『猿神のロスト・シティ』 地上最後の秘境に眠る謎の文明を探せ

刀根 明日香2017年05月17日 印刷向け表示
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猿神のロスト・シティ―地上最後の秘境に眠る謎の文明を探せ
作者:ダグラス・プレストン 翻訳:鍛原 多惠子
出版社:NHK出版
発売日:2017-04-25
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4年前に読んだ『マチュピチュ探検記』が面白くて、その後は本屋さんに行く度に冒険記を手に取るようになった。この本のなかで、遺跡探検の背後では、歴史や文化、権力闘争や学界論争などが何重にも折り重なって物語が形成されていることを知った。さらに夢中になったのは、遺跡探求には決してゴールがないことだ。例えばマチュピチュでは、後に発見される資料から以前に発見されていたことが新たに分かったり、第一発見者が盗掘の疑いがかけられたりと、未だにマチュピチュの遺跡にまつわる物語は終わっていなかった。

本書を本屋で見かけたとき、鬱蒼たる熱帯雨林に日光が拒まれ薄暗い中、無秩序に絡み合う木の根と生育する苔をバックに白色のタイトルが良く映えてかっこ良かった。副題は「地上最後の秘境に眠る謎の文明を探せ」、帯には「NASAの最新テクノロジー×考古学調査」の文字。21世紀にふさわしい冒険のかたちとはどのようなものだろう。現代まで科学調査が入らなかった土地にはどんな謎が隠されているのだろうか。

本書の舞台は、中米ホンジュラスの東部、モスキティアと呼ばれる地方だ。そこには地上最後の人跡未踏の地があると言われている。密生した熱帯雨林で生息する毒ヘビ、ジャガー、熱帯地方特有の病気の脅威に加え、殺人発生率は世界一という治安の悪さ。南米からアメリカ合衆国に入ってくるコカインの80%がホンジュラス産で、大半がモスキティア経由で送られている。

二重の恐怖により、人が寄り付くことがなかった結果、不思議なことが起きた。モスキティアは人を魅了してやまない伝説の地となったのだ。伝説によると、ジャングルの奥地に白い石造りの「失われた都市」が眠っている。その都市は、「シウダー・ブランカ」「白い都市」「失われた猿神王国」などと呼ばれていた。

何世紀もの間、白い都市を発見しようという試みは、近くの金鉱目当ての詐欺まがいの行為か失敗で終わっていた。多くの専門家が荒唐無稽なおとぎ話とあざ笑うなか、やっと、映画製作者だったエルキンスによって探検は動き出す。

エルキンスは、先が見えないプロジェクトの最初の柱として、白い都市の発見に挑んだ大勢の人びとの物語を念入りに調べた。物語の真偽を図るのは難しい作業だったが、信頼出来る人物を探し当て、手書きの地図を手に入れる。

第二の柱は、調査に最新の宇宙時代のテクノロジーを取り入れたことだった。赤外光と可視光で撮ったモスキティアの衛星画像の大量解析を行ったところ、自然界にはない直線的または曲線的な形状の物体が存在する地域の特定に成功。それらをT1(ターゲット1)と名付けた。T1は舟を入れられる川がなく、完璧に山に囲まれていた。

もちろんこれだけではまだ手がかりが足りない。2010年、59歳のエルキンスは、シウダー・ブランカの謎にすでに20年という歳月と大金をつぎ込んでいた。

しかし、エルキンスは運に見放されたわけではなかった。ある日雑誌の記事に、「ライダー」と呼ばれる強力なテクノロジーの話を見つける。ライダーはもともと月面のマッピングや広面積の地形測量などに用いられる技術である。実は、ライダーこそが3Dマッピングの製作を促し、地上調査に踏み込む突破口となる。

そこから一気にプロジェクトは前進する。2012年にジャングルのライダー調査、15年に地上調査、16年に発掘を行った。地上調査では、遺跡から200メートルのところに降り立ってベースキャンプを建設する。ジャングルで過ごす数週間の様子は圧巻である。キャンプ初夜、世界でもっとも危険なヘビのフェルドランスがキャンプに迷い込んだり、夜な夜なジャガー気配を感じる。声をあげるホエザルの群れや、熱帯病を感染させるハエなどに加えて、突発的な雨も降り乱れ、一帯が泥の海となったりした。

はたして、エルキンスらはマヤ文明に匹敵する「失われた都市」を発見出来たのか。なぜ、彼らは忽然と姿を消したのか。

このドキュメンタリーに一貫してあるのは、果てしないエネルギーだと思う。とくに、エルキンスの執拗な挑戦がなければ、未だにシウダー・ブランカは発見されていないかもしれない。ライダーが考古学的調査に用いられることもなかったかもしれない。

そして、もちろんこの遺跡調査はまだ始まったばかりだ。謎解きが遂行すると同時に、遺跡を盗掘から守られるべき環境整備や、ジャングルの生物学的調査、熱帯雨林特有の病気治療など多くの可能性が見えてきた。世の中をあっと変えるような発端を、本書は記録している気がして、背中がぞくぞくするような一冊だった。 

マチュピチュ探検記 天空都市の謎を解く
作者:マーク・アダムス 翻訳:森夏樹
出版社:青土社
発売日:2013-06-24
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マチュピチュ第一発見者ハイラム・ビンガムの足跡をたどり、世界遺産の驚くべき謎を解き明かす。 刀根の書評はこちら

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2017.5.25 00:47

面白そう。マイケル・クライトンの小説『失われた黄金都市』を思い出しました。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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