2017年 今年の一冊 HONZメンバーが、今年最高の一冊を決める!

内藤 順2017年12月30日 印刷向け表示
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平成という一つの時代が終焉を迎えつつある今、改めて思うのは、この元号がいかに言い得て妙であったかということである。

「国の内外、天地とも平和が達成される」という本来の意味には程遠かったが、たしかに世の中は、平ら(フラット)に成ってきた。売り手と買い手、情報の発信者と受信者、大企業とスタートアップ、中心と周縁、あるいはメインストリームとカウンターカルチャー。

だから、けもの道のような場所でもひたすら歩き続けていれば、突然スポットライトを浴び、メインストリームに躍り出る瞬間がある。しかしそれも長くは続かず、また別のけもの道を探しにいく。HONZの活動など、基本的にこの無限ループなのだが、これがやっていて案外楽しい。

HONZメンバーが、2017年最高の一冊を紹介するこのコーナー。まずは、けもの道を歩きつづけるメンバー達の珠玉の一冊から紹介していきたい。

冬木 糸一 今年最も「人類の可能性に驚かされた」一冊 

動物になって生きてみた
作者:チャールズ フォスター 翻訳:西田 美緒子
出版社:河出書房新社
発売日:2017-08-17
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今年も、脳科学、宇宙、物理学、戦記、歴史と各方面で傑作といえるノンフィクションがワンサカ出たけれども、今年もっとも僕の記憶に残って、そのうえ「人類っていうのはここまで出来るんだ!」と可能性に驚かされたのはチャールズ フォスター『動物になって生きてみた』だ。著者はほぼ無策で動物になろうとし、アナグマとなって森で暮らしカワウソとなって川に潜みキツネとなって四つん這いで都会を駆け回る。

完全に狂人の類だが、この狂人、なぜか文章も異常なほどにうまいのである。両立しえないふたつが両立することまで含めて、人間ってすげぇな……と思わずにはいられない傑作だ。ほぼ同時期に出たトーマス・トウェイツ『人間をお休みしてヤギになってみた結果』はまた別方向からの人類の可能性と狂気を描き出しているのでこっちもオススメ!

栗下 直也 今年最も「役に立った」一冊

「糞土思想」が地球を救う 葉っぱのぐそをはじめよう
作者:伊沢 正名
出版社:山と渓谷社
発売日:2017-01-13
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 「え、塩田春香って野ぐそ派なの」とレビュアー仲間の知っちゃいけないことを知ってしまったのは今年の2月だ。塩田が本書のレビューでしれっと書いていたのだが、正直、「野ぐそに役立つ葉っぱの紹介の本」なんて誰が買うんだよと思ったのが本当のところだ。だが、3カ月後くらいに通勤列車で強烈な便意に襲われ、いつ、どこで野ぐそをしなきゃいけないかは神のみぞ知ることであり、もしかしたらハイキングの最中に野ぐそしなきゃいけなくなるかもとなぜか思い、つい買ってしまった。ハイキングしないけど。

肝心の内容だが、正しい野ぐそ法や尻を拭くのに適した葉っぱを大きさ、質、尻さわり、拭き取り力などを点数化して写真付きで紹介しているところが秀逸。例えば、ヨモギは「半枯れにすればさらにしんなりして最高レベルに達する」とか。マジ、ヨモギで拭いてみたくなるよ。自然と人間の共生など難しいことを考えずに、トイレが使えない大災害時を想定して読んでおくと良い一冊かも。

塩田 春香 今年最も「打ちのめされた」一冊

WANDERING ANIMALS:あまのじゃくとへそまがり作品集
作者:あまのじゃくとへそまがり
出版社:東京書籍
発売日:2017-10-10
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こんなすごい本、私には絶対つくれません、ごめんなさい!――出版の仕事をしていると、才能ある編集者のつくった超絶技巧本に出会ってしまったとき、心底賞賛しながらもめちゃめちゃ打ちのめされることがある。

本書がまさにそれ。生きもの好きに人気の革作家・あまのじゃくとへそまがりさんの作品集だが、ちょっとかわった生物図鑑になっている。執筆陣も『昆虫はすごい』丸山宗利先生、『裏山の奇人』小松貴先生、『解剖男』遠藤秀紀先生、『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』川上和人先生……まさに、生物界のロイヤルストレートフラーッシュ!! 

