幸せの国へ、巣ごもり旅行 『週末フィンランド』

吉村 博光2020年05月09日 印刷向け表示
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週末フィンランド~ちょっと疲れたら一番近いヨーロッパへ
作者:岩田 リョウコ
出版社:大和書房
発売日:2020-02-27
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ずっと家にいると、考えるのは本や映画、そして毎日のご飯のことだ。先日ふと私は「かもめ食堂」という映画を観たくなった。決して猛烈な欲求ではない。“ふと”思っただけだ。でも、ネットで探してテレビにキャストしたら、次の瞬間にはその思いが叶えられた。便利な世の中になったものである。

映画「かもめ食堂」は、群ようこ原作、小林聡美主演の2006年の作品だ。舞台は、フィンランド・ヘルシンキの街角にある日本食堂。日本から来た女性(小林)が一人で営業を始めたばかりで、客はまだ入っていない。宣伝で人を集めず、地元の方が自然に集まるような店にしたい、と店主は言う。看板料理は「おにぎり」だ。

最近私は、子供たちにお昼を出すようになって、おにぎりを美味しく作れるようになりたいと思うようになった。『ぼんごのおにぎり』という本を、本棚から引っ張り出して読んだりもした。「おにぎり」からの連想と、目の前をゆっくりと流れている時間が、以前観た映画「かもめ食堂」の世界感に私をいざなったのだ。

映画を観て興味が湧いたので、最近出たフィンランドに関する本の中で比較的評判が良さそうな本を読んでみることにした。「おにぎり」→映画「かもめ食堂」→『週末フィンランド』という、我ながら大変美しい流れである。そして早速、本書を開くとこんな書き出しが待っていた。

今、悩みや迷いがある、なんだかモヤモヤしている、自分の中の何かを変えたい、正直疲れ切っている……。はい、それならフィンランドへ行きましょう!冗談じゃなくて、まじめに言っています。フィンランドは「心の選択」ができる国だと思っているからです。
しかも、日本から一番近いヨーロッパ。週末や三連休、プラスお休み1、2日で心と身体をゆるめて帰ってこられるんです。 ~本書「はじめに」より

本書は歴史や文化を紹介する教養本ではないし、地図がたくさん掲載された旅行ガイドとも違うけれど、いまの気分にはシックリくる本だと感じた。今すぐに旅行はできないけれど、もしかしたら行った気になれるのではないか。そう思いながら、写真が詰まった本をめくってみると、著者のまっすぐなフィンランド愛が伝わってきた。

著者は、2009年から外務省専門調査員として在シアトル総領事館に勤務した岩田リョウコさん。退職後、コーヒーのブログが人気を集め、コーヒー個人消費量1位の国に興味を持った。そして何度も彼の地を旅行し、いまや「フィンランド観光局公認サウナアンバサダー」だという。本書には、コーヒーやサウナの深い知識もつまっている。

本書の構成を紹介しよう。まず、第1章「フィンランドへ行ってみよう【準備編】」では、お国柄や四季、人々の特性などについてエピソードを交えて紹介しつつ、旅行のスケジュールの立て方や服装、持ち物などを提案している。フィンランドが大好きで何度も足を運んでいる著者の言葉なので、参考になるだけでなく、めちゃくちゃ楽しい。

例えば、フィンエアーの機内はマリメッコ天国だとか、深夜便の機内食は弁当箱で出てくるとか。クレジットカードがどの程度使えるかとか、石畳が多いのでスーツケースが壊れがちとか。スマホは現地でSIMを借りるのがお得だとか。サウナに行くなら水着が必要だとか。財布を落としたら12回中11回帰ってくる安全・安心な国だとか。読み応え十分である。

第2章は「はじめてのフィンランド【ヘルシンキ編】」だ。深夜便か朝便か、ヘルシンキ中心部への足をどうするか等、順を追って説明する。さらに、徒歩10分圏内に凝縮された市街地の朝・昼・晩のご飯スポットや屋外のマーケット広場、デパートやスーパーなど、生活に根差した場所を次々に紹介。地元の方々の息遣いがきこえてくる。

その後さらに足をのばして、市街地から車で15分程度のアウトレットなどを紹介する。ヘルシンキ市街地から徐々に広がっていく紹介の手順が、まさに巣ごもり旅行をしているようで、私の妄想はブワーっと膨らんでいってしまった。実際私は、本書にある写真の風景の中に自分の家族を立たせてみて、何度もクスッと笑ってしまったくらいだ。

実を言うと、うちの子たちは、ディズニーランドでもアトラクションにはほとんど乗らず、ただブラブラと散歩して楽しむ派である。公式ホテルに泊まっても開門前の入園権を放棄して、その辺で遊んでいる強者なのだ。今後もし一緒に海外に行くことがあれば、フィンランドのような所が良いかもしれない。本書には、次のように書かれてある。

フィンランドには、パリのルーブル美術館や、ニューヨークの自由の女神のような目立つ観光スポットはありません。フィンランド人の日々の生活にちょっと混ぜてもらったり、フィンランド人がしあわせだと感じていることを、少しマネさせてもらえる「体験の国」なのです。  ~本書「はじめに」より

本書は第5章まである。第3章以降は行動半径を広げ、楽しみ方がどんどんディープになっていく。第3章は、ヘルシンキの西35キロにあるヌークシオの森とサンタクロースがいるロヴァニエミを紹介。4~5章では、ムーミン美術館があるフィンランド第2の都市・タンペレや、オーロラの聖地・イナリを紹介している。

そして本書の締めは、著者がiPhoneで撮影した見事なオーロラの写真と、サウナ(ロウリュ)の後にイナリ湖に飛び込んだ体験談だ。私は、映画のエンディング曲である井上陽水「クレイジーラブ」をiPhoneで呼び出して、目を閉じた。いつか本や自然が好きな家族を連れて行こう、と思った。あ~、この本を読んで良かった。自粛の束の間、気が晴れた。

ちなみに、本書によるとフィンランドは、日本とほぼ同じ国土面積に対し人口が4.6%でという、人口密度が低くゆったりした国だという。「ムーミン」や「サウナ」「マリメッコ」「国民の幸福度世界一」だけじゃなく、興味深いことに読書量と図書館利用率がともに世界1位なのだそうだ。きっと、読書などの余暇を過ごすための時間と場所が豊かなのだろう。

前職で私は、本と人の出逢いをつくる仕事をしてきた。でも、積読(つんどく)が日本特有の言葉であるように、最近は「果たして出逢いの先に豊かな時間を生み出せているのか」と疑問を抱くようになった。そんなことよりもまず、フィンランドのように「人々が落ち着いて、本を読める国にすること」が先なのかもしれない。

かつて井上陽水は、若者の自殺増加のニュースより問題は傘がないことだ、と歌った。巣ごもりの日々の中で、私が結論の出ない報道番組を暗い気持ちで観ていると、子供たちが不満をもらすことがある。そんな時は、私はリモコンを渡す。自分にもストレスが溜まっているかもしれないからだ。さぁ、美味しい「おにぎり」でも食べようか!

 

 最近、サウナは人気のようですね!

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