『葬送の仕事師たち』モノトーンの彩り、サイレントの響き

内藤 順2015年04月21日 印刷向け表示
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葬送の仕事師たち
作者:井上 理津子
出版社:新潮社
発売日:2015-04-17
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2020年以降の日本が、どのような世の中になっていくのか、気になっている方も多いことだろう。市場全体がシュリンクし、指標となる様々な数値が低下していくことに間違いはないのだが、ピークを迎えるものも少なからず存在する。その一つが死者数だ。

2013年の死者数、約126万人。これが2027年以降には、団塊の世代が80歳代になるため「大量死」の時代が到来すると言われている。2030年には27%増の約161万人、2040年には約167万人という死者数が予測されており、火葬場不足などの事態も現実味を帯びてきた。

そんな未来を間近に控え、葬儀業界が活況を呈しているのかと思いきや、そうとも言い切れないのが実情である。現在1兆6000億円という市場規模だが、家族葬、直葬が増え、合理化を求める傾向が顕著になってきているのだ。さらに今後、平均寿命が延びて死亡年齢が上がると、医療、介護、住まいなど高齢期を生きるために必要な支出が優先され、一件あたりの葬儀費用が下がってくることも必至であるという。

本書『葬送の仕事師たち』は、このような岐路に立つ葬儀業界において、死の現場を支えるプロフェッショナルたちの姿を描いた一冊である。葬儀とは誰にとっても一生に一度しか訪れないライフ・イベントであり、聖と俗を隔てる「結界」のような空間で行われる。その中で裏方として、時には共演者として現場を支えるモノトーン世界の黒子たちーー葬儀学校の学生、葬儀社社員、納棺師、エンバーマーから火葬場職員まで。言わば「弔いの商い」という観点から、現代の「死」を照らし出す。

多様化、カジュアル化といったニーズが見られるのは、ブライダル業界においても同様の傾向である。先日も「結婚式、Amazonで注文できるように」というニュースが報じられていたことは記憶に新しい。だが葬儀において顕著なのは、「遺体の扱い」という大きな制約が立ちはだかっていることにある。

葬式というイベントにおいて重要なのは、スクリーンに流す映像のようなものを作るのではなく、スクリーンそのものを作るようなところにある。参列者たちはその「スクリーン」に在りし日の姿を各々投影し、故人を偲ぶ。それは非常にハイコンテキストな行為なのだ。だから身体性を感じるものが必要とされ、実現にあたっては様々なプロの技術が必要となってくる。

著者は、「死」の周辺に位置する様々な職人たちの仕事ぶりに密着し、その心意気までをも伝えていく。葬儀のプロを志すまでのライフストーリーと、プロになった後で目にする死を取り巻く日常。多感な時期に身の回りの人を亡くし、その道を志すことになった人も多い。若くして「生の中の死」に直面したことが、その運命を反転させるかのように「死の中の生」を生業にすることへと、つながっていったのである。

映画「おくりびと」でも有名になった納棺師たち。遺体の顔を復元することまで請け負う人たちも多く、その仕事ぶりはまさに神業である。遺体に声をかけながら、右の瞼を少し持ち上げ、瞼の裏側と眼球の隙間に綿花をはさんだピンセットの先を滑りこませる。手は休めずに綿花の入っている瞼の表面を軽くつついてふくらみを安定させる。これだけで、くぼみ切ってどろんと開いていた目が、穏やかに眠っているような目元に変貌するのだ。ある復元納棺師はこう言う。

私はご遺体に触れることに全く抵抗がなかったんですね。なぜって聞かれても、理由なんかない。むしろご遺体に美を極限まで追求する喜びのある仕事に魅力を感じた。

火葬を手がける人たちが、口を揃えてこだわっているのが「きれいに焼く」ということ。そのためには機械の運転技術が重要なファクターとなる。火力の調整をし、遺体の状態と炎の色を総合的に判断し、タッチパネルで弁の開閉、炉圧の調整などを行う。炎の色と一口にいっても7段階の目安があるのだという。ある火葬場職員はこう語る。

直葬も引き取り手のない方も、ここで僕らが心を込めて火葬したら、ちゃんと送れると思うので。

このような一人一人のプロの手によって、モノトーンの彩り、サイレントの響き、平穏の造形が構成されていく。全ては葬儀というパーソナルなイベントにおいて、「不在の在」を演出するために。

中でも、近年特に注目を集めているのが、エンバーミングと呼ばれる技術である。動脈に衛生保全液を注入し、静脈から血液を排出することにより、遺体の腐敗を遅らせることが出来るものだ。さらに、損傷した顔のパーツを元通りに修復処置をするなど、生きていたときの姿に極めて近い容貌に甦らせることが可能であるという。

最大の効能は、別れの時間をコントロール出来ることにある。極端な例をあげると、エンバーミングした遺体は、自宅に50日間寝かせておくことも可能なのだ。本書では、この技術を活用しエンバーミング後の遺体とともにドライブを行った30代の女性の話なども紹介されている。エンバーミングの費用は、本書に登場する会社では約12万円。全国でまだ2%程度の普及率というが、これから増えてくることが確実視されている。

このような光景の裏側で、技術の進化と慣習の風化が同時に起こっていることは注目に値するだろう。遺体を扱う技術の進化、それが多様性を生み出し、葬送の市場を慣習の外側へと押し出しているのだ。

それが特殊なフィールドであったとしても、ビジネス世界の在り様は市場の変化を汲み取りながら変貌を遂げていく。例えば介護サービスの企業が葬送ビジネスに進出した等という話を聞くと、ビジネスにおける打ち手としての納得感と複雑な気持ちの双方が入り交じるだろう。業界の動向そのものが、生と死が地続きであることを指し示しているのである。

さらにこの変化は、今後、葬送業界がボーダーレスとなり、再編が加速することも示唆している。弔いの世界に商いの論理が押し寄せ、「結界」は変容を迫られているのだ。その中には、ファスト化や価格破壊といったものも含まれるかもしれない。だが心意気や職業倫理といったものは、変わらずに継承していって欲しい。著者が、葬送の仕事師たちの「心」の部分にフォーカスしている背景には、そんな願いが込められているような気がしてならない。  

さいごの色街 飛田 (新潮文庫)
作者:井上 理津子
出版社:新潮社
発売日:2015-01-28
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著者の代表作。文庫解説はこちら

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