アートワークもすばらしい。唐突に登場する、作品をまとった白人男性のグラビア写真。海をバックにダニのリュック。岩をバックにシーラカンスのバッグ……かっこいい、かっこよすぎるんだが……でも、ダニ。

そして、巻末のファッション・スナップ。一般の方をモデルに作品の着こなしを解説していて、たとえば「ヘビトンボの幼虫バッグ:エラ部分のフサがリュクスな、ヘビトンボの幼虫。存在感際立つ肉食幼虫の大顎が、やさしいスタイリングにエネルギーを吹き込む。パワーのあるボディにはいぶりがっこがぴったり収まるように計算されているので、休日のいぶりがっこ屋めぐりにも。」って、だめだもう、頭おかしくなるうう。

関わったすべての人たちの「いい仕事」が結晶した、おかしなことをとことんマジメにつきつめた奇跡のヘンテコおもしろ本。ほんとすみません、許してください。こんなすごい本、逆立ちしたってつくれませんっ。ひゃー。

内藤 順 今年最も「インスタ映えすると感じた」一冊

WANDERING ANIMALS:あまのじゃくとへそまがり作品集
作者:あまのじゃくとへそまがり
出版社:東京書籍
発売日:2017-10-10
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「インスタ映え」云々はさておき、このコーナーでカブってしまったことが本当に悔しい。10月に本書を買って以来、おすすめ本レビューで紹介するのも控え、年末のこのコーナーのために取っておいたのに…。

けもの道だと思って安心して野ぐそをしていたら、後ろから塩田春香に見られていた、しかもよく見たら塩田も野ぐそをしているーーそういう状態に近いのだ。よって本書の紹介は割愛する。

動物ネタはイギリス人の独壇場かと思っていたが、日本人アーティストによる本書は、日本のものづくり技術の高さ、遊び心、そして役に立たなさ、あらゆる観点から見てパーフェクトだ。とにもかくにも、HONZ編集長とHONZいきものがかりが、激推しの一冊である。

ちなみに最も「忖度した」一冊は、『こわいもの知らずの病理学講義』。著者の高貴なお人柄とインテリジェンスが溢れ出す、渾身の一冊になっております。併せてどうぞ!

首藤 淳哉 今年最も「頼りになった」一冊

Ank: a mirroring ape
作者:佐藤 究
出版社:講談社
発売日:2017-08-23
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今年いちばんのびっくりは2週間の入院だった。世の中には経験してみないとわからないことがいろいろあるが、入院生活はその最たるものかもしれない。とにかく「一日はとんでもなく長い」ということを思い知らされた。忙しさに追われていた時は「一日が36時間くらい欲しい」などとほざいていたものだが、いま思えばとんでもない。もし一日が36時間もあったら絶望しておかしくなっていたに違いない。

入院生活で頼りになるのはもちろん本だ。ただしあれだけの退屈な時間に対抗するからには普通のものでは駄目で、面白いのは当然のこと、読み終えた後もなにかしら心の支えになるようなものが残る本がいい。そんな都合のいい本なんてない?それがあるのだ。『Ank: a mirroring ape』はまさにそういう一冊である。

2026年、京都で謎の暴動が起きる。人々が突然凶暴化し、殺し合いを始めたのだ。死者3万人超の大惨事を引き起こしたのは、ウイルスでも化学兵器でもなく、アンク(鏡)」と名づけられたチンパンジーだった。Netflixあたりにも映像化をおススメしたい世界水準のエンタメ小説である。

物語のベースになっているのは日本の霊長類研究、いわゆる「サル学」だ。日本はこの分野で世界をリードしてきた。本書に触発されて、今西錦司から山極寿一までひととおりサル学を読み漁ってやろうと目標ができた。おかげさまで退屈とは無縁の入院生活を満喫。やはり持つべきものは良き本である。

堀川 大樹 今年最も「問答無用でNO.1と感じた」一冊

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)
作者:前野ウルド浩太郎
出版社:光文社
発売日:2017-05-17
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今年5月に出版され、HONZにて速攻でレビューした『バッタを倒しにアフリカへ』。このレビューの締めくくりに、こう記した。「問答無用で2017年のナンバーワン」、と。これ以上の作品が、2017年下半期に出てくるとは、到底思えなかったからだ。もっといえば、この先10年間、20年間で、本作を上回る研究者本が出てくる気がしない。それくらいインパクトがあった一冊だ。

