『教養としての社会保障』

出口 治明2017年07月15日 印刷向け表示
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教養としての社会保障
作者:香取 照幸
出版社:東洋経済新報社
発売日:2017-05-19
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少子高齢化が進む中で、社会保障の持続可能性について不安を持つ人々が増えているようだ。「年金は破綻する」といった論調などその最たるものであろう。僕は半世紀近く生命保険業界に身を置いてきたので補完関係にある社会保障については昔から興味があったが、この分野では信じられないようなトンデモ本が多くバランスの取れた概説書に出会った記憶があまりなかった。

社会保障は、マクロの風景(制度の全体像)とミクロの風景(私をどうしてくれるの)とが乖離しているので理解が難しいのだ。本書を読んでようやく探し求めていた良書に巡り会えた感がした。

本書は3部構成をとっている。第Ⅰ部では、ビスマルクに始まる系譜、基本哲学からわが国の社会保障制度の概要まで制度の基本が過不足なく語られる。社会保障があるからこそ、人は「思い切って飛べる」のだ。

第Ⅱ部はマクロから見た社会保障。少子高齢化に喘ぐ社会の現状、産業としてGDPの2割を支える社会保障、国家財政との関係がバランスよく整理されている。ドーマーの定理を踏まえた形でなぜ基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)が重要なのか、という図解説明も分かりやすくて勉強になる。

Ⅰ、Ⅱ部とも記述が公正かつ客観的で説明を裏付ける図表やデータも豊富であり、わが国の社会保障が置かれている状況の全体像がとても理解しやすい。これ以上に正確でコンパクトな説明は誰もできないだろう。さすがにプロの仕事は違うと唸らされた。 

そして第Ⅲ部は、安心を取り戻すための改革の方向性や具体的な政策提言が語られる。著者は北欧モデルを1つの参考にしているようだが、「安心と成長の両立」「人への投資による社会の活性化、即ち教育・労働・社会保障の一体的改革」「就労と家庭の持続的両立」「普通の人が普通に働いて普通に暮らせるための年金と雇用を一体とした制度設計」「個別医療機関によるマンツーマン・ディフェンスから地域の医療機関全体でのゾーン・ディフェンスへ」など骨太の方向性に異論を挟む人はおそらくいないだろう。

「日本国が潰れない限り公的年金制度は潰れません」「積立方式でも賦課方式でも本質的には同じ」など年金にまつわるトンデモ論に対しても小気味がいい。僕は、被用者保険の適用拡大こそが社会保障改革の本丸だとずっと思ってきたが、「非正規労働者を被用者保険の適用外としているということは、『格差をなくそう』としている社会保障制度が格差を再生産しているということですから、洒落にもなりません」という著者の言葉に深い感動を覚えた。この国の将来を考えるための必読書だと思う。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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