『元素変換』

成毛 眞2014年12月06日 印刷向け表示
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元素変換現代版<錬金術>のフロンティア (角川EPUB選書)
作者:吉田 克己
出版社:KADOKAWA/中経出版
発売日:2014-10-09
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この夏、核融合研究の取材のため、浜松ホトニクス開発本部大出力レーザー開発部の菅博文部長にお目にかかったときのことである。

成毛さん、核融合も面白いですけど、元素変換も面白いですよ

と、おっしゃった。はっ?元素変換!?

核融合だけでも未来の夢の技術というイメージだったのだが、元素変換となると、夢というよりもオカルトっぽい感じがする。ニュートンも研究していたという、卑金属から貴金属を作り出すあの錬金術こそが元素変換なのだ。

太陽の中では水素を原料として熱核融合が行われている。太陽は比較的に軽い恒星なので、炭素あたりまでの軽い元素を作り出して、一生を終わることになる。いっぽう太陽より数倍重い恒星に中では、比較的重い鉄までの元素が作られる。さらに太陽の8倍以上重い恒星の場合は最後に超新星爆発を起こし、金やウラニウムを含む鉄より重い元素が作る。

原子力発電所の原子炉のなかでも新しい元素が作られている。プルトニウムは自然には存在しない人工の元素だ。しかし、核分裂反応は強烈であり、生成物は危険を伴うものであることは疑う予知はない。このように新しい元素を生み出すというのはじつに大変なことなのだ。

しかし、なんと三菱重工の実験室ではタングステンからプラチナが、セシウムからプラセオジムが日常的に作られているのだ。もちろん、核分裂反応も熱核融合反応も使われていない。加速器を使って中性子を打ち込むようなこともしていない。なんと、パラジウムの薄膜に重水素ガスを通すだけなのだ。

唖然としながら声もなく本書を読みおえた。90年代に似非科学として消え去ったはずの常温核融合は元素変換として復活しつつあるのだ。三菱重工が事業化を無視して基礎研究だけをしているわけではない。トヨタも燃料電池車に大量に使われるプラチナを元素変換で得ようと研究を開始しただけでなく、実験も成功させている。そろそろ工業化のフェーズが見えてきたのかもしれない。

実験室で元素変換された物質はまだ数ナノグラムだ。しかし、19世紀末にキュリー夫妻が1トンのピッチブレント鉱石をすり潰し、精製して得たラジウムも1ミリグラムでしかなかった。実験室から工業化へ向かったときに日本が強いということは実証されている。しかも、この元素変換研究では日本が世界をリードしているという。

この本を読み終えてふとSTAP細胞のことを思い出した。90年代、当時の東大総長だった有馬朗人(のちに文部大臣)が「もし、常温核融合が真の科学的現象ならば丸坊主になる!!」と言い放って常温核融合は学会の片隅に追いやられた。しかし、研究者たちはしぶとく研究をつづけ、常温で重水素と重金属の核を融合される、まさに常温核融合をなし遂げたのだ。もしかするとSTAP現象もあるのかもしれない。だから科学は面白いのだ。

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