アフリカでしばしば大発生し、農作物に甚大な被害を与えるサバクトビバッタ。著者の前野氏は、このサバクトビバッタを「倒す」ためにアフリカ・モーリタニアに渡るのだが、本書の中のバッタ成分はそれほど高くない。醍醐味は、現地で繰り広げられるバッタ博士のドタバタ劇。活字の本を読んで、ここまで笑い、そしてホロリとするのは初めてだった。誤解を恐れずに言えば、十代の頃に『少年ジャンプ』を読んでわくわくした感覚に近い。

『ドラゴンボール』や『スラムダンク』と並ぶ不朽の名作を、ぜひ年末年始に堪能してほしい。

足立 真穂 今年最も「地球のことを考えた」一冊

深読み! 絵本『せいめいのれきし』 (岩波科学ライブラリー)
作者:真鍋 真
出版社:岩波書店
発売日:2017-04-14
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私は風呂場で本を読む。その風呂場には今、子供用の『恐竜』の図鑑がある。恐竜を知りたくなったきっかけは、バージニア・リー・バートンが文章と絵をかいた名著『せいめいのれきし』の改訂版、を解説する恐竜研究の第一人者、真鍋真さんの本を読んだことだ。

地球史を時代ごとに劇場仕立てで辿っていくアメリカ発のロングセラー、この絵本自体は、石井桃子の手によって訳され長年愛されてきたが、恐竜など新たな知見で塗り替えられた説もあり、改訂が必要になった。その監修を担ったのが真鍋さんというわけだ(加えれば、お父さんは星新一や筒井康隆のイラストを手がけた真鍋博さん)。この「深読み」本はその改訂版の解説でもあり、まるごと読むと生命史の流れを追うわかりやすい入門書でもある。

浮世の憂さなど恐竜やら地球の歴史やらに思いを馳せればないも同然。まったく違う価値観に身を置く心地よい一冊として、お勧めしたい。

ちなみに、風呂場で本を落とした場合は、冷凍庫で凍らせてから、室温でそのまま解凍すると、原形をだいぶ復活させることができる。寒い冬の夜は風呂で本を落としがちだ。お試しあれ。良いお年を!

成毛 眞 今年最も「派手な同級生が書いた」一冊

日本の地下で何が起きているのか (岩波科学ライブラリー)
作者:鎌田 浩毅
出版社:岩波書店
発売日:2017-10-19
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同級生といっても面識はない。生まれ年が1955年で同じということだけだ。読書人よりもバラエティー番組ファンのほうが知っているかもしれないその男の名前は鎌田浩毅。京都大学教授である。

「世界一受けたい授業」(日テレ)や「課外授業ようこそ先輩」(NHK)などのほか「情熱大陸」(TBS)にも出演している。京大の授業でもテレビでも、原色バリバリのシャツやセーターに、真っ赤なジャンパーを羽織って登場する。赤や黄色のパンツやゴールドのハンチングは当たり前、どこで売っているのかわからないような幾何学模様のドハデジャケットも着こなしている。

体型はスリムでかっこいい。ちょいワルおやじなのである。ボクもそろそろこの方向に行きたいのだが、まずはポッコリお腹をなんとかしないと、メガネを掛けた出川哲朗の10年後になってしまいそうで無理だ。

そういえば「HONZでおなじみ」仲野先生は鎌田先生に似ているかもしれない。お顔の雰囲気が似ているのだ。とりわけ眉毛から上はそっくりだ。あははは。ここだけは勝っているぞ。

興奮して本の紹介をすっかり忘れてた。南海トラフ巨大地震、首都直下地震、富士山噴火についての最新知識を豊富な図版をつかって説明する一冊だ。1100年前に東北巨大地震が発生し。それに連動するように関東地震と富士山噴火も発生した。それを単純に現代に当てはめると2020年に首都直下地震、2029年に南海トラフ巨大地震が発生することになるという。もちろんこれは予測ではない。たんに事象を時間で相似させただけだが怖い。そのころにはボクの眉毛から上も・・・そんなことはどうでもいい。

もっとも恐ろしいのはカルデラ噴火だ。縄文人を絶滅させた破局噴火は起こるのだろうか。本書で学んでみても損はないはずだ。自然災害のメカニズムを知っておくことこそ最大の減災につながるからだ。

 

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
出版社:中央公論新社
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