『小林カツ代と栗原はるみ』『このレシピがすごい!』どちらも夜中に読んじゃいけません!

東 えりか2015年06月06日 印刷向け表示
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小林カツ代と栗原はるみ料理研究家とその時代 (新潮新書)
作者:阿古 真理
出版社:新潮社
発売日:2015-05-16
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このレシピがすごい! (扶桑社新書)
作者:土屋 敦
出版社:扶桑社
発売日:2015-05-02
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現代は、家庭で一番料理が作られる時代ではないか、と思っている。外食は当たり前だし、コンビニで弁当だろうが惣菜だろうがなんでも手に入るようになったから、かえって料理に興味を持つ人が増えたのではないか。手軽に作れるように、レトルトなどの調味料の種類も豊富である。

クックパッドの普及のすごさを思い知るのは、夕方のスーパーでのことだ。タイムセールの野菜と魚と肉を手に入れ、スマホで材料の名前を入れて検索すれば、あっという間に夕ご飯のおかずメニューが出てくる時代。安い食材でお美味しいものを作りたいと思う人は、今も昔も変わらずたくさんいる。

テレビ番組でも、料理のコーナーは安定の人気だし、体にいい食材と聞けば一度は買ってみる。年を取ったアイドルや最近お目にかからないなあと思っていたお笑いタレントも、料理ができると一発逆転。好感度がアップする。

しかしそれは最近のこと。料理研究家という特別な専門家から本や雑誌、テレビ番組で料理のイロハを教えてもらった人は多いだろう。生家が賄い付きの下宿屋だったので、小さいころからご飯の手伝いはしていた私だが、基本のことは、やはり本から学んだ。

料理研究家は今でもスターである。戦後のスターたちの系列をしらべたのが『小林カツ代と栗原はるみ』である。このふたりの名前がタイトルに使われているのは、正に象徴的だ。同じ家庭料理を教える先生であっても、かたやプロを名乗り、かたや「主婦」であることを主張する。どちらが好きかは人によって違うだろうが、多くの女性の気持ちに寄り添ったのは間違いない。

本書には、このふたりだけでなく、おおくの料理研究家が紹介される。古くは明治生まれの江上トミや辰巳浜子から、新しい人ではカツ代の息子のケンタロウやイケメンで人気のコウケンテツまで、時代を背景に語りつくす。

料理研究家たちが相手にするのは主に主婦である。ひとことで主婦と言っても、兼業も専業もいるし、懐具合も違う、住む場所や家族構成、ライフスタイルは千差万別だ。そのどこかにフィットする料理というのは必ずあるもので、本を読み進めるうちに「こんなニーズがあったのか!」と驚かされることが多かった。

彼らの経歴が、じつはそのまま研究家としての売りにもなっている。明治女でありながら、ル・コルドン・ブルーに学んだ江上トミ。外交官の妻として世界中の料理を知っていく飯田深雪。ロシア貴族に嫁いだ入江麻木など、ひとりひとりだけで一冊の本が出来上がるくらい人生体験が豊富な人たちなのだ。

それぞれの特徴を出すために、著者な一つの料理を定点観測する。それはビーフシチュー。手がかかり時間がかかるごちそうであることは今も昔もあまり変わりない。市販のルーを使うのか、肉の下処理はどうするのか、野菜の切り方は、とそれぞれとても個性的である。

男性の研究家はあまり多くないが、それでも最近は増えている。そんななかにHONZのメンバーでもある土屋敦がいる。豚の角煮だけや、パスタのペペロンチーノだけで1冊本を書いてしまうマニアックな料理研究家である。

彼は料理を作る研究家であるが、一方、料理本の批評家でもある。彼の料理本への愛はハンパではない。どうやら彼の母親も料理が好きだったらしく、おかあさんの料理本を幼いころから読んで作っていたようだ。

3000冊の料理本を読んできたと豪語する土屋が選びに選んだレシピ22種を紹介しているのが『このレシピがすごい!』である。基本、一人の料理研究家から1種類の料理を選んで紹介しているのだが、自分で作って納得したものだけである。どれだけ手間がかかっているのかと気が遠くなる。

レシピの考案者であるそれぞれの研究家たちのバックグラウンドやポリシー、あるいは思想まで忖度しているのは、少し土屋の妄想も入っているような気がする。40代半ばにして世界各地、日本各地に住み、HONZ仲間からは「物知り」と呼ばれている土屋自身の経験談もユニークだ。一緒に料理を作ったことが一度あるが、彼の仕事ぶりは丁寧で正確無比。手間はかかるが間違いなく美味しいという方向へ、一つずつ積み上げていくタイプである。かたや私は賄い料理から始まっているので、スピードが命。おおざっぱで雑だが品数はいっぱいできる。なんだかとても楽しかった。

さて、この2冊を読みつつ、私の料理本のルーツはなんだろう、と考えてみた。母も料理が好きだったので、雑誌はいろいろあったように思う。でもテレビから一番学んだのは田村魚菜ではなかっただろうか。キューピー3分クッキングもよく見ていた記憶がある。結婚してからは斉藤辰夫さんの基本を教えてくれる本が役にたった。

美味しいものは人を元気にしてくれる。読めば作りたくなる本2冊。ぜひぜひ読んでみてほしい。

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白洲次郎・正子の食卓
作者:牧山 桂子
出版社:新潮社
発売日:2007-01-24
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 最近の本ではダントツでこのレシピを参考にしている。『白洲次郎・正子の食卓』缶詰のくわいにベーコンを巻いてオーブンで焼いたものは、今ではウチの定番である。

その土屋敦が今度はハンバーグに拘った本を出すという。きっと子豚を育てるところから始めるに違いない。

男のハンバーグ道 (日経プレミアシリーズ)
作者:土屋 敦
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2015-06-09
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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