ユニークで面白い出版社30社リスト

2012年2月25日 印刷向け表示
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同窓会で出会う旧友や出版とは全く無縁の人と会うと、「宝島みたいだね」と言われる事が多いハマザキカクです。確かに一世を風靡した『別冊宝島』の様に、難しいテーマを手柔らかに取り上げるイメージが似ているかもしれません。

 

ただし宝島社は今では大手出版社。そもそも一般人が名前を言える出版社は講談社、小学館、集英社、せいぜい幻冬舎や学研、ポプラ社など大手数社ばかり。それ以外の社会評論社の様な出版社は、世間での知名度は無に等しい事を日々実感しています。

 

そこで今回の「ハマザキ書ク」では一般人の間で「宝島っぽい」と一括りにされそうな、数々の雑学サブカル風な雰囲気を放つ、オモシロ企画型出版社を紹介していきたいと思います。出版社にはそれぞれカラーがあり、自分の感性と合う編集者が在籍している出版社からは、同系統の本が沢山出されているので、本を選ぶ時、「出版社買い」も十分成り立ちます。

 

またよく「他にハマザキカクっぽい編集者いないの?」と聞かれるのですが、言ってみれば今回公開する出版社は、私が新刊情報を全てチェックしたりしている毎日の中で、「似ているなー」と親近感を抱いていたり、「一本取られた!」と歯ぎしりして悔やんでいるリストです。

●彩流社 個人的に最も親近感とライバル意識を持っている。数々の共産趣味、軍事趣味、外交史本を出している。『世界軍歌全集』とほぼ同時に『軍服の歴史5000年』も出版した。軍事マニアである営業部長が編集業務も行っている事で知られる。名著『第二次世界大戦とフランス領インドシナ』を重版して欲しい。

 

●スタジオタッククリエイティブ 編集プロダクション風の目立たない名前で、スポーツやバイク物がメインだが、その影でオリジナリティ溢れる企画が多い。『バク転完全攻略本』や『本格ゴム動力飛行機』等。『漢字で書く「欧米男子の名前・550例」』に激しく嫉妬した。

 

●東洋書店 サブカルチャーという訳ではなく、ロシア東欧専門出版社だが、『ユーラシア・ブックレット』は結果的に共産趣味者ウケするラインナップが勢揃い。『ロシアの旧秘密都市』『旧「満州」ロシア人村の人々』『ロシア・ジャズ』『ロシアカメラの世界』『ロシアの宇宙開発の歴史』等、何でも「ロシア」と付くだけで興奮する。

 

●アスペクト 現時点で最も大量にサブカル本をリリースしていると思われるアスペクト。『こどもの発想。』や『東京R不動産』『死ぬかと思った』『ケータイのデザイン』など軽やかテイストの珍サブカル本が多い。

 

●戎光祥出版  仏教系の出版社だが『エレベスト』『ザ・東京銭湯』『土着喫茶TOKYO』等、昭和レトロ本や建築関係の本を多数出している。最近なぜ『カダフィに狙われた男』を出したのか気になる。

 

●グリーンアロー 今はなくなってしまったが『超合金・ポピニカ大図鑑』『デジタル・ウオッチ大図鑑』『世界のミニカー・コレクション』『カシオGショック大図鑑』『スニーカー大図鑑』『世界の珍飛行機図鑑』等、珍図鑑を大量に刊行していた。

 

●現代書館 社会評論社と雰囲気が似ている硬派な社会派出版社。社長がコワモテで格好いい。その一方、『FOR BEGINNERSシリーズ』や『シリーズ藩物語』等、お手軽入門雑学シリーズも出している。『伝説となった国・東ドイツ 』等、海外事情本も多く、社会評論社と著者が被る。

 

●ゆめみ~あい 書泉グランデやコミケ等でしか買えないが、『枢軸同盟国 軍装写真集』や『ヘルマン・ゲーリング師団写真集』等、とてつもなく第二次世界大戦マニアのツボを刺激する資料を出している同人誌。

 

●東京書籍 教科書の東京書籍は一般人は知らないかもしれないが、建築及び食べ物系サブカル書を量産している。『工場萌え』『胸騒ぎのデパート』や『団地の見究』『東京 五つ星の手みやげ』『塩図鑑』等。敏腕女性編集者が在籍。

 

