『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』「知識」から「実践と存在意義」への大変革

堀内 勉2016年09月13日 印刷向け表示
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ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の日本リサーチセンターは、江川雅子前所長(現一橋大学大学院教授)の時代には丸の内にあったのだが、アカデミズムにおける場所の重要性という観点から、佐藤信雄現所長や竹内弘高教授の意向もあり、数年前に今の六本木ヒルズ49階のアカデミーヒルズ内に移転した。

当時、私はアカデミーヒルズの担当役員だったことから、ここに勤めていた山崎繭加さんと知己を得ることができた。その後、山崎さんの紹介で本書に登場する沢山の方々と直に接する機会を通して分かったHBSの実像は、私が想像していたそれまでのイメージとは大分違っていた。

ずっと勝手な思い込みで誤解していたのかも知れないが、私が若い頃の留学先にビジネススクール(経営大学院)ではなくロースクール(法律大学院)を選んだのも、いわゆる「HBS的」な感じが嫌でとても馴染めそうもなかったからである。

もう30年近く前の話になるが、ハーバード大学の合同卒業式で、ビジネススクールの総代のスピーチが始まると、ロースクールの学生達から激しいブーイングが出ていたのを今でもよく覚えている。(ロースクール総代のスピーチは多分ラテン語だったので、誰も内容が理解できなかったのだが・・・。)

ところが、本書を読んで、インド系の二ティン・ノリア現学長に替わってからのHBSは、それまでとは全く異なる場所に変貌したということがよく分かった。本書はその全貌を記録したドキュメンタリーでもある。

日本に対しては、最早Japan Passing(日本に関心を失って素通りすること)であり、世界の誰も興味を示さないだろうから、ハーバードでJapan IXP(Japan Immersion Program*)を担当している山崎さんは、さぞかし参加者集めに苦労しているのだろうなと思っていたら、それが何とHBSで最も人気の高いIXPだったとは驚きである。

*ケースディスカッションによる疑似体験だけではなく、直接的現地に行ってそこの空気を吸い人と交わり肌で感じる体験をしてもらおうということで、授業がない1月に、学生が世界の国や地域にグループで出かけ、特定のテーマについて調べ体験しまとめる、という「どっぷり漬かる(immersion)プログラム」(山崎繭加さんのブログより抜粋)

Japan IXPのポイントは、HBSの学生達が東北のアントレプレナー(起業家)と一緒に仕事をし、“Why do I exist?”(自分は何のために生まれてきたのか?)を深く考えるところにある。
私もビジネスマン相手のレクチャーの際に、取っ掛かりとしてしばしばゴーギャンの有名な絵画『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』(D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?)を取り上げるが、まさかHBSがそういった教育をしていたとは全く知らなかった。

因みに、本書に類似するのが、少し前に出版された『ハーバードでいちばん人気の国・日本』である。こちらは山崎さんのような当事者と違ってアウトサイダーが書いた本なので、若干底の浅い日本礼賛本の匂いがするが、新幹線の清掃サービスで有名になったテッセイのケースを始め、HBSの日本のケースにこんなものがあるのだと知って驚いた。また、ジャパンIXPでは必ず広島に行き、その後、原爆投下に関するトルーマン大統領の決断についてのケースを議論するという記述も、非常に印象的だった。

このように、新生HBSの実態を記した『ハーバードはなぜ東北に行くのか』は、これからの世界のビジネス教育の方向性を示すものであり、高等教育に携わる人とビジネススクール留学を計画している人の全てに読んでもらいたい良書である。

最後に、本書の後書きにある竹内教授の文章が、ダイヤモンドオンラインにも載っていたので、それを以下に抜粋しておく。こちらも是非合わせて読んで頂きたいと思う。

監修を務めた新刊『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』を出すにあたり、読者の皆さんにお伝えしたい思いは、2つに集約される。ひとつ目は、生まれ変わったHBSを知ってもらうことである。これまで“ハーバード”という名称がタイトルに載った本は何十冊と出版されているが、それらは辛辣な言い方をすると、すでに「賞味期限」が過ぎているものである。これまでの本はHBSが100周年を契機に行った深い反省に触れていない。世界金融危機の震源地となったウォール街に多くの卒業生を輩出してきたHBSは、本当に世界をよい方向に変えるリーダーを育成できていたのか?という深い自省を得た。

 

この反省をもとに導かれた結論がknowing(知識)からdoing(実践)、being(自身を知ること)への移行であり、ケース・メソッドとフィールド・メソッドの両立である。これらのInnovationがおきる前の時代をBI(Before Innovation)と呼び、その後の時代をAI(After Innovation)と呼ぶのであれば、ジャパンIXPはAIの申し子である。『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』は始めてAIについてまとめた出版物といえる。 

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