『文庫X』は、HONZでおなじみのあの一冊! 正体を隠すことで、どれだけ読者層が変わったのか?

古幡 瑞穂2016年12月11日 印刷向け表示
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殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)
作者:清水 潔
出版社:新潮社
発売日:2016-05-28
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今年、注目を集めた本ランキングというものがあったら、間違いなく上位に入ってくるだろう1冊があります。それが『文庫X』。盛岡のさわや書店フェザン店さんが、本1冊を熱いコメントで覆い覆面本としてタイトルを隠して売り続けた作品です。夏から今まで、長い期間正体不明の本とされてきた作品が12月9日にヴェールを脱ぎました。

文庫Xの正体はHONZ読者にはおなじみの、『殺人犯はそこにいる』です。すでに何度もレビューにも登場している作品ですが、この作品が『文庫X』としてどう売れていたのかを改めて見てみたいと思います。

『殺人犯はそこにいる』の文庫版の発売は今年の5月末。単行本でも売上が上がっていたこともあり、発売から堅調な売上を見せていました。とはいえ、ノンフィクションの文庫はそこから大ベストセラー…というわけにはなかなかいかないのが現実です。さて、発売から12月までの日別売上グラフを見てみましょう(日販オープンネットWIN調べ)

発売から、日が経つにつれて下火になっていた売上が8月から上向きに転じます。

Webメディア、新聞などが注目し記事になるにつれ、『文庫X』は全国に広がりました。その内容、取組に賛同した書店さんたちの手によって、続々「○○書店の文庫X(本は同一)」が作られ展開されていきました。
文庫X公式取扱店は11月末段階では、47都道府県600店を超える店舗にまで拡大したそうです。

さて、正体を隠すことで売り続けた『文庫X』はどういった方に購入されたのでしょうか?
2016年8月1日以降の購入者のクラスタがこちら

2016年8月1日以降の購入者クラスタ

以前、このコーナーで調査した時の『殺人犯はそこにいる』の単行本版のクラスタと比較してみると、その違いは明らかです。

購入者クラスタ

この単行本版の読者の併読本上位には、いわゆる実録ものや事件ノンフィクションなどが多く並んでいましたが、『文庫X』の購入者はいつもどういった本を読まれている方だったのでしょうか?

 RANK  分類  書名  著者名  出版社
1    『火花』  又吉 直樹  文藝春秋
2 文庫  『小説 君の名は。』  新海 誠  KADOKAWA
3 文庫  『64[上下]』  横山 秀夫  文藝春秋
4 文庫  『夢幻花』  東野 圭吾  PHP研究所
5 文庫  『その女アレックス』  ピエール・ルメートル  文藝春秋
6 文庫  『怒り[上下]』  吉田 修一  中央公論社
7 文庫  『仮面病棟』  知念 実希人  実業之日本社
8    『祈りの幕が下りる時』  東野 圭吾  講談社
9    『羊と鋼の森』  宮下 奈都  文藝春秋
10    『コンビニ人間』  村田 沙耶香  文藝春秋

こちらが併読本の上位タイトル。

文庫のベストセラー、それも小説のベストセラーが並んでいます。ずらっとラインナップを眺めていても、新書やノンフィクションはほとんど出てきません。

こうやって見ると、本当に文庫Xの取組は「いつもノンフィクションを手に取らない読者」を『殺人犯はそこにいる』に近づけたのだなということがわかります。

さて、『殺人犯はそこにいる』を単行本で読んでいた読者の併読本に、1冊注目すべき本があります。それが『慈雨』という小説です。

慈雨
作者:柚月 裕子
出版社:集英社
発売日:2016-10-26
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この小説の設定は、まさにこの『殺人犯…』そのもの。

16年前自らが捜査に加わって、犯人逮捕に至った事件と酷似した事件が起こります。主人公はすでに警察を定年退職した立場ですが、この事件の発生を聞いて、真相を求める正義と、警察組織との狭間で揺れ動くという見事な社会派小説です。『殺人犯はそこにいる』を読んで心揺さぶられた方にはぜひ読んでいただきたい1冊でした。

文庫Xは『殺人犯はそこにいる』に姿をもどして、新たな幕開けを迎えました。これがベストセラーになることで、社会はどう動いていくのか…これからの動きから目が離せません。

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出版社:中央公論新社
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