『みんなの朝ドラ』もっとみんなで朝ドラについて語り合いたい!

首藤 淳哉2017年06月03日 印刷向け表示
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みんなの朝ドラ (講談社現代新書)
作者:木俣 冬
出版社:講談社
発売日:2017-05-17
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朝の過ごし方に自分なりのルーティンがあるという人は多いだろう。「起き抜けに必ずトイレに行く」とか、「朝食には納豆が欠かせない」とか、人それぞれいろんなルーティンがあるだろうが、かなりの確率で「朝ドラを観る」と答える人もいるのではないだろうか。

みなさんにとって初めての朝ドラ体験といえば、どの作品になるだろう? 古い話で恐縮だが、ぼくの場合は『まあ姉ちゃん』(1979年)だ。主演は熊谷真実。原作は長谷川町子の自伝エッセイ漫画『サザエさんうちあけ話』である。

その後も、星野知子主演の『なっちゃんの写真館』(1980年)や、手塚理美主演の『ハイカラさん』(1982年)など、印象に残る作品がいくつかあったが、朝ドラが社会現象になるのを目の当たりにした『おしん』(1983年)の記憶はやはり鮮烈だ。

朝ドラの正式名称は、「連続テレビ小説」。NHKで月曜~土曜日の朝8時00分から15分間放送されている連続ドラマだ。

1961年に放送がスタートし、現在オンエア中の『ひよっこ』は97作目にあたる。テレビが観られなくなったと言われる昨今でも、平均視聴率が20%を超える作品はざらにある。これほどの長きにわたって視聴者に支持されているコンテンツは珍しい。だからこそ朝ドラの歴史には、ぼくらが気づかないうちに日本社会の変化が投影されているのだ。

『みんなの朝ドラ』は、朝ドラが時代にどう寄り添ってきたかを読み解く楽しい一冊。著者の木俣冬は、毎日せっせと朝ドラのレビューをネットにアップし続けている奇特な書き手だ。朝ドラについて語らせたら、彼女の右に出る者はいないだろう。

ところで、朝ドラについてみなさんはどんなイメージを持っているだろうか。朝ドラ制作者のあいだでは、<明るく・元気に・さわやかに>という朝ドラ三原則が受け継がれているという。当初、朝ドラは家族ドラマ路線でスタートしたものの、早々に“女の一代記”という方向性を見出し、以来、歴史の出来事に翻弄されながらも、<明るく・元気に・さわやかに>困難を乗り越えて成長していくヒロインを描くことがひとつのパターンとして定着していった。

だがそんな朝ドラもやがて低迷期を迎える。90年代から00年代にかけて、視聴率が10%台にまで落ち込む番組が出てきたのだ。この頃、絶好調だったのは『東京ラブストーリー』(1991年)から快進撃がはじまったフジテレビの月9で、著者は、女性の生き方や考え方が多様化したことを、朝ドラがうまく掬い上げられなかったのではないかと指摘している。

思えばこの頃は、日本テレビの『金田一少年の事件簿』(1995年)やフジの『踊る大捜査線』(1997年)など、これまでにないユニークな切り口のドラマも多かったし、主婦向けのドラマでも、東海テレビ制作の『真珠夫人』(2002年)のようなドロドロ路線のメロドラマが人気を呼んでいた。これらに比べると、当時の朝ドラはあまりにもオーソドックスで、面白みに欠けていたように思う。

そんな朝ドラに転機が訪れたのは、2010年のことだ。この時、48年ぶりに放送時間の変更が行われた。それまでの朝8時15分の開始時間を8時00分に繰り上げたのである。当時民放の情報番組が軒並み8時スタートだったため、おそらくその視聴習慣にあわせたものと思われるが、結果としてこの策は当たった。この時の作品は『ゲゲゲの女房』。ここから再び朝ドラの快進撃が始まるのである。

『ゲゲゲの女房』ではこれまでにない動きがみられた。視聴者の中から「ドラマ絵」(ドラマの登場人物の似顔絵)をネット上にアップする者が現れたのだ。一般視聴者のみならず、プロの漫画家たちもこぞって参戦したこの「ドラマ絵」は、『あまちゃん』(2013年)でその盛り上がりがピークに達する。

「ゲゲ絵」や「あま絵」の名で親しまれた「ドラマ絵」は、いわば視聴者が番組をネタにはじめた遊びである。制作者目線でみると、受け手が勝手に番組をネタに盛り上がってくれるというのは願ってもない動きだ。それだけ番組が愛されていることになるからだ。

この動きを、当時ポピュラーになり始めたツイッターが後押しする。さらに『ゲゲゲの女房』と同時期にはじまった情報番組『あさイチ』の冒頭で、井ノ原快彦や有働由美子らが、直前の朝ドラについて感想を語りあう「朝ドラ受け」をはじめたことも、盛り上がりに拍車をかけた。

かくて朝ドラは、「一人ではなく、みんなで楽しむもの」へと変貌を遂げる。2010年以降の朝ドラの成功のベースにあるのは、この視聴スタイルの変化だ。「お茶の間」という言葉は死語になって久しく、もはやテレビはひとりで観るのが当たり前の時代だが、SNSなどを介して、「(ひとりなのに)ひとりではなく、(みんなではないけど)みんなで観る」という新しいスタイルが生まれたのである。

朝ドラの楽しみ方が、SNSでつながった“志”を同じくする人々と楽しむものへと変わったこと。これが新生・朝ドラの実像だと著者は分析している。

ところで、ここまでの紹介は、本書のほんの入り口の部分に過ぎない。この本の真骨頂は、2010年代の朝ドラ作品を中心とした作品分析にある。これを読めば、近年の朝ドラがいかに多様な女性像を描いてきたかがよくわかるだろう。しかも脚本家の岡田惠和が本書の中で「同じ人物たちのことを長く描けるのは、朝ドラだけ」と述べているように、ひとりの女性の人生をじっくり描けるのは朝ドラならではの強みである。ぜひこれらの作品評は本書を手にとってお読みいただきたい。

少しだけさわりを紹介すると、たとえばヒロインに朝ドラ初の外国人女性(シャーロット・ケイト・フォックス)を起用して話題になった『マッサン』(2014年)の作品評では、わが国の国際結婚の実情と歴史が語られた後に、羽原大介の脚本の特色が師匠のつかこうへい作品との対比で分析され、最後は「内助の功」などの独特の文化にカルチャーショックを受ける主人公エリーの姿が、古い文化とは隔絶した平成生まれの日本人と重ねあわされる、といった具合である。

サブカルチャー作品を時代との関わりで論じた本は多いが、往々にして単なる印象批評に止まりがちだ。木俣冬の朝ドラ分析はそうではない。ひとつの作品をあらゆる角度から論じ、多様な読み解き方を提示してみせる。実に見事だ。

でもなにより素晴らしいのは、根底に深い愛があることではないだろうか。おそらく著者は、「もっとみんなで朝ドラについて語り合いたい」というその一心で、本書を書いたに違いない。それは批評のあり方としては、とても幸せなことではないかと思うのだ。

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