親バカ(?)池谷裕二パパの神経科学的な育児日記 『パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学』

仲野 徹2017年08月21日 印刷向け表示
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パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学
作者:池谷 裕二
出版社:クレヨンハウス
発売日:2017-08-10
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多くはないけれど、著者とタイトルを見ただけで絶対おもしろいだろうと思える本がある。この本がまさにそれだ。脳科学研究の第一人者であり、これまでに『海馬』や『単純な脳、複雑な「私」』といったヒット作をたくさんものにしている池谷裕二さんが、自分の育児について愛情たっぷりに書くんだから、おもしろくないはずがない。

もうひとつ、個人的にそそられる理由がある。1年少し前に初孫のさとしが生まれたのだ。およそ週一回ほどの割合で会うのだが、その成長には驚かされるばかりである。自分の娘たちの時もそうだったはずなのだが、それがさっぱり思い出せない。

イクメンだったとは言わないが、それなりに子育てはしていた。けれども思い出せないのだ。忙しすぎて、子どもの成長を楽しむ余裕がなかったのかもしれない。しかし、それだけではないと思っている。たぶん、30年前は脳科学の研究があまり進んでいなかったから、今のように科学的に成長を見つめるという姿勢がなかったのだ。

この本を読めば、赤ちゃんの驚きの成長過程に対する理解が深まるにちがいない。そう思いながら読み進めた。結果は予想以上。あぁ、そういうことだったのかと思いあたることがわんさかとあった。さとしの成長についてだけではない。四半世紀以上前の、我が家の娘たちの時のこともいろいろと思い出せてきた。

リアルタイムで月刊誌に連載されていた内容なので、一ヶ月ごとの読み切りになっているのが読みやすい。最初の1ヶ月は「オキシトシンとおっぱいには負けられない!」で、「愛情ホルモン」とも「幸せホルモン」とも呼ばれることがあるオキシトシンについてである。

オキシトシンはもともと、出産時に子宮の収縮を促すホルモンとして百年以上前から知られていた。それが、出産の時に大量のオキシトシンにさらされることによって、お母さんは子どものことを本当に可愛がるようになるなど、精神神経系での重要な働きが比較的最近になってわかってきたのだ。

出産前からイクメンになると公言していたという池谷パパは、負けず嫌いでもある。奥さんよりも自分の方が子ども好きだと思っていたのに、出産後は逆転されたようだとくやしがる。その理由をオキシトシンのせいにするのは、科学者らしいけど、素直じゃないような気が…

しかし、その解釈もあながち間違えてないのかもしれない。次女-さとしの母親-は、むっちゃ不細工な赤ん坊だった。どれくらい不細工だったかというと、ドラゴンボールの魔人ブウみたいな赤ちゃんだった。しかし、それは後から気づいたことであって、育児をしているころは可愛く見えていた。その上、誰も可愛いと言ってくれないので、「なんでやねん、こんなに可愛いのに」と、夫婦でいつも周囲に対して怒っていた。

オキシトシンについての説明はさらに続き、その作用には、仲のよい人とはより強い信頼関係を結ぶようになるが、そうでない人とは逆に疎遠になり、攻撃的になる、とある。魔人ブウ次女を育てる時に自分たちのとった態度も、オキシトシンの作用と思うと納得できるではないか。(次女は育つにつれて魔人ブウから脱却し、まともな顔に育っていったことを、親子の平和のため強く申し添えます。)

父親はオキシトシンに関係ないんじゃないのか、と思われるかもしれないが、それは間違えている。父親だって育児に参加するとオキシトシンの量が増えるのだ。魔人ブウの一件でいっしょになって周囲に怒っていたところをみると、やっぱり私も育児に積極的に参加してたのだ。たぶん、やけど。

1ヶ月目の内容は、オキシトシンについてと、授乳がいかに愛情を育てるか、そして、赤ちゃんの方も授乳をいかに母親とのコミュニケーションの道具として利用しているか、が語られている。「赤ちゃんの脳はパパよりかしこい!」とまとめられている一歳になるまでの各月のタイトルを紹介しよう。 

1ヶ月  オキシトシンとおっぱいには負けられない!
2ヶ月  子どもの育ちは違って当然
3ヶ月  パパの声が1オクターブ高くなるき!?
4ヶ月  何でも口にいれて確かめる
5ヶ月  「三つ子の魂百まで」って本当?
6ヶ月  赤ちゃんの時間が動き出す
7ヶ月  不快が快に変わって
8ヶ月  ハイハイで世界が広がる
9ヶ月  ようやく人間になってきた
10ヶ月 「痛み」を学んで大きくなれ
11ヶ月 歩きたい欲求が、生まれながらにある
12ヶ月 「やりたい!」意欲に応えたい

さすがは池谷パパ、うまいことまとめるなぁ。タイトルだけで、赤ちゃんの成長具合がわかるようだ。それぞれに、神経科学的な解説がなされていて、中には英文原著論文までが参考文献としてあげてある。誰もそこまで調べない思うけど、これは研究者の悲しき性ですな。

タイトルだけでは少し内容のわかりにくい「5ヶ月 三つ子の魂…」では、面白いことが書かれている。脳細胞の数は、三歳になるまでに、生まれた時の三分の一にまで減少するのだ。これは、生まれてからの状況に対応するためだとされている。

たとえば、LとRの聞き分け能力は生まれた時には備わっているが、区別しない言語環境下で育つと失われていくという。これも、脳細胞の減少と関係があるのかもしれない。不要な脳細胞を減らしながら必要な神経回路だけが残されていく。ほんとうにうまくできている。

池谷家のお嬢ちゃんは、どう見ても、さとしよりだいぶ成長が早い。ともすれば、自分の子どもの成長を他の子と比べがちになるが、「2ヶ月 子どもの育ちは…」をはじめ、そういったことに対しての配慮も全編にいきどといている。

訂正します。全編と書いたのはウソです。たぶん全編、が正しいです。この本、4歳になるまでのことが書いてあるのですけど、じつは、まだ4分の1、1歳のところまでしか読んでいないのです。そんな横着してレビューを書くな!というお怒りが聞こえてきそうですが、違うんです。まぁ、言い訳を聞いてください。

さとしは、いまちょうど1歳。これからの成長がどうなるかを、本で先取りして知るのはもったいないと思ったのだ。さとしの行動を見て、はたしてどういうことかと解釈してから池谷先生の考えと照らし合わしたい。そうやって、これから3年がかりでこの本を楽しみたいのである。

子育て中の人には必読といっていいほど面白い。子育てが済んだ人には、あぁそうだったのかと腹落ちできる。そして、これから子どもを授かる人は、こんなことがあるのかとワクワクしながら読めるはずだ。それに、池谷家の内部をのぞき見る「家政婦は見た!」的面白さもある。

「赤ちゃんの脳の成長を眺めることで、自分の脳の不思議さに気づくのです」とあるように、高次脳機能がどのように成長してくるのかを知ることによって、自分の考え方や行動を新たな視点から捉えることもできる。パステルカラーの装丁や挿絵もとてもかわいい、誰が読んでも楽しくて勉強になるきわめつきの一冊になっている。

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