ダマされても憎めない『ananの嘘』

アーヤ藍2017年07月18日 印刷向け表示
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ananの噓
作者:酒井順子
出版社:マガジンハウス
発売日:2017-03-22
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雑誌はその時代のトレンド、社会の流れを掴むもの。だから1冊の雑誌の来歴をたどれば、自ずと、時代ごとの社会の変遷を読み取ることができる…。

そんな普段とは異なる「雑誌の楽しみ方」をみせてくれるのが本書『ananの嘘』。創刊から45年を迎えた雑誌『anan』(以下、アンアン)の2000号に及ぶ誌面を、『負け犬の遠吠え』他の著者である酒井順子氏が分析した一冊である。 

やけに過激なウーマンリブ時代のアンアン

アンアンが創刊されたのは1970年。当時はまだ「ちょっと働いたら寿退社」という道が一般的だったものの、恋愛結婚する人の割合がお見合い結婚する人の割合を初めて上回り、「自由に恋愛できる時代」に突入したのが、この頃。同時に、ウーマンリブの潮流も世界的に生まれ、「女性はこうあるべき」という規範が大幅に揺らぎはじめていた。

そんな時代に誕生したアンアンは、やけに過激。おしゃれ有名人のヌードの家族写真を連載するなど、裸の写真が随所に登場するほか、
「太ったってイイじゃない!!」
「チビで、デブで、しあわせです アンアンはチビデブを支持します」
「ことしはレズビアンを体験してみることに決めました」
など、非常にユニークな特集が目白押し。

「一説によれば、ヤセには不感症が多い」と、根も葉もない説を展開したり、「痴漢だってヤセはねらわないヨ」と、やけくそ気味に瘦せ型体型の人に対する攻撃性を見せることも…。目を疑うような論調も多いが、それらは当時の社会を包み込んでいた「既成概念にとらわれたくない」「タブーに挑戦したい」という意識を反映したものといえる。

そんな初期アンアンが取り上げるファッションも、「異性ウケより自分ウケ」「異性におもねらず自分の行きたい道を行く」というスタイル。旅特集でも、「これからの旅はウーマンリブで行こう!」と提唱。

「女性のひとり旅というのは…(略)…古来よほどの事情がない限り、あり得なかったものとみえて、いまでも観光施設というのは男性用にできているんだなあ!とくに旅館のお風呂が家族風呂とか称してひと回り小さいのは許せないし、食事というと山の中でもノリ・サシミ・スノモノと内容より格式ばかりを一応ととのえた料理を出すのも、亭主関白の悪影響だと思います。…(略)…彼等の好きなセレモニー(儀式)の悪いクセをどんどん注文つけて変えるようにしませんか!」

男性ばかりの団体旅行がメインだった当時、男性中心の旅業界へ異を唱えよと読者をアジる。

そればかりでなく、女同士で旅をするのも何かと「相談ごとがたいへん」だから、「もうそろそろ一本立ちしたらどうです?人生って孤独なもんなんですよ」という勇ましい文章とともに、ひとり旅を推奨する。

お土産は「だれかにあげるためのものを買うくらいなら、駅弁3人前食べちゃうほうがいい」。新幹線だけでなく、予約、予定、ガイドブックは全てNG。宿泊先が見つからなければ「寺や道端にでも寝ればいい」。「貞操の危機」もあるかもしれないが、「かみつき、けり、引っかき、その気なら必ず身は守れます」と主張。無茶振りにも思えるような内容であれ、とにもかくにも、“何ものにも縛られず、自分で自分の人生を生きること”を、この時代のアンアンは読者に訴える。

保守化し、迷走するアンアン

しかし、1973年頃になると、学生運動やヒッピームーブメントといった、体制に反抗する人々の動きも次第に収束していく。社会の刺々しいムードが収まるにつれ、アンアンも世間の動きに同調するかのように「保守化」していく。

「いま銀座で売れている服」「いま渋谷で売れている服」など“皆が着ている服”の特集や、ジーンズよりスカートやワンピースなど女性的なスタイルの特集が増加。

アンアン自身の“迷い”が顕著に現れたのが、2つの対極のファッションスタイル、「ニュートラ」と「リセ」だ。どちらもアンアンが日本で初めて紹介したスタイルだが、ニュートラが「スカート着用、画一的、高級志向」であるのに対し、リセは「ズボン着用、自由、お金をかけない」スタイル。両者は、保守vs革新の対立であるだけでなく、モテvs非モテの対立でもある。

ニュートラが、男性に対して『私は女性です』と叫びながら歩いているファッションだとしたら、リセは、『男女平等』と呼びかけながら歩いている服かもしれません

この頃になると、恋愛結婚とお見合い結婚の割合は7:3ほどに逆転し、「結婚するには、自分の力でモテなければならない時代」になっていた。女性の社会進出がさほど進んでいないなかで、条件のいい相手と結婚するためには、過酷な椅子取りゲームに参入しなければならない。そんな潮流のなかで、アンアンもまた、どちらに舵をとればいいのか悩んだ様子が誌面にも表れる。

その悩みを自覚したかのごとく、1979年4月発売の第218号では、「お別れ大特集 さよならアンアン」と銘打ち、リニューアルを発表。高度経済成長のピークだった70年代にも別れを告げ、80年代からは、改めて「個性の時代」へと入っていく…。

***

その後もアンアンは、ウーマンリブの精神から、実家を出て一人暮らしすることを推奨したり、女性の社会進出を促すべく、「憧れの職業」を紹介したりする一方で、結婚への願望に揺さぶられたり、現実逃避でスピリチュアルな世界に入り込んだりしていく。

悩み、奮闘し、喝を入れ、奔放さに憧れ、時に癒しを求め…アンアンの45年間の変遷ぶりは、まるで一人の女性の人生そのもののようにも思える。首尾一貫しているとは言い難い内容に、思わず失笑してしまう部分もある反面、読み進めるほどに、日本の女性たちが直面してきた社会の荒波を、ともに乗り越えてきた”憎めない相棒”のようにも思えてくる。

…と同時に、アンアンだけではなく、多くの雑誌が抱えているであろう「嘘」にも、本書はきっと気付かせてくれるはずだ。

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