『シンギュラリティは近い [エッセンス版] 人類が生命を超越するとき』 編集部より〜[エッセンス版]あとがきに代えて

NHK出版2016年04月23日 印刷向け表示
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シンギュラリティは近い [エッセンス版]―人類が生命を超越するとき
作者:レイ・カーツワイル
出版社:NHK出版
発売日:2016-04-22
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本書は2005年にアメリカのViking社から刊行されたレイ・カーツワイルの大著"The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology"のエッセンス版であり、同書の邦訳『ポスト・ヒューマン誕生 〜コンピュータが人類の知性を超えるとき』(NHK出版刊)を親本として、その主要部分をコンパクトに再編集した、日本オリジナルの一冊となる。したがってカーツワイルの『ポスト・ヒューマン誕生』(あるいは電子書籍『シンギュラリティは近い』)をすでにお読みの方には内容が重複することを予めお断りしておく。

[エッセンス版]刊行までの経緯をまず簡単にご説明したい。邦訳版『ポスト・ヒューマン誕生』は2007年1月に刊行された。当時は「シンギュラリティ」という言葉をネットで検索しても日本語でのヒットはほぼゼロだったこともあり、邦題を決めるのに大変苦慮したことを覚えている。結果として、<シンギュラリティ>という主要概念を明快にタイトルで打ち出さなかったからか、あるいは664ページというボリュームゆえか、日本で同書は、どちらかと言えばカーツワイルを知るカルトな一部のシンギュラリティ主義者向けの一冊といった位置づけに落ち着いた。

変化が訪れたのは、刊行からすでに7年が経った2014年頃だ。忘れ去られていたかに思われた同書の売れ行きが徐々に上方カーブを描き始め、突如として増刷を重ねるようになっていった。現在では7刷を数え、まさにカーツワイルの言う<収穫加速の法則>を地で行く展開が起こっているのだ。

実際、<シンギュラリティ>という概念は、その間じわじわと世界に広がっていった。カーツワイルが2008年にシンギュラリティ・ユニバーシティというシンクタンク兼教育機関を共同で創設すると、Googleをはじめとするシリコンバレーのそうそうたる企業が真っ先に出資したことも相まって、一躍話題となった。大企業のエグゼクティブが続々とその教育プログラムに参加するにつれて、「テクノロジーの指数関数的成長を取り込んで世界を一歩前に進める」というそのミッションが、スタートアップ界隈にとどまらず広く共有され、たとえばペイパルマフィアのドンとも言われるピーター・ティールがその著書『ゼロ・トゥ・ワン』で書いたように、それはほとんどシリコンバレーのエートスとなっていった。

人工知能(AI)開発の進展がこれを後押しした。近年、脳の神経回路の構造を深層まで模倣するディープラーニングといった機械学習の手法が飛躍的に進化したことで、「第3次人工知能ブーム」が到来したと言われる。つまり、本書で描かれる「汎用人工知能」への期待が、再び高まっているのだ。2011年にIBMのワトソンが人気クイズ番組「ジェパディ!」で勝利を収め、同年、AppleはiPhoneにパーソナルエージェント「Siri」を搭載するなど、AIは少しずつ人々のライフスタイルに入り込んでいった。GoogleやMicrosoft、Facebookといった大企業がAI開発にしのぎを削る中で、2012年暮れにはGoogle共同創業者のラリー・ペイジがカーツワイルをいわば一本釣りする。彼がGoogleで機械学習と自然言語処理技術の開発にフルタイムであたるというニュースは、AIの世界的権威と世界一の情報テクノロジー企業がタッグを組むことへの驚きや賞賛と共に世界中を駆け巡ったのだ。

こうしてシンギュラリティの概念がビジネスやカルチャーのメインストリームに浸透するにつれ、その論理的支柱であり今なお第一線で活躍するカーツワイルのいわば「予言の書」であるThe Singularity Is Nearは、ますますその重要性を増していった(「この10年でもっとも引用される書物になるだろう」というWIRED創刊編集長ケヴィン・ケリーの予言は正しかったのだ)。その機運の中で、大著で難解とされる同書をより手に取りやすく、多くの読者にアクセスしやすくすることが、<シンギュラリティ>の日本における理解をさらに深めるとの意図から、本書[エッセンス版]が企画された。著者カーツワイルからも快く承諾いただき、併せて邦題についても、ほぼ10年を経て機が熟したとの判断から、原書の通り『シンギュラリティは近い』に戻すこととしたのだ(電子書籍版についてはすでにこちらのタイトルに戻していた)。

