『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』コンサルティングの終焉

新井 文月2017年08月07日 印刷向け表示
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筋が通った正論に対して、直観が納得しないときがある。

本書タイトルでいう美意識は、デザインや広告などクリエイティブに関する領域かと思われがちだが、ポイントはそこではない。

近年、英国ロイヤルカレッジオブアート(RCA)など世界有数の美術系大学は、フォードやビザ、製薬会社グラクソ・スミスクラインといったグローバル企業の幹部に対して美術プログラムを提供している。これらを受ける理由は、数値化が容易でなく、論理だけでは問題点がはっきりと浮かびあがらない状況について、意思決定の判断力を鍛えるためだ。

著者は経営戦略コンサルティングの業界で10年間働いた結果、現在に蔓延するサイエンスベースのコンサルティングは限界を迎えたと述べている。そのため本書では、抽象度の高くなりがちなアートとデザインが、ビジネスにおいてどう影響をもたらすのかを具体的なエビデンスでもって明文化されている。

本書いわく経営において、アートとサイエンスとクラフト(経験に基づく知識)がそれぞれ主張すると、サイエンスとクラフトが勝つ構図となっている。ビジネスにおける意思決定では、論理と直感の対決では論理が勝つからだ。そして、理性と感性においては理性が優位となる。

つまりサイエンスの立場でアートを批判することは容易であるが、その逆は難しいということになる。コンサルティングのマッキンゼーが画期的だったのは、それまで経験値に基づいたクラフト型の企業意識の決定権に、数字を用いたサイエンス式を導入したからだ。「なぜこうなるか」を説明できるアカウンタビリティーがサイエンスの最大の強みだったからである。

そして企業活動は、様々な評価指標(KPI)によって計量される。そのやり方はコストとスピード重視であり、数値で表され、他の企業もコピーが可能である。しかし、どの企業も分析重視で舵をとるあまり、結果どこも同じような解に進むコモディティ化が進んでしまった。ならば最初から問題点を解決しにいくアート・デザイン的思考が、最善の回答に近づくのではないだろうかと筆者は検証を重ねた。

しかし歴史を振り返れば、過去の優れた意思決定の多くは、感性や直感に基づいていることが多い。絵が描けることは、実際にビジョンが描くパフォーマンスが高いと言う統計結果があるが、そういえば20世紀において強力なリーダーシップを発揮した2人の政治家、ウィンストン・チャーチルとアドルフ・ヒトラーも絵描きだった。

ちなみにアーティストでない人にとってドローイングは、目に映る物事の再現または空間における外形をとらえる作業と思われがちだ。しかしドローイングは開発ツールである。即興的に構造化された思考をマッピングする方法としては最速だと実感する。

ユニクロにおける佐藤可士和氏や、良品計画におけるアドバイザリーボードの存在など、経営者は近年コンサルタントではなく、デザイナーやクリエイターを相談相手にしている。デザイナーは混沌とした現状を認識し、エッセンスをすくい取って、後は切り捨てることが得意だからだ。そのエッセンスは視覚的に表現すればデザインになるし、文章に表現すれば会社のコピーになる。それはもちろんビジョンや戦略にもなりうるのが容易に想像できる。

芸術の役割は見えるものを表現することではなく、見えないものを見えるようにすることである


パウル・クレー(1879-1940)

本書では、美意識の高い(直観力のある)人間をトップまたは決定権を有するポジションに据え、両脇をサイエンスとクラフトで固めパワーバランスを均衡させるのがよいと語る。アート/デザインの部分の直感が先行指導し、サイエンスが補強する形、つまりコンサルティングを本来の意味で利用するのだ。

本書では企業が論理に偏りすぎていたことに警鐘を鳴らしている。もはやマッチポンプ的コンサルティングは終焉を迎えたのかもしれない。となると生産性や効率性の状況に危機感を持つことが、問題解決への第一歩となるのではないだろうか。本書はその舵取りにおける判断材料のひとつに加えても良いだろう。

世界デザインスクールランキングで1位になったロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)。授業はドローイングなど手作業を軸としている。生徒はリスクを犯し新たな方向性を切り開くのと、先行き不安でも心穏やかに暮らしていくことを学ぶ。Airbnbの3人の創立者のうち2人が卒業生ということでも有名。ジョン・マエダはRISDの学長に就任したが、STEM教育にアートとデザインの(A)加えたSTEAM教育を推奨している。

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