『フィンランド人が教えるほんとうのシンプル』比べず、執着せず、自分らしく

堀内 勉2016年09月26日 印刷向け表示
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フィンランド人が教えるほんとうのシンプル
作者:モニカ・ルーッコネン 翻訳:関口 リンダ
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2016-09-16
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パスコの食パン「超熟」のTVコマーシャルを覚えているだろうか。女優の小林聡美が湖畔で小さなサンドイッチ屋さんを開いていて、そばで遊んでいる子供たちにサンドイッチを作ってあげるという、どこか現実離れしていながら、それでいて懐かしさを感じさせるようなコマーシャルである。

これは、2006年に公開された、群ようこ原作、小林聡美主演の映画『かもめ食堂』の設定を再現したものだ。この癒し系の作品は、日本からフィンランドに渡った個性的な女性たちが、ヘルシンキで現地の人々と交流を広げていく様子を描いたものである。

この中で、実際に存在する現地の食堂「カハヴィラ・スオミ」が「かもめ食堂」の舞台として使用されたのだが、ここは現在でも「ラヴィントラ・カモメ」として営業していて、日本人の観光スポットになっている。つい先日、フィンランド観光に行った際に、観光バスが「ラヴィントラ・カモメ」の前を通って解説してくれていた。

なぜ『かもめ食堂』の話をしたかと言うと、この『フィンランド人が教えるほんとうのシンプル』が、かもめ食堂の世界そのままだからである。著者のモニカ・ルーッコネン氏は、フィンランド在住の作家で、かつフィンランドのライフスタイル専門家でもあり、フィンランドのシンプルな生き方や考え方を世界に広めるべく、情報発信を続けている。

ご存知の通り、フィンランドはスウェーデン、ノルウェーと並ぶ北欧三国のひとつで、国土の三分の一が北極圏に属する森と湖の国である。日本の面積の9割程度の国土の大半は平坦な地形で、氷河に削られて形成された沢山の湖が1割弱を占めている。

人口は日本の4%程のわずか5百万人で、その9割以上がフィン人である。フィン人とは、スウェーデンやノルウェーなどと同様に典型的なゲルマン系の容貌とされる金髪碧眼が多い北ヨーロッパ系コーカソイドに属する民族だが、言語的にはアジア起源のウラル語族の言語を話している。

フィンランド人の性格の特徴は、何と言っても物静かで感情を表に出さないことで、日本人が持っている典型的な「西欧人」のイメージとはかけ離れている。ヨーロッパでは、「フィンランド人は恥ずかしがり屋で無口で、話す時は独特の抑揚のない言語で不機嫌そうにしゃべる」というステレオタイプなイメージを持たれているそうだが、そこが日本人から見てシンパシーを感じる点なのかも知れない。

フィンランドと言えば、トーベ・ヤンソンが書いたムーミンが有名だが、確かにムーミンの登場人物も皆非常に抑えたキャラクターで、アメコミなどとは全くかけ離れた独自の世界を構築している。

フィンランド人は控えめだから幸せでないのかと言えば、勿論そういうことではなく、OECDが暮らしの11分野(住宅、収入、雇用、共同体、教育、環境、ガバナンス、医療、生活の満足度、安全、ワークライフバランス)について38カ国間の比較をしたBette Life Indexにおいて、フィンランドは全ての点でOECDの平均を上回っており、「世界で最も国民が人生に満足している国のひとつである」と報告されている。

また、OECDの人生満足度(Life Satisfaction)では第6位、世界幸福度レポートでは世界7位(2013年)、世界幸福地図では第6位、コロンビア大学のThe Earth Instituteによる国民総幸福量(GNH)では世界2位(2012年)とされている。

意外なところでは、演奏の身振りを競い合うエアギターの世界選手権は、1996年からはフィンランドのオウルでオウル・ミュージック・ビデオ・フェスティバルの一環として開催されている。この大会では例年日本人が大活躍しており、ダイノジおおちが、2006年、2007年と2連覇を果たのを記憶している人も多いと思う。世界でも有数の恥ずかしがり屋の二つの国民がエアギターという派手なアクションを通じて結び付いているというのが何とも不思議な感じである。

それで本書の紹介に戻ると、ここには、古い家具を使う/食品を「デザイナー」で選ぶ/庭でベリーを育てる/そうじの日を決める/サウナで深いリラックス/キャンドルを使う/夏は湖のほとりで過ごす/土の上をはだしで歩くなど、お金をかけずにしあわせになるための55のヒントが書かれている。

どれもこれも言われてみれば当たり前のシンプルなことばかりだが、なぜか日本人にはそれができていない。特に印象的だったのが、仕事との関わり方だ。日本でも「仕事」と「家庭」のバランスが大事ということはよく言われるが、フィンランド人はこれに「自由な時間」を加えた三つのバランスが重要だと考えているそうだ。つまり、自分らしくある、自分を取り戻すことを何よりも大切に考え、「比べず、執着せず、自分らしく」生きることを心掛けている。

例えば、フィンランドの労働時間は朝8時から夕方4時までで、ミーティングで物事を決定する→決定されたことをやるべく各人が責任を持つ→8時から16時まで一生懸命働く→子供を保育園に迎えに行く→家で家族と食事をする、というシンプルなサイクルで回っている。

夏休みは4週間もあり(子供の夏休みは2ヶ月半)、殆どの人が湖畔に小さなコテージを持っていてそこに長期滞在し、特別なことは何もしないのだそうだ。この何もしないことが、冬から次の夏まで続く仕事や家事、育児などの役割をしっかりとこなす力を養ってくれるという。

それに比べて日本人は休暇の取り方も慌ただしく、休むのが上手ではないというのが著者の見立てである。きちんと休暇を取って心と体を休め、自分らしさを取り戻すというフィンランド人の生き方を読んで、先日読んだ『世界のエリートがやっている 最高の休息法』という本を思い出した。

これは今大流行している、脳の休息を効果的に取るためのマインドフルネス(Mindfulness)について書かれた本である。人間にとって何も考えないというのはとても難しいことで、脳は何もしていないアイドリング状態でもかなり活発に動いていて、その間にドンドン疲労が溜まっていく。そうしたストレスから自己を解放するための方法論として考案されたのが、マインドフルネスである。

せわしないアメリカ人が漸くたどり着いたマインドフルネスと同じことを、日常生活の中で自然にできているフィンランド人は、生き方の達人だと思う。典型的なアメリカ人的な生き方とは真逆である。そして、現代の日本人は、自分本来の姿を見失った「歌を忘れたカナリア」である。我々も今ここでもう一度、自分本来の姿に立ち返って生き方を考え直してみる必要があるのではないだろうか。

世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる
作者:久賀谷 亮
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2016-07-29
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