本書[エッセンス版]の編集においては、原書における主にサブカルチャー的な文脈、つまり各章冒頭などに付された多彩な登場人物からの引用文や、カーツワイルと人工知能モリーやその他歴史上の偉人が次々と登場する架空の対話コラムなどを割愛した他、膨大な原注についてもカットすることでコンパクトな体裁とした。したがって出典などのチェックでもし必要があれば、ぜひ『ポスト・ヒューマン誕生』にあたっていただきたい。

また、2016年現在から見て古いと思われる記述や節の編集は最小限にとどめている。逆に言えば、原書執筆時でいうと10年以上昔におけるテクノロジーの進化の上に描かれた本書の見通しが驚くほど新鮮なことに、編集作業中もたびたび唸ることになった。読者の方々も、本書をまるで新刊のようにお読みいただけるはずだ。

実際のところ、本書編集においてもっとも重視したのは、カーツワイルの言う「テクノロジー進化の法則」、つまりテクノロジーの指数関数的な成長がシンギュラリティへと至るという本書の主旋律を、できるだけ明快かつシンプルに提示すること、そして、AIが2045年に人類の知性を超える道筋を、主に「脳という仕組みの解析とリバースエンジニアリング」という点に絞って再構成したことだ。いわば「AIとシンギュラリティ」についてのカーツワイルの主張がストレートに分かる入門編、として本書を位置づけている。

したがって、本来であればシンギュラリティにはAIに加えて遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学の指数関数的進化が重要な役割を果たすわけだけれど、それらについてのベーシックな記述は各章で折りに触れ紹介されていることから、改めて詳細に突っ込んだ「GNR──同時進行する三つの革命」(原書第5章)については本書では割愛している。

また、原書においては人類がシンギュラリティへと到達したあと、テクノロジーと融合したその知能が地球を離れ宇宙へと到達し、光速という制約を越えて22世紀には宇宙を知能で満たす、というさらなる展開があって、いわば原書においてもっとも先鋭的な「予言」となっているわけだが、壮大なスケールで展開されるこうしたその先の議論についても、ご興味のある向きはぜひ『ポスト・ヒューマン誕生』をあたっていただければ幸いだ。

未来を予見し人間の根源的な存在そのものを揺るがすシンギュラリティという考えに対しては、当然ながら多くの異論反論が沸き起こり、科学的な議論もさることながら、主に文化的・社会的な文脈からの反発が多く見受けられる。コンピュータにすべての仕事が奪われる式の「機械との競争」といった議論は今日あらゆるメディアで目にするし、AIがいよいよ囲碁においても人間を凌駕したとなれば、我々は人類としてのアイデンティティの再考を迫られた気分になる。つまり、本書で描かれる状況を、我々はまだまったく受容できていないのだ。そうした反応や想定されるリスクについても、カーツワイルは原書において一章を割いて丁寧に応えているのだけれど(原書第8章「GNRの密接にもつれあった期待と危険」)、今日、スティーブン・ホーキングからイーロン・マスクまで、そうした議論が度々起こるのを日本でもよく目にするようになったこともあり、本書においては割愛している。

指数関数的に進化するテクノロジーに対する文化的・社会的な受容について、我々の意識はこれまでも、時代とともに常に変化してきた。すでに原書刊行から10年以上が経ち、人々は気づかないままにシンギュラリティへの態度を少しずつ変えてきているはずだ。大切なことは、カーツワイルが言う通り、シンギュラリティとは待っていれば勝手に起こるものではなく、我々一人ひとりの選択と受容の積み重ねの先にあるものだということだ。したがって2045年という、もうそう遠くない将来にどんな未来を描くのかについては、ぜひ読者のお一人おひとりが、加速的進化を続ける日常の中で、肯定論も否定論も含めて本書と共に今後も問い続けていただければ幸いだ。

NHK出版 松島 倫明

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