『滅亡へのカウントダウン』 - 人口バランスのイノベーションを求めて

内藤 順2014年01月01日 印刷向け表示
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滅亡へのカウントダウン(上): 人口大爆発とわれわれの未来
作者:アラン ワイズマン 翻訳:鬼澤 忍
出版社:早川書房
発売日:2013-12-19
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滅亡へのカウントダウン(下): 人口大爆発とわれわれの未来
作者:アラン ワイズマン 翻訳:鬼澤 忍
出版社:早川書房
発売日:2013-12-19
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新年早々、なかなか刺激的なタイトルだが、陰謀論めいた話でもなければ、悲観論のみに終始した内容でもない。

新しい年を迎えると、人は「おめでとう」と言う。友人や知人に赤ちゃんが誕生しても「おめでとう」と言うだろう。だが、そんな身の回りの「おめでとう」の集積が、社会や世界全体で見た時にも、本当に「おめでたい」状況になっているのか。そこには、直視しなければならない現実がある。

ホモ・サピエンスが初めて姿を表してから、人口が10億人に到達するまでにかかった時間は20万年。その後のわずか200年余りで人口は約70億人までに膨らんだ。そしてその勢いは留まるところを知らない。もしも人類がこのまま軌道修正をしなければ、2100年の人口は100億人以上になるのではないかという予測もあるほどだ。

その数値を目にした時、誰しもが頭に浮かべるのは次の問いかけだろう。はたして地球は、人口の総数を収容できるのだろうか?そして、それは持続可能性のあるものだろうか?

著者は『人類が消えた世界』でおなじみのアラン・ワイズマン。前著は思考実験の書であったが、今回は中国、ニジェール、インド、ヴァチカンなどの様々な国を実験室さながらに観察し、各国の現状を描き出す。人口が直面している課題は国ごとに様々。そして、その課題を生み出すファクターも、政治、宗教、倫理、科学と千差万別なのである。

イスラエルの超正統派ユダヤ教徒には、平均して一家族当たり7人弱の子供がいるという。そのせいで、エルサレム最大の街区では人の多さに押しつぶされて街が荒廃し、1/3を超える世帯が貧困ラインを下回る。彼らの目的は、自分たちの宗派の勢力を拡大するということ。要は宗教上のファクターによる人口レースが、人口過剰の大きな要因となっているのだ。

一方、イギリスの人口増加は歴史的な要因に端を発する。増加する人口の2/3以上が、旧植民地からの外国人移民とその子供たちなのだ。過去200年にはなかった速さでの人口増加は、インフラ面における大きな問題を引き起こしているほか、増加するイスラム教徒に対する警戒心が、新たな人種問題につながる徴候も見え始めている。

さらに特異なケースとしては、イランの例が紹介されている。女性1人あたり約9人という生物学的には限界寸前であった出生率が、たった10年間で途上国の最低レベルの2.1人にまで下がったというから驚く。彼らがやったことは、あらゆる避妊手段を無償で提供したほか、メディアを通じてのキャンペーン、結婚前の講習など、至極真っ当なことばかりである。また、女性の教育向上や出産の決定権が人口に大きな影響を与えているという因果関係が見られるのも興味深い。

このような人口の問題が表面化するまでに、歴史的にはいくつかのイノベーションが存在した。その一つが1913年にドイツ人の手によって為された農業技術のイノベーションである。ハーバー・ボッシュ法と呼ばれる手法により、空気中の窒素を捉え、人口肥料をつくることが可能になった。もしこの人工的な窒素肥料の道が拓かれなければ、世界の人口は当時の20億人程度に留まっていたのではないかとも言われている。

そしてこれらの人口に大きな影響を与えた人物が、光と影の両面を併せ持っているのも特徴的だ。ハーバーとボッシュが果たした農芸化学の発展が、二つの世界大戦を長引かせる要因にも大きく貢献したことは有名な話であるし、人口論の大家とされるマルサスも陰鬱であるという批判を受け、今なお評価の分かれる人物である。

それだけ人口をめぐる問題というのは、一筋縄ではいかない難解なテーマと言えるだろう。単一の分野や、特定の国に閉じた視点では見えてこない問題が多々あり、読み進めるほどに一個人に出来ることなど何もないという無力感を感じたほどである。だが本書の後半、一章の分量を割いて記述される日本のパートを読むことで、少し考えも変わった。

先進国において多産多死から少産少死へと転換する、最初の国としての日本。日本が直面する課題は、これから多くの国が後に続く問題だ。それは同時に「人間は成長なしに繁栄出来るだろうか?」という大きなテーマを我々に突きつける。世界の人口問題を、実験室さならがらに見ていると思っていたのだが、実験室はこちらの方であったということだ。

日本の未来を語る著者の論旨は、居住地としての地方の魅力がこれまでなく増していくというものだ。小規模で地元に根差した市場が新たな魅力を得て、繁栄という語が再定義され、絶え間ない集積ではなく、週あたり労働時間の短縮と生活の質が重視される。描き出されているのは、そんな明るい社会像への兆しだ。

人口を増やすだけでも減らすだけでもなく、均衡を取り続けていくことの難しさ。適正値がどこにあるのかも分からないし、それが変動することへの難しさもあるだろう。だが、どんなに世界規模の複合的な要因による課題であっても、全てのことを同時に解決する必要などない。何か一つの大きなファクターがきっかけとなり、連鎖的に解決されていくはずなのである。そう考えると、日本におけるマインドセットの転換というのは、世界の人口問題を解決するための重要なインジケーターになるのではないかと思う。

様々な領域に及ぶテーマであるがゆえに、本書のメタアナリシスに沿って概況を俯瞰していくことは、自分自身との接点を見出しやすくしてくれる。待っていれば誰かが何とかしてくれるという姿勢が思いっきり前のめりに変わる本書を、2014年最初のオススメ本にしたい。

最後になりましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします!


2052 今後40年のグローバル予測
作者:ヨルゲン・ランダース 翻訳:野中香方子
出版社:日経BP社
発売日:2013-01-09
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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