南極で家を建てるには 『南極建築 1957-2016』

足立 真穂2017年01月13日 印刷向け表示
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南極建築1957-2016 (LIXIL BOOKLET)
作者:石沢賢二
出版社:LIXIL出版
発売日:2016-12-16
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地球上で、家を建てるのが大変な場所はどこだろう? ジャングル? 砂漠? ツンドラ? 南極や北極? 極地観測のために建てられた南極基地の建築物を、写真と丹念な解説で見せてくれるこの一冊。昭和基地をはじめとする、極限環境での建築の数々は、こんな技術や人に支えられていた!

こんなにすごいことをしていたなんて、知らなかった。
この本の感想はこの一言に尽きるかもしれない。

南極といえば、高倉健がタロとジロを抱きしめる映画『南極物語』を思い出す人も多いだろう。1911年の、アムンゼンとスコットの壮絶な南極点到達競争を読んだことのある人もいるかもしれない。そういえば私は、「船の科学館」で南極観測船「宗谷」を見学した記憶もある(1979年から保存展示されているが、移設のため、一時的に2017年3月末まで一般公開を休止中。この「宗谷」もまたロマンあふれる船だ)。

と、その程度の知識しかない人でも読み応えじゅうぶん。なにしろこの本は、南極の説明から始めてくれる。

南極大陸の面積は約1388万キロ平方メートル。と数字を言われてもピンとこないが、世界で5番目に大きい大陸で、日本の約37倍だそうだ。

97%が氷で覆われており、その氷の量は、なんと地球上の氷の9割を占める。聞いてびっくり、何万年にもわたって積み上がった氷の、いちばん厚い部分は4000メートル! 富士山より分厚い。氷の大陸なのだ。

おまけに、記録された最低気温は、マイナス89.2度。さ、寒い……。レベルが違い過ぎて想像ができない。氷の量が多く、内陸部は温かい海水域から距離があるため、全体に北極よりも寒いそうだ。

この南極で、日本は1957年に基地を初めて開設する。この昭和基地の地には、今では70近い建物があり、2016年までに延べ3000人ほどが観測や作業のために暮らしてきたという。当然ながら、この人たちの活動を支えてきたさまざまな建築の歴史は、氷や雪との壮絶な戦いの歴史でもあった。

そもそもが、この極限の環境では自給自足などありえないので、資材や食料などすべての物資は運びこむ必要がある。つまり、輸送船の積載量で、建築の規模自体が決まる。制約されるといった方がわかりやすいかもしれない。しかも氷の大陸なので、氷を砕いて進む船が必要にもなる。普通の建築とは、土台からしてまったく異なるのだ。

定着氷の中を進む「しらせ」(1984年25次隊) 写真提供:国立極地研究所

内容を文中の見出しの章で追いかけると、「宗谷」(1956~1962)が活躍する「昭和基地の建設」「日本発のプレファブ建築」で南極建築は幕を開ける。

「高床式の建築へ」の章では、大型化した「ふじ」(1965~1983)が大量輸送を可能にし、建設の数が増えていき、基地や居住空間の機能性があがっていく。

「ふじ」に続いて、積載量1000トンの「しらせ」(1983~2008)が始動し、昭和基地以外の氷深い内陸部にも3か所の基地がつくられる。「内陸基地への挑戦」「南極生活をより快適に」の章だ。

「新しらせ」(2009~)のさらなる機能のアップで、2013年には、室温を20度に保てる太陽熱暖房システムを持つ、2階建ての自然エネルギー棟もできあがった。「自然エネルギーの活用」の章である。デザイン性も併せ持つこの自然エネルギー棟は、2011年のグッドデザイン賞を受賞した。

大まかにまとめたが、各時代にそれぞれの飛躍があり、その細部がとてもおもしろい。

ひとつ例を紹介しよう。

「プレハブ」(文中では「プレファブ」)という、建築に必要な資材をあらかじめ工場で製作しておき、それを現場で組み立てる工法があるが、最初の昭和基地の建築第一号が、プレハブ工法で生み出されたということはご存じだったろうか。

夏場の2カ月だけしか作業をできない環境で、重さや大きさに制限のある資材で素人の隊員たちが建設をするという条件のもと、基地の設計を託された日本建築学会内の南極建設委員が、この地での建設のために必死に開発した方法だったのだ。

その際の安全性のための設計基準はこちら。
1 最低気温はマイナス60度
2 風速は常時毎秒80メートル
3 最大積雪は屋根面で2メートル
4 地震力は零
5 湿度40パーセント(相対)
6 室内温度プラス20度(温度差80度)

床と壁と天井の木質パネルの規格をまず統一し、パネルをつなぐのに釘ではなく特殊なコネクターを使う。実作業では、分厚い手袋のままハンマー1本で作業ができるように、だれがやっても一定の精度を保てるようにする。

この条件をクリアすべく生まれた工法だったということだ。当時は実用化には程遠かったが、いま日本国内で使われているプレハブ住宅の基礎技術はここから始まったそうだ。
なんでもそうなのかもしれないが、厳しい条件下でこそものごとは必要に迫られて発展していくものなのだろう。必要は発明の母なのだ。

紹介しているとキリがないが、建築の発展の過程が、南極という極限状態に集約されているように、私には読めた。

国立極地研究所の写真の数々や、モリナガ・ヨウさんの手による、観測船から基地内部、暮し方に至るまでの丹念なイラストたちが、祖父江慎さんと鯉沼恵一さん(cozfish)のデザインによって無駄なく配置された珠玉の一冊だ。現地で苦労したひとたちの手記や解説が、サイズの小さな別紙で挿入されているのもまた粋で、さりげないところにも気配りがある。情報満載で何度も開くたびに発見があり、気分はすっかり南極観測隊員である。

越冬隊員の個人装備いろいろ。 イラスト:モリナガ・ヨウ

昭和基地・自然エネルギー棟(2013年54次隊) 写真提供:国立極地研究所、日本大学、公益財団法人 日本極地研究振興会、ミサワホーム株式会社

おまけに、人類共有の財産とされている南極には20か国41カ所の越冬基地があるのだが、その内の20ほどの基地の写真にはわくわくした。お国柄の表れたユニークな建築を眺めるのが楽しい頁で、言ってしまえば極限建築写真集だろうか。橇モジュールが並び、なんともかわいい印象のイギリスのハリー基地が、私は気に入った。

なお、本のタイトルと同名の展示が大阪(2017年2月21日まで)と東京(3月30日から5月27日まで)で開催とのこと(本はこの展示に併せての刊行)。私はまだ見られていないが、写真のほかに映像や模型もふんだんに見られるようなので、興味のある方は、本を片手に足を運ぶとよいかもしれない。

南極は、知れば知るほどおもしろそうだ。 

面白南極料理人 (新潮文庫)
作者:西村 淳
出版社:新潮社
発売日:2004-09-29
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