私も早速「今半」ですき焼きを食べてしまった・・・

いきなり森博嗣氏のように一日一食は困難なので、明日から朝飯抜いてみよう。

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