凝集と拡散のせめぎ合い──『宇宙に「終わり」はあるのか 最新宇宙論が描く、誕生から「10の100乗年」後まで』

冬木 糸一2017年03月08日 印刷向け表示
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書名と副題からもわかる通り、本書は宇宙史を扱った一冊だ。

これがもうびっくりするぐらいおもしろい/わかりやすい! 他の解説本で、書かれている意味がよくわからずに何度も何度も辛抱強く読み返してようやく理解したようなことが、スッと理解できる形で、より短くまとめられていて、まずその端的なわかりやすさに感動してしまった。

本書は深いテーマを掘り下げていく類の本ではないからこれ一冊で宇宙は全てOKというわけではないけれども、その代わりに俯瞰的に宇宙の歴史をまとめ、宇宙の始まりから終わりまでを適切に駆け抜けてみせる。「宇宙論の本って出すぎていてどれを読んだらいいかわかんない」という人も多いだろうが、そういう人にこそまず本書を渡したい、そんな決定的な一冊なのである。

そもそも終わりはあるのか?

書名には「宇宙に「終わり」はあるのか?」 と疑問形で書かれているが、宇宙にも終わりはある。本書で宇宙の到達点とされるのは10の100乗年あたり。億も京も該も恒河沙(10の52乗)も那由多(10の60乗)も、不可思議(10の64乗)も、無量大数(10の68乗)も遥かに超えたこの頃、宇宙はビッグウィンパーと呼ばれる拡散の極限状態に達し、新しい構造形成を起こす材料もエネルギーも供給されない、器は残っていても代謝の一切起こらない死体の状態になるとされる。

現在は宇宙のはじまりとされるビッグバンから数えると138億年後になるが、10の100乗年と比べるとまだまだ生まれたばかりといえる時期だろう。我々人類や地球の生物のようなものがこの時期に生まれているのも決して偶然ではない。活発な元素や惑星の形成は主にビッグバンから100数十億年の間に起き、この時期を過ぎると恒星は次々と燃え尽き、天体は崩壊し生命が生まれるのはどんどん厳しくなっていくので、基本的にはこの時期にしか生まれ得ないのである。

われわれ人類は、長期にわたって安定している宇宙に次々と登場する無数の知的生命の一つではなく、混沌から静寂へと向かう宇宙史の中で、凝集と拡散が拮抗し複雑な構造の形成が可能になった刹那に生まれた、儚い命にすぎない。

本書の構成としては、第一部・過去編で、ビッグバンによる物質の生成や天体の形成、138億年後の現在に至るまでの歴史を解説する。その後、第二部・未来編は、暗黒エネルギーなど未知の条件があるためシナリオは確定していないが、確率性の高い予測を元にして、恒星の死、銀河の崩壊、物質の消滅からブラックホールの蒸発までを物凄い速度でかっとばしてみせる。

夜空はなぜ暗いのか?──ビッグバンから138億年後まで

過去編はビッグバンの「始まりの瞬間」からはじまって(ビッグバンの前には何があったのか? という話もちょろっと。これについてほとんどわかっていないが)、ビッグバンから10分までの短い間に何が起こったのか(素粒子の誕生、元素の合成などなど)を解説しと立ち上がりはスロースタートだがその後一気に100万年まで加速し、いろいろと面白いトピックが出揃ってくる。

たとえば夜はなぜ暗いのか? という問いに対しては「宇宙空間が膨張したから」という端的な答えが返ってくる。宇宙空間の膨張が続いてエネルギー密度が低下したため、宇宙からはどんどん昔のような輝きが失われていったため相対的に暗くなっていったのである。いっぽう、膨張し宇宙の温度が4000度から3000度付近にまで下がることで電子と陽子は結合して水素原子に変化し、それまで電子によって散乱されていた光はまっすぐ進むようになる。

宇宙はより透明になり、我々のいま知っている状態へと一歩近づいた。この時の光は宇宙空間のあらゆる場所に存在する太古の光として今でも観測できるのだ。その後、恐らくはガス雲の内部で物質を集めながら成長した第一世代の星が生まれ、続いてその星内部の核融合や終わりにやってくる超新星爆発によって複雑な元素が生まれ、我々の"現在"、138億年へとつながっていく。

宇宙の終わり

138億年以後には何が起こるのか? たとえば太陽程度の質量を持つ恒星はおおむね寿命が数百億年以下なので、100億年も経てば次々とその姿を消していく。新たな恒星が渦巻銀河や矮小銀河で誕生するが、生まれる数より減る方が多いので少子化現象的に総数としては減少する。

赤色矮星は中心部の温度が密度が低いため寿命が1兆年に達することもあるので寿命は他よりも相当長いが、その性質上陸地は存在しにくく光量が不足すると予測されるので、赤色矮星以外の恒星が消えゆくことで宇宙から生命も減っていくと考えるのが自然だろう。さらにその先(宇宙暦100兆年)まで時計の針を進めると、明るく輝く星はすべて消え、銀河は暗黒に包まれてしまう。

1該年も経つと銀河を構成する天体はほぼ蒸発する。残った天体は中心部へと凝縮し、そこに存在するブラックホールへと飲み込まれていく。いくつかの理論によれば1澗(10の36乗)年も経つと今度は陽子の崩壊がはじまり、物質はどんどん失われていく。陽子って崩壊するんだなあと馬鹿みたいに驚きながら読んでいたが、1澗年とは途方もない数字で正直イメージが掴めない。

こうして宇宙暦1正年(10の40乗年)頃には、陽子や中性子は宇宙空間から完全に姿を消し、電子、陽電子、ニュートリノ、光子が薄く漂うだけとなる。だが、まだ完全な終わりではない。所々に、巨大なブラックホールが残っている。

「だが、まだ完全な終わりではない」なんて書かれると最後に残った救世主的に思えてくるブラックホールだけれども、別に宇宙を救うわけでもなくただ最後まで残っているだけである。

『宇宙の歴史は、凝集と拡散のせめぎ合いとして展開される。』とは本書で繰り返し述べられるフレーズだが、凝集の到達点が、この宇宙暦1正年後に存在する銀河を飲み込み周囲に他の何も存在しない超巨大ブラックホールといえる。いっぽうで、拡散の到達点は、陽子にも中性子にも見捨てられ、もはや星の存在しない空間を漂う電子、陽電子、ニュートリノ・光子などの素粒子であるといえる。凝集と拡散の極点に至ることで、宇宙に(ひとまずの)終焉が訪れるのだ。

おわりに

ことここまで至ってしまえば、残ったやつら(電子とかブラックホールとか)は両手で数えられるほどに減ってしまい、100億年頃の賑やかだった頃は違って寂しいもんである。この目でその状況をみてみたいものだが、さすがにもう生物も残っていないだろう(そもそも惑星がない)。

最後に残ったブラックホールがどのように蒸発していくのか。そして、そこに至るまでのこの宇宙の変貌過程はぜひ読んで確かめてもらいたい。ただひたすらに楽しく知的興奮に満ち溢れ、それでいてブラックホールの性質から素粒子物理学の初歩的な理論まで学べる最高の一冊である。

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