●ロコモーションパブリシング 二年以上新刊が出ていないが、ハマザキカクと似た趣味本を連発していた。『お笑い北朝鮮』『缶詰マニアックス 』『イロブン 色物文具マニアックス』等。

 

●東京堂出版 超老舗だが大全系珍企画や交通書、マジック本が多い。『カードマジック』や『鉄道ファンのためのトレインビュー・ホテル』『イギリス英語の悪口雑言辞典』等、切り口斜め企画多数。実物が神保町の同系列の東京堂書店で見られる。

 

●ピエ・ブックス/パイインターナショナル アート・写真系の出版社で、最近は『世界のタワー』や『世界のパンチカラー配色』『世界の寺院』『世界の衣装』『世界の家』『世界の水辺の町』『世界の路面電車』『世界のポスト』等、「世界の~」絶妙企画乱発。『世界の女子高生』出してくれないかな?

 

●青弓社 絶妙な社会学書・人文書を多数刊行している。『女はポルノを読む』や『媚薬の博物誌』等、一見マジメに見えていかがわしい企画も多い。『ノイズ・ウォー』や『性の猟奇モダン』等、Merzbowで知られる秋田昌美氏の本を多数刊行。

 

●ブルースインターアクションズ(P-Vineブックス) 『TOKYO TOILET MAP』『TOKYO大学博物館ガイド』『TOKYOこだわりの学食』『世にも奇妙な職業案内』 等、予算があればハマザキカクがやっていてもおかしくない企画目白押し。バックに音楽業界。だいぶ昔に名著、根本敬『豪定本 ザ・ディープ・コリア』を出している。

 

●悠書館 社歴は浅いが『鉄道の世界史』『世界の国歌総覧―全楽譜付き』『品種改良の世界史』等、マニア心をくすぐるハマザキカクっぽい企画が多い。会社も近い。

 

●産業編集センター ハマザキカクが勝手に「女子系共産趣味」と呼んでいる出版社。『かわいい~』で知られる東欧雑貨モノが多い。『チャルカの東欧雑貨買いつけ旅日記』『ベルリン―東ドイツをたどる旅』『カナカナのかわいいロシアに出会う旅』等。

 

●メディア総合研究所 『ブラック・メタルの血塗られた歴史』や『アメリカン・ハードコア』『アナキストに煙草を』等、過激音楽本多数。

 

●春風社 メイン部門ではないと思われるが、『日本初の海外観光旅行』『「敵国語」ジャーナリズム』『英語になった日本語』など一帰国子女として気になる日本の対外関係史本が多い。社長の三浦衛氏の『出版は風まかせ』が面白い。同社の矢萩多聞氏の装幀はどれも素晴らしい。『ドイツ・ロックの世界』も出している。

 

●データハウス 知る人ぞ知るキワモノ出版。『ハッカーの教科書』や『脱税ハンドブック』『大人の怪しい実験室』『「ゲテ食」大全』等、危なっかしい本が多い。アダルトや便乗本を出しまくる事でも知られる。

 

●創土社 『ケンブリッジ版世界各国史シリーズ』の版元で知られるが、『ナチス・ドイツ、IGファルベン、そしてスイス銀行』等のナチス物や『徳王の研究』や『汪兆銘政権と新国民運動』等、中国傀儡物も出しており、関心分野が似ている。『歴史を変えた100匹の犬』等、たまに突然変異的な企画も。中野区鷺宮というやや変な場所に位置するのも特徴。

 

●バジリコ 出版業界で知らない人はいないと思うが、一般的に知られているかは不明なので一応明記。『へんないきもの』『南極1号伝説』『生き延びるためのラカン』等で知られるが、私は『韓国の「変」』が愛読書。社長が有名。

 

●青幻舎 この場で取り上げなくても良いぐらいの名門アート出版社だが、しばしハマザキカク本がAmazon「この商品を買った人はこんな商品も買っています」で鉢合わせ。『昭和ちびっこ広告手帳』『非常階段東京』『ラジカセのデザイン』等が素敵。パラパラブックスもお薦め。

 

●情報センター出版局 指さし会話帳で知られるが、一時もの凄い勢いでサブカル書を出していた。『午後のハレンチティータイム』や『時空旅行ガイド大上海』等女子系のサブカル書が魅力的。特に渡辺満里奈風アジア本が強い。

 

