2020年代突入直後にめくりたい!未来の本 3冊 『<未来像>の未来:未来の予測と創造の社会学』『SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて』『アステイオン91』

山本 尚毅2020年01月03日 印刷向け表示
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アステイオン91
作者:
出版社:CCCメディアハウス
発売日:2019-12-11
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そもそも、編集部からの無茶振りをよくも引き受けたものだ。100年前に『日本及日本人』という雑誌の臨時増刊号で前例があったといえども、100年後に思いを巡らせることなど、あまりに無謀だ。

100年後なら生きていないから、当たってもハズレても生きていないから結果は問われないと開き直るのは、上野千鶴子だ。そのまま現政権の批判に流れ込んでいく結論あは、読者の期待に答えた予測可能な内容である。人工予測とイノベーションのパターンから急転して、教育の抜本的な改革に期待を寄せ、新たな日本初の哲学の誕生を期待するのは安西祐一郎。そのお隣では、沖縄在住の神主の妻が、ご利益と目新しさで創意工夫を凝らすサービス業として洗練され、したたかな神社の生き延びる姿を描く。

その他、面白がってお題に答える書き手もいれば、想像した未来の深刻さ故に考えなければよかったと愚痴をこぼす知識人、冷静沈着に100年前の100年前から考え出す学者などさまざまだ。

人のよって好みは分かれるだろうが、私は俯瞰した立ち位置から語られる未来ではなく、自分の専門領域にある兆しから大風呂敷を広げた雑文やSFっぽいパロディが好きだ。何より、それらは他の書籍ではなかなか読めない代物だろう。

また、60人を超える執筆陣の出生年は1930年代生まれ5人、40年代15人、50年代9人、60年代13人、70年代13人、80年代7人と、年齢の偏りは少なく、ジェンダーバランスは女性議員比率を大幅に超えている。凝り固まった未来のイメージを柔らかくしてくれる、読みごたえがあり、一つ一つが短文で読みやすいおすすめの読み物だ。

 

SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて
作者:
出版社:ビー・エヌ・エヌ新社
発売日:2019-07-25
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『アステイオン91』はAmazonの分類では「思想」にあたるが、『SPECULATIONS』はグラフィックデザインになる。大枠では、デザインの本であるのは間違いないが、デザインだけにはまったくおさまらない。人工物を創りながら思索を深め、未来の可能性を提案する実験、デザイン・リサーチという領域である。企業の会議室での「わいがや」がアステイオンなら、屋外のガレージでプロトタイピングに黙々と取り組むのが本書である。

Diversity、Public、Mobility、Archive、Protocol、Fiction、Algorithm、Sustainability、Inhumanの9つの領域で、11の実践が紹介される。見開き2ページで、写真やイラストのビジュアル多めで、テキスト情報はコンパクトにまとめられている。ペラペラ見て、気になるページを開く。それだけで眠っていた未来への想像力を刺激される。

視覚障がい者のための文字を読み上げてくれるメガネのOTON GLASSやすべての人の移動を楽しくスマートにするパーソナルモビリティWHILL MODEL CRのように、投資を受け、拡大を目指している実践が紹介されている。

いっぽう、多くの人に知られることなく、構想段階や実験段階で解散するだろう、刹那的で脆い実践も紹介される。HONZでもたびたび紹介されるトーマス・トゥエイツのトースターのプロジェクト、人間の髪の毛を資源と見立て、具体的なプロダクトを制作し、可能性を探るHair Highwayは目を引く取り組みだ。先行きのわからなさが、未来を想像する余地と可能性を広げてくれる。それらをアーカイブしていることが本書の一つの価値であろう。

そして、99人の首謀者はデザイン・リサーチを経て、次なる展望を手に入れている。制作プロセスでの思索と具体が生んだ議論が、自身の肥やしとなるだけでなく、リサーチ対象の領域を豊穣にしている。さらに、議論に加わった関係者は未来の可能性に想像力を触発され、自らのテーマでデザイン・リサーチへ挑戦を探究する、その一歩目になるだろう。その関係者の一人に読者である私たち自身も含まれる。この連鎖の積み重ねの先に、社会に大きなインパクトを与えるプロジェクトが生まれていくことを期待したい。

執筆陣は80年代に生まれたリサーチャー、デザイナーや起業家であり、90年代の書き手が半数を占める。暗いニュースに厭世的になり、いまここに引きこもりがちだった気分を、いまではない、ここではない、場へと連れ出す兆しがぎっしりと詰め込まれている。未来との向き合い方に、もっと多様性と可能性があっていいと気づかされた。 

〈未来像〉の未来: 未来の予測と創造の社会学
作者:ジョン アーリ 翻訳:吉原 直樹
出版社:作品社
発売日:2019-10-31
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未来を予測し、可視化し、構想しようとしてきたこれまでの営みのうち効力のあったものを中心に記録し、評価するのが本書の役割だ。

これからやってくる未来を見逃すまいと予測し、シナリオを準備し、ときに自ら作り上げてきた。ランド研究所でハーマン・カーンが着手し、実業界で普及しているシナリオプランニングもそのうちの一つだ。アート、文学、映画、ゲームの世界でも未来は描かれてきた。未来を予測し現実化した科学技術もあれば、現代を言い当てたかのようなディストピアや実現しそうもないユートピアもある。

いつの時代も未来像は予測不可能で不確実で、これから予測もしなかった未来がやってきても、だれも驚きはしないだろう。100年前に100年後を予測した『日本及日本人』でも、飛行機や太陽光発電の普及は想定されていたが、原子力や生命科学分野については皆無だった。

著者のジョン・アーリーは人生最後の1年を費やし、ランカスター大学に社会未来研究所を設立し、本書を執筆した。いわば、人生の集大成として未来研究を選んだのである。決して読みやすい文章ではないが、文体は熱がこもって迫力があり、主張はクールで明瞭である。

それは、現代はこれまで以上、未来について考え、予測することは組織や社会において不可欠になっている。いっぽう、未来は私的な利害によって専有されており、経済的・技術的な予測が主流である。それらを、国家や市民社会を含む多様な関係者に開かれ、共有される未来を目指すべきだ。そして、個人にとっては、失見当識から脱却し、自分の現在を理解するために未来を活かすことができる。


今進行中のことや、今のうちにできることについて問い、ひもとき、考案するために未来を活かすことにある。

未来のために現在がある目的と手段の関係ではなく、現在の理解に未来を活かすという関係は、あらたに蒙が啓かれた。未来を考えてきた人類の営みと方法が統合された長らく重宝できる一冊だ。

2020年代はますますディストピアと天変地異説が猛威を振るいそうな予感がするが、未来は現時点ではまだ決まっていないのだ。陽気で明るく過ごすために、現在の端っこで芽を吹く未来の兆しに注目していきたい。 
---

 AKIRAの舞台は2019年である。改めて、読み直してみたい。

 

ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION
作者:佐宗 邦威
出版社:日経BP
発売日:2019-12-20
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未来を考える上で、欠かせないのは妄想。一人の自由で無謀な妄想から何事もはじまるのだ。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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