『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』 未来は変えられるか?

村上 浩2014年09月02日 印刷向け表示
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地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)
作者:増田 寛也
出版社:中央公論新社
発売日:2014-08-22
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5年ほど前、通っていた小学校が廃校になった。私が通っていた20数年前にも全校生徒数は70名弱だったというのに、30代となった同世代のうち今も地元にとどまり子どもを育てているのは数名だというのだから、当然ともいえる結果だ。小学校の次は何がなくなるだろうか。パンチパーマのオヤジがやっていた床屋だろうか、帰り道に寄っていた駄菓子屋だろうか。30年後には街そのものがなくなっても不思議ではない、帰省するたびにそんな思いが強くなっていた。

人であふれる東京で暮らしていると想像し難いが、似た状況に陥っている日本の自治体は少なくない。著者らが全国の人口データを分析した結果、「消滅可能性都市」とされた自治体は全自治体の半数にも及ぶ896である(消滅可能性都市の定義は、2010年を基準として2040年までに20~39歳女性が5割以下に減少する自治体)。消滅可能性都市のリストは本書の巻末にも収録されており、日本創成会議のHPでも公開されているので、是非あなたの出身地、縁のある場所の未来を確認して欲しい。ほとんどの都市が大幅に人口を減らすという予測に驚くはずだ。

日本にとって、「人口減少」は将来の危機ではない。著者の試算によれば、全国794市区町村においては、すでに高齢者人口も減少が始まっている。「人口減少」は今、現在の問題なのだ。そして、「人口減少」は本腰を入れれば来年にでも解決できる問題でもない。もし2030年に出生率が2.1まで回復したとしても、人口減少に歯止めがかかるのはさらに60年後の2090年頃になるという(この場合の安定人口は9900万人)。どれほど有効な解決策を採ったとしても、その効果が現れるまでに数十年という単位の時間がかかってしまう厄介な問題なのだ。

少子高齢化が日本の最重要課題の1つであることは認識されているはずだが、これまでに効果的な施策が打たれてきたとも、解決に至るための議論が成熟してきたとも言い難い。本書には、戦後日本の人口動態の変化、現在の延長線上に予見される悲惨な将来、そしてそんな未来を変えるための提言がまとめられている。

著者は人口減少をめぐる議論に多くの誤解が含まれていると指摘する。「人口減少は地方の問題であり、東京は大丈夫」、「近年、日本の出生率は改善しているので、このままいけば自然と人口減少は止まる」、そして「海外からの移民を受け入れれば、人口問題は解決」など。これらの認識はすべて誤りだという。本書は豊富なデータによって、これらの言説を検証していく。

本書では主に「出生率の低下」と「人口移動」という2つの視点から、日本の人口減少を分析していく。出生率の低下だけでなく、地方から大都市圏への人口移動も日本における人口減少の大きな原因となっているのだ。

1954~2009年の間に、1147万人もが地方から大都市圏へと移動した。居住地を移動するだけでは人口は減少しないが、出生率は地域依存性が大きい。そして、人口稠密地では出生率が低くなるのだ。2012年の出生率をみても、東京の1.09という数字は全国平均の1.41を大きく下回っている。地方から人を吸い寄せながらも人口の再生産を行わない東京を、著者は「人口のブラックホール」と呼ぶ。現在の東京一極集中が危険なのは、それが格差をもたらすからでも、地方の自然を守る人がいなくなるからでもなく、持続可能ではないからだ。東京に人を送り続けた地方が消滅すれば、人口の再生産を行えない東京は衰退するしかない。

「産めよ殖やせよ」は避けなければならないが、2010年の出生動向基本調査では、既婚夫婦の「理想の子ども数」は平均2.42人、「予定子ども数」が2.07人であるという。つまり、子どもをめぐる望まれる状況と現状には大きなギャップがあるのだ。しかし、財政赤字を積み上げ続ける日本には「すべての集落に十分なだけの対策を行う財政的余裕はない」。何を捨てるべきか、という痛みを伴う決断を我々は主体的に選んでいかなければならない。本書の巻末には、地方でこの問題と向き合う須田善明・宮城県女川町長や国政から進むべき道を模索する小泉進次郎・復興大臣政務官等と著者との対談も収められている。

映画館や書店はおろかコンビニすらない地方で育った私にとって、東京は夢のように便利な街だ。次々と新しいレストランがオープンし、深夜まで数分間隔で電車が走り、常に新たな刺激をもたらしてくれる。通勤時の混雑や家賃の高さには辟易するが、地元に帰りたいと思ったことは一度もない。三井住友信託銀行の試算によると今後20~25年の間に、地方の親世代から東京圏の子ども世代への相続によって51.4兆円もの資金が移動するという。あらゆるものを吸い上げ続けた東京は何を生み出すことができるだろうか。あらゆるものを送り込み続けた地方には何が残るだろうか。「地方消滅」という未来は変えられるだろうか。

年収は「住むところ」で決まる  雇用とイノベーションの都市経済学
作者:エンリコ・モレッティ
出版社:プレジデント社
発売日:2014-04-23
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学歴や人種より、「住むところ」が年収を決める?どのような場所で、どのようにしてイノベーションがもたらされるか、イノベーションはどのように波及していくか。これからのクリエイティブ都市のあり方も議論される。レビューはこちら

人口回復 出生率1.8を実現する戦略シナリオ
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出版社:日本経済新聞出版社
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