珍書の時代 『ヘンな本大全』

足立 真穂2015年02月13日 印刷向け表示
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ヘンな本大全 (洋泉社MOOK)
作者:
出版社:洋泉社
発売日:2015-02-04
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「珍書」。それは、気がつけばいつのまにか成立していたよくわからないジャンル。「本好きが選んだ、思わず笑える怪書ガイド」とのうたい文句の通り、愛すべき奇書150冊を取り上げた本への偏愛ぎっしりの一冊だ。珍書時代がやって来た! のか? とにかくは本の海へダイブ! 

毎年8万という点数の新刊が生み出される日本の出版ワールド。「巻頭言」で“珍書プロデューサー”ハマザキカク氏が書くように、それだけの数があると、確かに「何でこんなテーマで1冊の本になったんだ?」「いったい誰がこんなの読むんだよ?」といぶかる本が書店に並ぶのも不思議ではない。

一方で、1点あたりの出版部数が少なくなるがために、潜在的な読者が数百人でしょう、という挑戦的なテーマの本が刊行される可能性も出てくる。読みたい本が増える時代でもあり、作り手からすると自由に本を出せる時代でもある、というわけだ。厳しくなる側面につい目が行きがちだけれど、ここで私はなるほどと膝を打った。

目次をみると、珍書大賞2014と題してハマザキカク氏が選ぶ受賞作の紹介にはじまる。ちなみに、先月レビューした『東京ラムストーリー 羊肉LOVERに捧げる東京&周辺羊レストランガイド』は「珍料理本大賞」に輝いている。さすが見逃していない。

続いて「ヘンな装丁20選」そして、「人生相談」「ビジネス書」「性愛本」「スポーツ本」「健康本」「ダイエット本」「酒本」「生き物本」「ミリタリー本」「哲学本」「宇宙本」「タレント本」「アイドル本」「セレブ本」「旅本」「犯罪者本」「成り上がり本」「アウトドア本」の各ジャンルについて、それぞれの専門家(というのだろうか、こういう場合)が選んだ本を楽しく教えてくれる構成だ。

途中、「ヘンな書名本」や「ベストセラーあやかり本」などなど、コラムで隙間を埋めることも怠ってはいない。ちなみに、私がいちばんシビれたのは、ハマザキさんと暗黒通信団との巻末対談だけれども……。

なかでも、「ヘンな装丁20選」のひとつ、『D.T.』には読んだ当時の記憶を喚起された。みうらじゅん&伊集院光の両氏が童貞の持つすさまじいパワーを語り合う対談集で、未読の方にはぜひお勧めしたい一冊だが、「童貞をイメージした紙を選んでみました。触れてください」との説明書きが本にあるのだ。しっとりした紙質に、ページをめくる手がアップテンポになるようなスローダウンするような、とほほ……なんともいえない味わいをもたらす効果があった。

また、これだけの各ジャンルを一気に読むことで発見もあった。「健康本」「ダイエット本」ではなぜか驚きがないのだ。これは私だけではないと思うのだが、「巻くだけ」「はくだけ」「貼るだけ」などなど、すぐに口に出せるタイトルが結構ある。つまり、このジャンルの珍度への耐性がすでに読者の中にはできているのではないだろうか。激珍化するこのジャンルで抜きんでるのは、今後は至難の業となっていくにちがいない。

ただし、「珍書」に私が興味を抱いたのには、面白いからというだけではない。自身も書籍の編集をしているのだが、担当した『家族の勝手でしょ! 写真274枚で見る食卓の喜劇』という本をハマザキさんがある日ツイッター上で、ご著作の『ベスト珍書』への未収録本の一冊としてつぶやいていたのだ。これには心底驚いた。なぜかというと、大真面目に作っていたので、当事者である私にも著者にも、珍書制作意識がまったくなかったからだ。

私の担当本が珍書!? この衝撃は経験したものにしかわからないだろう。思えば、写真274枚というのも中途半端ではある。枚数をタイトルに入れることは最初から決めていたのだが、校了間際になって、実は数えた。しかも、その枚数の多さに驚いていた次第。珍書だったのか? 

つまるところ、なにかしら伝えなきゃとがんばりすぎるがゆえに、だからこそ作りこみすぎて陥る罠、それが珍書化なのではあるまいか。そう思うと、この珍書選びというのは、作り手それぞれの努力の成果を見逃さず、迷宮にうずもれそうな本に光をあてる行為なのだ。たぶん。

最後にこの書名を紹介しておこう。コラム「ヘンな書名本」でとみさわ昭仁さんがあげておられた『風邪の谷の直弼』だ。

カゼノタニノナオスケ?どこかで聞いたような音だが、いずれにしても書名からは内容がいっさいわからない。調べると、風邪の民間療法を193種類も紹介するまじめな本のようだ。

そこで私はこう想像する。もしかすると、これも過ぎた努力ゆえに迷宮にはまりこんだ一冊ではあるまいか。逆に言えば、まさに珍書というジャンルでこそ脚光を浴びる一冊だろう。ここでタイトルをあげさせてもらった以上、私は買うことにする。というか、買った。

結果は吉と出るか凶と出るか。でも、本を読むことはいつだってギャンブル。珍書の楽しみは、きっと ここにある。 

ベスト珍書 - このヘンな本がすごい! (中公新書ラクレ)
作者:ハマザキカク
出版社:中央公論新社
発売日:2014-09-09
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D.T.
作者:みうら じゅん
出版社:メディアファクトリー
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風邪の谷の直弼
作者:雑賀 康治
出版社:二見書房
発売日:2005-10-31
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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出版社:中央公論新社
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