著者インタビュー 『桜色の魂』 長田渚左氏 その1 50年前のオリンピックと、次のオリンピックに向けて

東 えりか2014年12月06日 印刷向け表示
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桜色の魂~チャスラフスカはなぜ日本人を50年も愛したのか
作者:長田 渚左
出版社:集英社
発売日:2014-09-26
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長田渚左さんが久々に本を出したと聞いて、すぐに手に入れその場で読み始めた。一気読みだった。スポーツ・ジャーナリストとして、またNPO法人スポーツネットワークジャパンおよび日本スポーツ学会代表理事であり、スポーツ総合誌『スポーツゴジラ』編集長として活躍をしているのは知っていたが、著作が出るのは久しぶりだ。HONZでレビューを書いた後、インタビューを申し込んだところ快く引き受けてくださった。

 

長田渚左氏

― 2020年の東京オリンピックか決まった今年、本書が出たことは大変意味があると思います。長年、ベラ・チャスラフスカさんへ取材され、本人があまり明らかにしたくないこともたくさん書かれています。最初の頃、ベラさん反応はどうでした?快く応じてくださったんでしょうか。

長田 一番驚いたのは、日本で3冊も出ていた彼女のことを書いた本の内容を知らなかった、ということでした。後藤正治さんの本も日本語で書かれてあるし、自分がどう紹介されているのか説明されなかったそうです。ご病気であったということもあるでしょう。本書では過去の本からの引用もあるんですが、「その内容が違う」ということが多くあって再度確認をすることがいろいろありました。

― 今回は出版前に翻訳して読んでもらったんですよね。

長田 チェコ語にして確認を取ったんですが、30年も40年も前の話だから、忘れたり記憶違いもあったりしたでしょう。ですから、本人の確認を取ることが一番大変だった。あとはプライベートなことは神経を使いました。息子と元夫との間の事故について、この本の中では最小限にしましたが、実は全部削除してほしい、と要請もあったのです。事情説明程度は入れるべきだと説得し、あっさり書くことで納得してもらいました。この件は日本人にはあまり関係ないことですから。

その後は自分のことなのにどんどん熱中して読んでだそうで、彼女の忘れていた人や事件を思い出したらしく、小さなことを探し出してきた私のことを「オサダ・シャーロック・ホームズ」と呼んで「自分のことなのに面白かったわ」とよろこんでいましたね。自分の意見とは違うところもある。でもほかの人からみたらそうかもしれない。それは仕方のないことだと、最後は納得していました。

競技に関する彼女の記憶は明晰で、メキシコオリンピックの頃でも、日本の報道はまだいい加減なところが多く、新聞でも競技の順番が間違っていると指摘されました。最初から記録を全部調べ直したのは時間がかかりましたね。

― この評伝は素晴らしいと思うのですが、日本の選手、例えばベラさんが尊敬してやまない東京オリンピックで金メダルを取った遠藤幸雄さんの評伝や記録ですら残っていない。幼い頃に両親と別れた遠藤さんが施設出身者であることは、息子さんも詳しく知らないことで、今回初めて明かされたことですよね。

長田 遠藤さんだけではなく、あの頃の選手の多くについては断片的なものしか残っていないのです。当時、スポーツ選手に日本全部が過度な期待だけをし、成功すれば賞賛するけど、失敗したら袋叩き、みたいな風潮はあったでしょうね。

百メートル走の元世界記録保持者・吉岡隆徳という人が頑張って八の字スタートを行ったことも忘却の彼方でしょう。織田幹雄という1928年アムステルダムオリンピック三段跳金メダリストに亡くなる前に最後に取材したのが私でした。以前『こんなに凄い奴がいた』という本を書いたとき、かつての名選手の努力と根性だけで語れない技や工夫を力技で掘り起こしたんですが、今だから言えることがいっぱいあるんですよ。それらを残すのが私の仕事だろうと思っています。

― 今回、東京オリンピックから50周年記念事業の一環として、世界中から当時のメダリストたちをお招きして式典を行いましたね。(10月10日)招待者のなかにチャスラフスカさんもいらっしゃいました。何人ぐらいみえたのでしょう?

長田 それがね、よくわからないんですよ。JOCが招聘したのですが、事前のPRや説明が薄かったと思います。エチオピアのアベベの息子さんとかチャスラフスカさんとか、何人かについてはわかっているんですが、どこの国からどれくらいいらしたか、ニュースなどでほんの短時間流れた程度で、一般の人はほとんど知らなかったんじゃないでしょうか。

なぜそうなってしまったのか、本当に不思議で。チャスラフスカさんについても、この本が出版されることで、NHKの取材など複数ありまたしたが、それも私サイドから持ち込んだ話なんです。別に批判するつもりはありませんが、広告代理店が付いていたならば、JOCは今回のことをもっと大々的に宣伝し、次の東京オリンピックを盛り上げるために使うべきだったと思います。

現在のベラ・チャスラフスカさん

― 当時のオリンピック映像が残っているのですから、対比させたり今の選手と話をしたり、ドキュメンタリー番組の1本なんか簡単にできそうなのに。


長田 あまりパブリシティという概念がなかったんですかね。あるいは公表できない事情があったのかなあ。バスをチャーターして浅草や観光地を巡ったようですが、現地の人もどういう人が乗っているかも知らなかったそうです。ドキュメンタリーについてもかなり前から働きかけていたのですが、不発に終わりました。ただ、チャスラフスカさんだけは別に撮ってもらっています。もしかすると来年あたり、実現する可能性は高いです。

その2に続く)

長田渚左さんと『オシムの言葉』の著者で東欧情勢にも詳しい木村元彦氏とのトークショウが12月10日(木曜日)19:30~池袋ジュンク堂で開かれる。

★入場料はドリンク付きで1000円。当日、会場の4F喫茶受付でお支払いください。
※トークは特には整理券、ご予約のお控え等をお渡ししておりません。
※ご予約をキャンセルされる場合、ご連絡をお願い致します。(電話:03-5956-6111) 

■イベントに関するお問い合わせ、ご予約は下記へ
ジュンク堂書店池袋本店
TEL 03-5956-6111
東京都豊島区南池袋2-15-5

(その2に続く)

こんな凄い奴がいた―技あり、スポーツ界の寵児たち (文春文庫)
作者:長田 渚左
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