『ツイッター創業物語』 世界をつないだツイッターは、創業者たちの友情を引き裂いた

村上 浩2014年05月02日 印刷向け表示
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ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り
作者:ニック・ビルトン
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2014-04-24
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 ビズ・ストーンは、200万ドル以上の価値をもつグーグルのストックオプションをあっさりと放棄した。貧しい家庭に育ったビズの貯金はゼロだったが、迷いなどなかった。この2005年時点で既に巨大企業となっていたグーグルで、これ以上ビジネスライクな人間と堅苦しいルールに縛られて生きていくことなど、ビズにはとても耐えられなかったのだ。グーグルを去ったビズは、憧れの人であり、元上司でもあるエブ・ウイリアムスのプロジェクトへと参加する。自らが惚れ込んだ価値観を実現するイノベーションを仲間とともに追いかけることは、200万ドル以上の価値があるとビズは確信していた。

2007年、ビズはエブに一通のメールを書いていた。それは、注目を集め始めた新サービス・ツイッターでの自分の役職を“共同創業者”とするよう依頼する、極めて政治的で、2年前の自分が最も忌み嫌っていた類のメール。200万ドルよりも“やりたいこと”、“仲間”を選んだビズの内面に、どんな変化があったというのか。そして、変わったのはビズだけではない。ビズを変えてしまったこのツイッターは、それを生み出した創業者達の友情を、思考を、そして人生そのものをがらりと変えてしまうこととなる

本書は、『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』や『グーグル秘録』のようなアメリカ発世界的IT企業の実像に迫ったこれまでの本とは、大きく趣が異なる。それは本書の主題が、ツイッターの成長戦略の分析や将来予測などではなく、創業者達の友情関係にあるからだ。とてつもない権力、お金、そして世界への影響力を求める仲間内の争いは次第に過激になっていき、ある者は表舞台から姿を消し、またある者は仲間を裏切る。ツイッターの成長と比例して、彼らたちの心の隙間は取り返しがつかないほどに深くなっていく。

ベンチャーキャピタリストとして成功した後アマゾンを創業したベゾスや熟練経営者シュミットをCEOに迎えたグーグル創業者とは違い、ツイッター創業者達はハッカー精神を携えたままの若者として世界と向き合ってしまったのだ。

超スピードで成長するツイッターの物語は、どんな昼ドラよりもドロドロして、どんな大河ドラマよりもスケールが大きく、どんなハリウッド映画よりも劇的だ。美人社員をめぐる争いがあり、アル・ゴア元副大統領やメドベージェフ大統領が登場し、たった数年間で2度もCEOがクーデターで退陣したといえば、彼らが巻き込まれていった事態の大きさが想像できるだろうか。もちろん、友情物語を追いながらも、ツイッターがどのように生み出され、メディアの役割をどう変えたのか、という点も明らかにされていく。

ツイッター誕生の核心に迫るために著者は、創業者達や役員はもちろん、彼らの家族や友人、さらには近所のカフェ店員にまでインタビューを行ったという。各人の証言は様々な矛盾をはらんでいたが、物語を再構築するための柱となる、動かし難い証拠があった。彼ら自身のツイートである。本書は、ツイッターだけでなく様々なSNSでの発信内容を手掛かりとして描かれた、SNS勃興時代を象徴する一冊でもあるのだ。効果的に挿入される彼らのツイートによって、その瞬間における彼らの思考、感情が生々しく伝わってくる。

1日に5億件のツイートが発信されるほどにまで拡大したツイッターだが、初めてその存在を知ったとき、「これはいったい何なのか?」と不思議に思った人も多いはずだ。「どこに行ったか、何を見たか、などを発信することの何が面白いのか?」と思ったとしても無理はない。ツイッターを生み出した創業者達自身も、サービス立ち上げ後しばらくツイッターの意味を理解できていなかったのだから。

エブは、ツイッターを「“なにが起きているか”を伝えるもの」ととらえていた。ツイッターの名付け親でありながら、ツイッター社公式創業物語からその名を消されたノア・グラスは、ツイッターを「孤独を味わっている人々を結び付けるようなサービス」と考えていた。ツイッターのアイデアの原型は、初代CEOのジャック・ドーシーによる、「現在の状況をひとびとが共有できるようなちょっとしたサイトの構想」にあった。これらのコンセプトだけを聞いても、現在のツイッターの姿はとても想像できない。

ツイッターは、iPhoneのように創り手のビジョンが人々の潜在的ニーズをピタリと突いたのではなく、創業者たちにすら想像できない人間の本質的欲求を刺激したのだ。そのため、ツイッターの使われ方もユーザー主導でどんどんと拡張・進化してきた。たとえば、人々にメッセージを飛ばす@や、話題を共有するための#はユーザーによって提案されたものである(しかも、創業者達はこれらの機能は不要だと考えていた)。

失敗や挫折、仲間との別れに見舞われながらも全力で走り抜ける彼らの姿は、更に多くの若者をシリコンバレーにひきつけるはずだ。ツイッター創業物語は、資産も学歴もない若者が一攫千金を目指して集まった場所だからこそ起こりえた物語だとも思える。彼らがたまたま近所に暮らし、様々な偶然の導きによって出会っていなければ、ツイッターは存在しなかった。しかし、著者の巧みなストーリーテリングのおかげで、彼らの物語は「遠い海の向こうのお話」以上の力を持つ。本書を読み終えると、自分にとってお金とは、仕事とは、仲間とは何かを考えずにはいられなくなる。

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グーグル秘録 (文春文庫)
作者:ケン オーレッタ
出版社:文藝春秋
発売日:2013-09-03
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ツイッター創業たちも、グーグル創業者が熟練経営者のエリック・シュミットをCEOに迎えたように、経営のプロを受け入れていれば全く違った結果が得られたのではないか。グーグルの真の凄さが垣間見える一冊。成毛眞による文庫版解説はこちら。 

ジェフ・ベゾス 果てなき野望
作者:ブラッド・ストーン
出版社:日経BP社
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 何とも人間臭く、親近感さえ覚えるツイッター創業者とは異なり、ベゾスは全く異次元の超人のように思える。ベゾス率いるAmazonはどこまで世界を変えてしまうのか。編集者のワンコイン自腹広告はこちら

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
作者:デビッド・カークパトリック
出版社:日経BP社
発売日:2011-01-13
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『ツイッター創業物語』にも登場するザッカーバーグはどのようにフェイスブックを世界一のSNSへと成長させたのか。成毛眞によるレビューはこちら

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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