●第三書館 『ザ・暴走族』を企画しただけあって、目の付け所がスゴ過ぎる。『公安テロ情報』や『写真集・大震災で壊れた建造物』等、本にしようと思う発想自体が驚異的。『マリファナ・ハイ』『ザ・秒殺術』等、違法系やカダフィーの『緑の書』等、中東物も多く、ハマザキカクと非常に似ていると個人的に思っている。

 

●TOブックス サブカルチャーの新興勢力として注目している。『ザ・テレビ欄』『ロック・コネクション』『ガスタンク・グラフィティ』等。フランス人の営業マンが在籍していたはず。

 

●東洋書林 重厚で高級感漂う「図説系」翻訳書が多い。『図説 プロイセンの歴史』『ボクシングの文化史』『図説 海賊大全 図説』『お金の歴史全書』『世界音楽文化図鑑』。最近の『ベルリン 地下都市の歴史』『 ニューヨーク地下都市の歴史』等、地下都市系も注目。

 

●アートン ハマザキカクが編集者として尊敬する高井ジロルさんの『新しい世界地図』や『新しい外国語辞典』、石黒謙吾さんの『ベルギービール大全を出していた』。その後、紆余曲折あり。

 

●新紀元社 プラモデルやファンタジーの老舗でF-Filesとして知られるが、『OTACOOL』や『身長文庫 』等、珍企画がたまにある。

 

●リイド社 言うまでもなくゴルゴ13の出版社だが、数々の絶妙なナチスオタク本を多数出している。特にナチスの外国人部隊を扱った『HITLER’S FOREIGN DIVISIONS』は個人的にお薦め。本社は高円寺。

 

●暗黒通信団 同人誌集団だが『円周率1000000桁表』や『素数表150000個 』等、愉快犯的なセンスが非常に優れている。出版社になったら大変な脅威。

 

以下は選定候補に挙げていたのですが、どうしてもハマザキカクとの共通点を一言で表現しづらかったので、割愛しました。しかしいずれも面白い本を沢山出しています。

 

ブックマン、アルファポリス、東邦出版、彩図社、未知谷、グラフィス、ポット出版(尹くんゴメン……)、赤々舎、五月書房、立花書房(別の意味で)、言視舎、ファイドン、鉄人社、楽工舎、長崎出版、晶文社、国書刊行会、等々多数。

 

●極力世間でのプレゼンスの低い出版社に興味を持って貰いたいので、いかに面白い企画を出版していても、『出版ニュース』2011年五月中・下旬号に掲載されてある「出版社別新刊書籍発行点数」リストの中で上位100以内にランクインしている出版社を除外しています。具体的に言うと以下の様な専門的なジャンルを確立した出版社は、一般人でも知っている可能性が高く、私が紹介するまでもないので、敢えて取り上げませんでした。

 

太田出版、イースト・プレス、洋泉社、新人物往来社、イカロス出版、エイ出版、ネコパブリシング、白夜書房、グラフィック社、日本文芸社、扶桑社、コアマガジン、柏書房、ミリオン出版、三才ブックス、創元社等です。

 

●また思想書や歴史書で個人的には相当好きでも、サブカルチャー風味を全く感じさせない専門書出版社も省略しました。以下の出版社はいずれもお勧めです。

 

木鐸社、行人社、風行社、御茶の水書房、刀水書房、日本経済評論社、錦正社、以文社、松籟社、八朔社、青土社、晃洋書房、論創社、南窓社、元就出版社、人文書院、水声社、而立書房、世界書院、岩田書院、新曜社、八坂書房、勉誠出版、千倉書房、並木書房、明月堂書店、春秋社、吉川弘文館、藤原書店、明石書店、勁草書房、作品社、芙蓉書房出版、三元社、原書房、書肆心水、月曜社等。

 

今回の「ハマザキ書ク」コラムは『日本の出版社』(出版ニュース)を元に気になる全ての出版社を抽出しました。珍企画を持ち込むに当たってはこのリストに掲載されてある出版社を当たって下さい。それでも駄目だった場合はこの『日本の出版社』に日本で現在活動しているほぼ全ての出版社約4000社が載っていますので、参考にして下さい。

 

また今回取り上げた出版社の中で、既に活動を停止したり、良からぬ噂を耳にする出版社が幾つかあるのも十分承知しています。そして個人的に付き合いのある出版社も多いですが、極力身内贔屓にならない様に、「企画力」という一点だけでピックアップした事をご理解頂ければ幸いです。

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