『謝るなら、いつでもおいで』佐世保小6同級生殺害事件から10年…

東 えりか2014年06月06日 印刷向け表示
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謝るなら、いつでもおいで
作者:川名 壮志
出版社:集英社
発売日:2014-03-26
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 学校の中の事件は、なぜかいつも心が痛くなる。小学生のころ、今のイジメのようなものではなかったが、つまはじきにされた記憶が蘇るからだろう。原因はわからず、誰にも相談できず、私は悩んだ末、親玉になっている子に直談判に出かけた。私が何かしたのか、という問いの答えがあまりにも的外れで、簡単に誤解が解けたことでこの事件は集結した。半世紀近い昔のことなのに、心臓が破裂しそうだったことはよく覚えている。

「神戸連続児童殺傷事件」(酒鬼薔薇事件)にしても「山形マット死事件」にしても、なにが引き金になったのか大人たちは皆目わからず、現実を目の前に突き付けられて右往左往するしかなかった。

「佐世保小6同級生殺害事件」もまた、同級生の少女が、友人の少女の首をカッターナイフで切り裂くという、前代未聞の事件に世間は驚愕し原因解明を求めた。

その事件は2004年6月1日に起こる。佐世保市立大久保小学校で6年生の少女がが同級生を別室に呼び出しカッターナイフで殺害した。被害者の名は御手洗怜美。父親は毎日新聞佐世保支局長、御手洗恭二。3年前に妻を癌で亡くし、大学で家を出ている長男を除いて、中学3年の次男と末っ子の怜美との3人暮らしだった。

佐世保支局は小さく、3階建の小さな社屋で、1階は支局員4人の駐車場、2階の職場は事務デスク6つ並べば一杯のワンルーム、階段を上がった3階が支局長の住まいになっていた。御手洗にすれば仕事場であり自宅。子供たちは帰宅すれば、仕事場に顔を出して言葉を交わし、ときには3階に上がって一緒に食卓を囲むこともある。怜美は、支局員にとっても極めて身近な存在だったのだ。

小学生少女が同級生の首を掻き切るという、極めて残忍で猟奇的な事件は、当然のことながら世間の注目を浴び、こののどかで小さな佐世保支局は嵐の中に放り込まれたような状態になった。

新聞記者という立場から、事件直後に記者会見した御手洗は、その後現場から離れ身を隠した。

著者の川名壮志は大学を卒業して4年目の駆け出し記者。家族のように付き合っていた少女の死は、川名自身の精神もおかしくしていく。事件の背景を追い、助っ人の先輩たちとこの事件の謎に迫ることに没頭した川名は、他人事のように報道されていく記事を、ただ機械的に書いていった。

今、思い返すと、あの事件の報道はかなり正確だったようだ。仲間の身内が殺されたという弔い合戦のような気分もあったかもしれないし、11歳という少年法にも問われない児童の事件だったということもあるだろう。ちょうどインターネットが普及し始め、小学生でもメールやブログなどすることが当たり前になり、大人の見えないところでのイジメやハブ、仲間割れが起こり、この事件につながったものだと思われた。

加害少女はパソコンが得意で、ホラー小説が好き。その頃、流行っていた『バトル・ロワイヤル』をモチーフに自分でも小説を書いていたという。怜美を殺した手口も、まさに『バトル・ロワイアル』そのままだ。

加害少女は被害者に対して最後まで謝罪の言葉を持たなかった。結論として発達障害と診断され、施設に収容された。そこで専門の精神科医によって、更生の道をたどり始めた。

本書の読みどころはここからである。

川名は、それから10年をかけて。関係者の胸の内を取材していく。父親の御手洗恭二、加害者の父親、そして何よりも重要だったのは怜美の兄の証言だった。

母を亡くした二人の兄妹は、とても仲良しだった。仕事で忙しい父の代わりに、妹の悩みの相談に乗っていたのも兄だ。可愛がっていた妹が殺されたとき、その兄も一度壊れてしまった。本当なら、事件直後に彼からいろいろなことを聞くべきだったのだろうが、大人たちは腫れ物に触るように彼に対した。

川名に初めて語ったことで、その兄もまた新しい一歩が踏み出せるのだろう。

加害少女は20歳を超えた。施設を出て、今はどこかでひっそり暮らしているはずだ。

どこかの書店でこの本を見つけて手に取ってはいないだろうか。よく生きるために、開いて読んではくれないだろうか。

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でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相 (新潮文庫)
作者:福田 ますみ
出版社:新潮社
発売日:2009-12-24
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 先日、本の雑誌の「事件ノンフィクション特集」で仲野徹と対談した折、ふと思い立って新潮社のHPを見に行き、驚愕の事実にぶち当たった。

2003年、全国で初めて「教師によるいじめ」と認定される体罰事件が福岡で起き、生徒に向かって「はよ、死ね」と毒づいたという殺人教師が、マスコミの標的となった事件だ。しかしこれは、今ではモンペと呼ばれる非常識な親が起こした信じがたい事件である、という立場から本書はつづられている。

全面的に否認していた教師だったが、教育委員会から停職6か月という厳しい処分を受ける。事実関係を争っていた市と教育委員会だが、再審までは教師の無実を証明できず、反対に著者に対して、この本自体がでっちあげだ、という罵倒まで飛び交っていた。

私は福田ますみという書き手を信頼していたので、事実が明らかにされないのをとても残念に思っていたのだ。

しかし、2013年、去年の春、教師の無実が認められた。詳しくはここの下部にある『でっちあげ その後』を読んでほしい。冤罪の恐ろしさをまざまざと見せつけられた恐ろしい一冊になった。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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