『世論調査とは何だろうか』バイアスがいっぱい

峰尾 健一2015年06月19日 印刷向け表示
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世論調査とは何だろうか (岩波新書)
作者:岩本 裕
出版社:岩波書店
発売日:2015-05-21
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世論調査を目にする機会が増えたように思う。「賛成○割、反対○割」など、大文字で押し出された結果の部分を見ては、とりあえず「ふーん」とか言っている回数が多くなったような気がする。もちろんこれは感覚的な話に過ぎないが、議論の分かれる話がたくさん持ち上がっては報じられている今、あながち間違っているとも言えないのではないだろうか。

だが触れる場面が多い割に、調査の結果や考察に関しては話半分で見聞きしていることがほとんどだ。発表される数値はさまざまな影響を受けていて、何かしらの偏りがあるということは分かっている。でも実際にデータがどのように歪んでいるのかまでは知らないから、いまいち活用できない。

本書を読んで、そのあたりが随分クリアになった。世論調査で得られる回答には具体的にどんな偏りが生まれ、どんな操作が加えられやすいのか。どういった質問が回答者を誘導しやすいのか。調査する側はどんなことを考えながら調べ、データを扱っているのか。などなど、世論調査を読み解く時のポイントをしっかりと押さえることができる。

まず大事なのが、回答結果にはどんな「バイアス」がはたらいているのかを意識することだ。

たとえば、電話調査では「○○新聞の委託を受けた調査」と最初に名乗るため、その新聞のスタンスに賛成する人が回答しやすく、反対の人は調査に非協力的な傾向がある。これが、新聞ごとに結果が異なる、調査主体によるバイアスを引き起こすと言われているそうだ。特に内閣支持率が象徴的で、第2次安倍内閣の支持率は朝日と読売で10ポイント前後の差がつくことが多いという。ちなみに毎日やNHKの調査はその中間らしい。

このバイアスは避けるのが難しいので、世論の動きを知るためには「1つの社のトレンドを見ろ」と言われるのだという。ベースとなる数字は違っても、変化の傾向には大きな差はないからだ。さらに、多くの社が同じ動きをしているときに1つだけ変な動きをしているデータがあれば、「何か操作をしたのではないか」と目をつけることもできる。

また、調査の方法によるバイアスも無視できない。世論調査と一口にいってもその種類はさまざまだ。面接法、配布回収法、郵送法、電話法、RDD法など、これまでよく使われてきた方法に加えて、最近はネット調査も進んできている。1つ1つの調査については本書で詳しく読んでもらいたいが、一部を挙げるだけでもいかに多種多様なバイアスが関わってくるのか分かるだろう。

電話法ならば、家の固定電話に出られる可能性が高い主婦(夫)などにどうしても偏るし、言うまでもなくネット調査では若者の回答が多い。さらに面接法ならば、調査員の質問の仕方によって誘導されやすく、たとえ本心だったとしても「生活に満足していない」とは言いづらいという見栄も影響してくる。調査方法ごとの違いに関しては、性別や年齢など比較的分かりやすい部分だけでなく、感情的な影響まで考えてはじめて特徴をつかむことができるのだ。同じ質問を使っても調査方法が違うと直接比較してはいけない、というのも世論調査のルールの1つだという。

これらのバイアスに加えて、調査する側の「操作」による歪みも無視できない。質問や選択肢にどのような言葉を選択するのかによって、回答は容易に誘導されてしまう。

特によく見受けられるのが、「中間的選択肢」による影響だ。露骨な例として挙げられているのが「幸せの国」ブータンの2005年の国勢調査。この年の調査で「幸せ」だと答えた人はなんと96.7%もいたそうだが、これは選択肢の成せる技だった。実は、「とても幸せ(45.1%)」「幸せ(51.6%)」「あまり幸せでない(3.3%)」の3択だったのである(「あまり幸せでない」が3.3%なのはすごいけれど)。5年後の調査でその偏りを改善した結果、「幸せ」だと答えた人の数は40.8%にまで激減した。

こうした話は他人事ではなく、昨年春に行われた集団的自衛権の是非についての世論調査では、読売・産経・毎日が賛成側2つ(「容認」と「限定容認」)と反対側1つの3択、朝日が賛成と反対のみの二者択一、というように異なる数の選択肢をもうけていた。3択の方は賛成側が、2択の方は反対側が上回る結果になった。アメリカ・フランス・イギリス・旧西ドイツ・日本の間で比較をしたところ、日本人は中間的選択肢を選ぶ傾向が強かったという有名な研究結果もあるという。我が身を振り返っても、たしかに思い当たることは多い。世論調査のみならずその他のアンケート全般で言えることなのだろう。

他にもより細かい注意点がたくさん出てくるのだが、詳細は実際に読んで確かめてほしい。さらにアメリカの大統領選や日本の戦後における世論調査の歴史、データの「誤差」に関する統計学的視点からの説明など、幅広い側面から話が展開されるので、読後には世論調査がより身近に感じられるだろう。

世論調査の複雑さとは対極に、本書の説明はとても丁寧で分かりやすく、頭が混乱することなく読み通せる。著者はNHKに入社して30年になる人物で、世論調査の担当になったのはここ3年ほどのことだという。それまでは記者やデスクに加え、「週刊こどもニュース」の3代目お父さんとしても活躍していたそうだ。物事を分かりやすく伝えるプロが、専門外である世論調査について密着取材した結果をまとめたような本なので、細かな話もするすると入ってくる。

純度100%の調査は存在しないが、事実を読み取る精度は読み手の意識次第で高めていくことができる。データを扱うプロにとっては、本書の内容は基本的なことかもわからない。だがそれ以外の多くの人にとっては、世論をつかむための心強い味方になるはずだ。
  

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