『再起動 リブート 波瀾万丈のベンチャー経営を描き尽くした真実の物語』起業でもっとも大切な、たった一つのこと

堀内 勉2017年01月17日 印刷向け表示
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再起動 リブート―――波瀾万丈のベンチャー経営を描き尽くした真実の物語
作者:斉藤 徹
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2016-12-16
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久し振りに本を読んで感動した。

本を読む理由というのは人によって、また場合によってまちまちだと思うが、自分の場合は知識欲に駆られて読むことが多い。自分が知らなかったことが分かること、世界の広さと深さを知ることがたまらなく楽しいのだ。

だから、小説は殆ど読まない。本当か本当でないか分からないような文章に興味がないから。学生時代から、先生に指定された課題図書を読むのも嫌だった。自分が知りたいと思う好奇心がベースにない読書は苦痛以外の何物でもないから。

ビジネスマンの自叙伝のような本も殆ど読まない。大抵の場合、ただの「凄い人伝説」に過ぎないから。「そんなこと普通の人に出来る訳がないでしょ?」ということか、或いは本人の自慢話しか書いていないから。

でも、本書は素直に読むことが出来た。自分と著者の年齢が近いこともあり、同時代の様々な出来事が実感を持って感じられたから。そして、本の帯に「僕は4回死に、そのたびに復活した」とあるように、おカネにまつわる生きるか死ぬかのギリギリの話が、自分が関わってきた金融と企業財務の話につながっているから。

本書は全ての起業家と全ての金融マンに読んでもらいたいと思う。起業とはどういうことであり、企業は何のためにあり、金融の役割とは何であるかの全てがここに書かれている。

本書の冒頭のプロローグ(2016年4月の出来事)に、著者が特別客員教授を務める学習院大学経済学部の講義「起業論」での、次のような学生とのやり取りの場面が出てくる。

著者「起業でいちばん大切なものって、なんだと思う?」
学生A「高い志とか、ですかね」
学生B「新しいものを見つける目利き力、とか」
学生C「最短距離で勝利をつかむ行動力。あと、カリスマ的な魅力も」
著者「そうだね。君たちの考えは正しいと思う。それらはすべて大切かもしれない。でも、たったひとつだけ、起業で大切なことをあげるとしたら?」
「鈍感なことだよ」
「僕には四度、死ぬチャンスがあったんだ」
「僕がここで君たちと話していられるのは、どんな危機にも動じない胆力を磨いてきたからなんだ」

「鈍感なこと」・・・小泉元総理が、「目先のことに鈍感になれ。鈍感力が大事だ。支持率が上がったり下がったりするのをいちいち気にするな」と言って取り上げた、渡辺淳一の『鈍感力』という本がかつてベストセラーになったが、あの時は、「世の中には嫌なことが沢山あるから、一々気にしていたら生きていられない」という程度に受け止めていた。

しかしながら、大組織を離れて個人として生き、起業家達と日常的に交わるようになって、本当にそうだなと思うようになった。「鈍感なこと」という短い言葉が、実感を持って腹落ちした。単に「鈍い」ということとは全く違う深みが、この「鈍感なこと」には含まれている。「死なないこと」、或いは、「生き抜くこと」と言い直しても良いかも知れない。

それでは何故、「鈍感なこと」がそれ程大切なのか? その答えが、一人の起業家の人生の軌跡として、本書に書かれているのである。

それからもうひとつ。本書を読むと、金融の役割とは何なのかを改めて考えさせられる。大学院でファイナンスを教える立場から、地方銀行のノルマ廃止の動きについて、先日、『月刊金融ジャーナル』の本年2月号に寄稿した。

今、銀行の淘汰と生き残り戦略の議論が盛んにされているが、結局、銀行が社会から求められる存在になること以外に生き残る道はないし、投信や保険の販売などといった小手先のことよりも、自らの社会的な存在意義を問い直すことから始めるべきだということを書いた。

そうした観点で、本書は銀行員やベンチャーキャピタリストなど金融に携わる人々に是非読んでもらいたいし、特に著者の次の言葉をよく噛み締めてもらいたいと思う。

「銀行は晴れの日に傘を貸し、雨の日にそれを奪う。彼らの手の平返しは今まで何度となく味わってきた。しかし、今回のこの仕打ちは、あまりにも失礼で、あまりにも一方的ではないか?」

「こちらが上り調子の時はいいのだが、手元資金に困って相談したとたんに顔をこわばらせる。一緒に力を合わせて成功しましょうというモードから、手を引くタイミングを見極めるモードに切り替わるのだ。それが金融機関に共通した行動パターンだった。」

「僕は心底ほうっておいてほしいと思った。森村氏(ベンチャーキャピタルから来た非常勤取締役)は経営を知らない。修羅場をくぐった経験もない。知らないから恐いのだ。銀行の取り付け騒ぎしかり、株の暴落しかり。資本の論理を優先させる人たちの特徴だ。そんな言葉で経営者が動揺し、未来を見失えば、本当に会社が倒産してしまうではないか。自分が不安だからと言って、なぜ人まで巻き込もうとするのか。」

その他にも、融資回収を巡る銀行との攻防など読みどころ満載なのだが、自分がここで回りくどい解説をするよりは、是非、本書を読んで、著者の生の文章に触れてもらった方が良いと思うので、最後に本書のハイライトである以下の文章を抜粋して、この書評の締め括りとしたいと思う。

「事業を成功させ、競争に打ち勝ち、ナンバーワンに登り詰める。僕にはできなかった堂々たる勝ち組の生き方だ。いつの時代も、リーダーの征服欲が世の中の仕組みを変革し、時として社会を良くしてきた。神の見えざる手という、資本主義におけるエネルギーの源泉もそこにある。起業家になってから、僕がずっと描いていた夢だった。

しかし、その夢の先に、僕の幸せはあったのだろうか。財産、名声、権力。外部の世界に幸せを求めれば、奪い合いは果てしなく連鎖してゆく。そこに僕の心の喜びはあるのだろうか。地を這うような失敗経験から得たお金より大切なもの。それは心の平穏、仲間や顧客の笑顔、社会貢献の実感、そして僕自身の成長だった。僕は知らないうちに、自分の感覚が麻痺していたことに気がついた。僕の幸せはもっと身近なところにあったのだ。

僕は世界をより良くしたい。それこそが、創業のミッションであるべきだ。企業にとって利益や拡大よりも大切なものがある。それは人を幸せにすることだ。「なんとかする会社」に憧れ、自分自身が楽しんで暮らすことを夢見て創業した僕が、数多くの失敗をへて、ようやくたどり着いたこと。それは人を幸せにしたい、世の中をよりよくしたいという、起業家が持つべき使命だった。

起業家の存在意義は、やみくもに会社を大きくすることではない。自分たちが生み出すプロダクトやサービスを通じて、人々の幸せの循環を生み出し、より良い世の中を創ってゆくことだ。その社会的な価値を認めてくれる人がいてはじめて事業が社会に根をおろし、結果として持続的な成長ができるのだ。」 

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