歩きスマホ、ダメ、ゼッタイ!『神経ハイジャック』

田中 大輔2016年07月29日 印刷向け表示
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神経ハイジャック――もしも「注意力」が奪われたら
作者:マット・リヒテル 翻訳:三木俊哉
出版社:英治出版
発売日:2016-06-21
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ポケモンGOが社会現象化している。街中を歩いていても、スマホを見ながら歩いていて、急に立ち止まっては、スマホの画面を上のほうにスワイプする動き(ポケモンボールを投げるときのしぐさ)をしている人をよく見かける。ポケモンGOのアプリが配信されてからというもの、連日のようにポケモンGOをやりながら車や自転車を運転して事故を起こしたというニュースが流れている。駅など様々なところに歩きスマホは危険だというポスターが貼ってあるにも関わらず、ほとんどの人は自分事だと思っていない節がある。

そんな人たちに警鐘を鳴らすノンフィクションを今日は紹介しよう。解説から読む本でも紹介されている『神経ハイジャック』という本である。この本を読むと、ながらスマホというものがいかに危険なのかということがよくわかる。そして明日は我が身という危機感を覚えること必至である。

著者はニューヨーク・タイムズの記者で、不注意運転のリスクと原因を明らかにした記事で、2010年にピューリッツァー賞を受賞したマット・リヒテルだ。この本の原著が発売されたのは2014年。物語は2006年にアメリカのユタ州で起きた事故を中心に進んでいく。まだスマホが登場する前のガラケー時代の話である。

携帯でメールを打ちながら車を運転していて、対向車線にはみだし、対向車と接触し、2名を死亡させるという事故を起こしてしまった青年、レジーの物語と、脳神経科学の専門家による最新の研究事例の両輪で話は進んでいく。

正直なところ、レジーの物語に関しては読んでいるときに、少しイライラしてしまった。なぜなら、レジーにまったく反省の色がみえないからだ。2名の尊い命を奪ったのにもかかわらず、事故が起きたときには、後続の車に「なにがあったんですか?」と聞きにいったり、事故のあと、警官には対向車がはみ出してきてぶつかったと嘘の証言をしたり。そのあともハイドロプレーン現象が起きたことが事故の原因だとか、運転中にメールなどしてないとか、嘘ばかり言っていて、なんなんだこいつは!という憤りを覚えてしまった。

さらに遺族に対しても、決して謝罪はせず、事故のあとすぐに弁護士を準備して、自分は事故とは関係ないとでもいうような態度で過ごしている姿をみて、どうしてそんなことができるんだろう?と疑問でしょうがなかった。ただそこにはちゃんと理由があったのだ。

レジーはなぜそんな態度をとっていたのか?それが脳神経科学による検証によって明らかになる。事故を起こしたレジーは事故を起こしたときの記憶がなかったのだ。レジーは脳神経外科者が裁判で証言したときに、はじめて自分はメールをしながら車を運転していたのかもしれないと思うようになる。

人間の脳には限界があり、同時に二つのことはできないのだ。しかし、人間の脳というものは自らを欺くようにできている。実際は見えていないのに、見えていると信じ込ませることができるのである。車の運転中に携帯をいじり、前をみたとき、脳はきちんと前が見えているようにみせかける。しかし実際のところ数秒の間は、見えていても脳が認識しない時間があるのだという。

このタイムラグにより、事故を起こした青年レジーは事故が起きたあと、いったい何が起きたのかを認識していなかったのだ。事故の記憶自体がないから、それに対する反省の色もなければ、なぜそんなに自分が責められなければいけないのか?という態度をとっていたのである。携帯をいじくりながら行動するのは本当に危険である。そういったことを啓発する動画があるのでぜひとも見ていただきたい。

携帯でメールをしながら車を運転すると、衝突のリスクが通常の六倍になるそうだ。また運転中に電話をすると、衝突のリスクは四倍になるという。電話をしながら運転するのと、飲酒運転では事故を起こすリスクが同じなのに対し、メールをしているドライバーが衝突を起こすリスクは飲酒運転を上回るのだ。

なお、この研究結果はスマホが登場する以前の話であることに注意してほしい。スマホが登場してからというもの、さらに高度なことがスマホではできるようになっている。スマホを見ながら運転したり、歩いたりすることが、いかに危険なのかということがここからもわかるだろう。ただわかっていてもやめられないというデータもある。

九八%のドライバーが運転中のメールは危険だと考えているのに、四三%はメールを読み、三〇%はメールを送信している。さらに興味深いデータもある。同乗者の四六%が、ドライバーの運転中にメールをしたことがあると答えているのだ。言い換えれば、同乗者はドライバーよりも自分の携帯電話に関心が向いていたわけだ。

依存症とまではいかないまでも、現代人の多くはスマホに意識を支配されているのではないだろうか。スマホ依存の人の脳と、麻薬依存の人の脳をみたところ、ドーパミン輸送タンパク質に同じような変化が起きていた。つまりスマホ中毒と麻薬中毒は同じような影響を人間にもたらすのだ。麻薬を使うのは「ダメ、ゼッタイ」だけども、同じように歩きスマホも、ダメ、ゼッタイ!なのである。ながらスマホは本当に危険なので注意をしてほしい。

なお、この本は私が関わっていた会社が出版した本であることを最後に付け加えておく。そんなことは関係なく、とても面白い本なので、一読をお勧めする。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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