『カールシュタイン城夜話』by 出口治明

出口 治明2013年06月07日 印刷向け表示
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カールシュタイン城夜話
作者:フランティシェク クプカ
出版社:風濤社
発売日:2013-02
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よくあることではあるが、先日は、この本のせいで、地下鉄を2駅、乗り過ごしてしまった。カバーも雅趣に富むが、中身はもっと雅趣に富む。1371年、時のローマ帝国ルクセンブルグ家のカレル4世が、首都プラハで毒(?)をもられ、郊外のカールシュタイン城で、静養することになった。同行した古くからの臣下3名が、皇帝の無聊を慰めるため、1週間連続して、毎夜3編ずつ、21編の物語を話して聞かせることになった。アラビアンナイト(千夜一夜物語)やデカメロンのように(やがて、興じた皇帝も、自ら話し手に加わることになるのだが)。老境にさしかかった男4名が話すことは、何か。それは、女性の話を置いて、他にはない。そう、ここで語られた数奇な21編の物語は、すべて夫々に魅力的な女性が主人公となって織り成す「おとぎ話」なのだ。それが、おもしろくない訳がないではないか。

この古代のクロニカルのような物語は、しかし、書かれたのが1943年であったという。第2次世界大戦の真っ最中である。そして、作者の母国、チェコは、ナチス・ドイツの占領下にあった。一見、デカメロンのような艶笑譚の形を取りながら、作者が朗々と謳い上げたのは、チェコの大地の豊かさであり、その美しさであり、カレル4世に象徴されるチェコの人々の高貴な魂の気高さである。そう、これは紛れもなく、レジスタンスの文学なのだ。収容所に入れられたチェコの人々が、この物語をむさぼり読んだというのも、宜なるかなである。

なお、クプカの作品は、これが本邦初訳だという。チェコの文学については疎くて、カフカ、チャペック、クンデラ以外はこれまで読んだことがなかったが、本書を読んで、チェコ文学の豊饒さに、改めて眼を見開かされる思いがした。さっそく、ミハル・アイヴァスの「もうひとつの街」を読んでみたが、これまた毒がたっぷりで、痺れてしまった。本書は、「スキタイの騎士(1941)」「プラハ夜想曲(1943)」に次ぐ、歴史物語三部作の最後の作品だということである。残る2作も、早く読んでみたいものだ。翻訳が待たれてならない。

出口 治明

ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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