『日本最後のシャーマンたち』/霊魂との対話

2024年7月10日 印刷向け表示
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作者: ミュリエル・ジョリヴェ
出版社: 草思社
発売日: 2023/2/13
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本書はベルギー生まれの日本学者、ミュリエル・ジョリヴェが著した一冊だ。フランス語圏の読者に向けて出版したものを、逆輸入で日本語に翻訳し発刊された。日本の伝統的なシャーマニズムに焦点をあてており、現代社会においてシャーマンと呼ばれる存在がどのように変遷してきたかを説明している。

タイトルに「最後の」とあるのは、実際に彼女達(ほぼ女性)が生きている世代が今で最後となっているからだ。師弟関係や代々巫女として受け継がれてきた文化は、著者曰く最後の世代となった。著者はイタコ・カミンチュ・ユタなど霊魂を扱うシャーマンを次々と訪れ、その役割や儀式など信仰の背景を調査し実際に体験していく。そしてカミ(名前はそれぞれ違う)を降ろす技を目の辺りにする。

本書にも登場する最後のイタコ、松田さんは人生相談などアドバイスもする。ただアドバイスされた人は、そのまま何もしない人が多いそうだ。それだけならばまだ良いのだが、中には見当違いな質問をする人もいる。

・今朝、私が食べた朝食は何でしょう?

・行方不明になった息子を探してください。

イタコはこの世とあの世をつなぐ役であり、お祓いや神事を行なうことはしても、行方不明者を探したり、亡くなった動物と交信することは役割に入っていないことを伝える。松田さんの観察によると、ここ10年ほど、人々はどんどん楽な方法を求めているそうだ。

「自分の考えを持たず、イタコにすべてを委ねようとする人、自分は何もしなくても、お手軽に悩みが解決すると勘違いしている人が増えているように感じます。そんな人は、もし望んだ結果が出なければ、『イタコのアドバイスのせいで失敗した』と責任転嫁をするでしょう」

著者はイタコの中にも、これは偽物だろうという人達にも会っている。そうした人達は、基本的な導入部分、たとえば遠い所をよく訪ねてくれた~から、先祖や亡くなった霊は貴方を今でも感謝して見守っている~などの〆に至るまで形式的な答えしかない場合がある。少なからずこうした人達がいるおかげで、スピリチュアルというと胡散臭いという印象も強くなるそうだ。ただ本物のイタコは、絶対に他人が知らないであろう個人的エピソードをはじめから言い当ててくる。

翻訳もさることながら、著者ジョリヴェの描写が秀逸だ。そのためシャーマンたちの儀式の一つ一つが光景として目に浮かぶ。また日本のシャーマンたちがどのようにして霊と対話し、精神的な世界と交信してきたかが本書を通じて体感できる。その話には実生活に使えるトリビアも多い。神社や寺にはカミの時間帯があること。5時以降はお化けの時間だから入らないほうがいい。家族関係の修復には、先祖供養がいちばん効果的だということ。降臨する存在も、先祖の霊から、日本古来の神、仏、ガネーシャなどインド系もいる。ヨーロッパの悪霊は、エクソシストに代表するように悪魔の力が強く凶悪で、比較すると日本の悪霊払い(動物霊や幽霊など)は簡単だそうだ。

シャーマンたちは厳しい生活や儀式から生まれるものでもあり、一方で最初から能力を持って生まれ対応する方もいる。霊魂が入る写真も豊富に掲載されているので、根拠でありながら視覚的にも楽しめる内容だ。沖縄や北海道など地域別に章ごとに区切られているので、その違いも明快である。なにより自然から霊魂を感じる感覚は、スマホに依存している現代人が見過ごしてしまうような発見がある。

シャーマニズムやスピリチュアルに興味がある人だけでなく、こうした事実を含め世界を知りたい人、現代における精神的な豊かさを求める人々にとって有益な一冊だ。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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『決定版-HONZが選んだノンフィクション』発売されました!