『科学が教える、子育て成功への道』21世紀の成績表

山本 尚毅2017年08月27日 印刷向け表示
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科学が教える、子育て成功への道
作者:キャシー・ハーシュ=パセック 翻訳:今井 むつみ
出版社:扶桑社
発売日:2017-08-19
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もし、子育ての成功を定義できるのであれば、成功への道があるのならば、それを知りたいと思う人はたくさんいるはずだ。そして本書は、子育てにおいて、科学でわかっていることは何か、何を成功として定義して、その成功のために何をすればいいのか、を学習科学・発達心理学の知見を見事に体系化した本である。

「子育て」と「成功」という2つの言葉は相性が微妙で共鳴しづらいが、学習科学と発達心理学の第一人者である2人の著者は明確な意図を持って、この挑発的なタイトルを設定している。その意図とは、知識を詰め込めば成功できるという時代遅れの思考回路から教育現場を開放し、新しい考えを広く伝えようとする強い情熱だ。書籍以外にも、ディズニー、レゴ、子供博物館などのコンサルタントを努め、最新の考え方を浸透させる行動をしている。背景にあるのは、アメリカの惨憺たる教育事情である。 

世界各地で叫ばれ続けている教育改革、ビジョンや政策は美辞麗句が並ぶ。いっぽうで、現場は抽象的な内容を具体的な授業やカリキュラムに落とし込むことができず、実現は道半ばどころか、混乱したまま、ままならない状況にある。

その中で、アメリカにおける教育改革暗黒史のはじまりはスプトニーク・ショックだった。国家防衛教育法が議会を通過し、数学と科学の教育が強化された。これは現在のSTEM(Science Technology Engineering and Mathematics)教育の源流である。2000年、ブッシュ元大統領は「落ちこぼれ防止法」を成立させ、多額の予算を投下し、子供の学びを国家的課題の中心においた。しかし、PISAのスコアは惨憺たるものだった。

オバマ政権では、全米共通学力基準を設定し、21世紀に必要な力を育てる学習内容を取り入れた。その青写真は素晴らしかったが、理念と現実の教育方法とのズレは埋められていない。また、学びの基準は価値があったが、テストで測り、テストのために準備する教え方は変わらないままだった。

これだけ「教育改革」が叫ばれ、大規模に実行してきたはずなのに、化石のように変わらない場所が近代の学校なのだ。

社会は科学技術の発達とグローバリゼーションの進展で大きく変化したが、学校現場は100年前からほとんど変わっていない。だから、ビジネスの現場からも、必要なスキルを備えていない若者の多さに不満の声があがり、ソフトスキル育成の必要性を訴えている。しかし、現代社会で活躍するために必要な能力や資質と、教育現場で身につく力のギャップはますます広がるいっぽうである。

学校が変われないのであれば、家庭がという話であるが、保護者は誰よりも子供の点数と進学先に気をもんでいる。学習科学の成果から、人生の成功を決めるのは、数学や読解、プログラミングなどのハードスキルより、コラボレーションや感情の調整などのソフトスキルであることが明らかになっているにも関わらずだ。ハードスキルの測定が可能で時系列で伸長がわかりやすく、長年の慣習から過去とも比較可能で親の気持ちを安心させる。ソフトスキルは可視化と測定の難しさを徐々に克服しつつあるが、親の心を捉えきれてはいない。

そして、子どもたちはテスト漬けにされて、古い基準と知識の暗記に縛られている。また、エデュテイメント(EducationとEntertainmentを組み合わせた造語)の掛け声のもとに、教育玩具が大量に製造され、2009年には「教育玩具」の売上だけで、それ以外の、これまで売られてきた普通のおもちゃ全体の販売額を超えた。教育市場は、これまでの教育の価値観に凝り固まった人達が支配し、保護者の不安を煽りながら、本質からずれた製品やサービスを提供している。

学習科学で明らかになったにもかかわらず、ソフトスキルの重要性が浸透しないのか。根本的な理由は、体系だった評価システムがないことである。これまでにも、21世紀スキルなどの必要な力の定義は様々な組織が行ってきた。しかし、最新のトレンドとして一時的に流行して消え去っていった。

そこで、著者らが学習科学の実験研究をもとに提示したモデルが6Csである。コラボレーション、コミュニケーション、コンテンツ、クリティカル・シンキング、クリエイティブイノベーション、コンフィデンスの6つのCである。個別の要素は聞き慣れたもので、とくに目新しいものはない。

これまでと違う点は、学ぶことで伸ばすことができること、学校内外で用いることができるスキルであること、そして一番の違いはそれぞれのスキルのレベルと同士の関係性を明らかにし、学びの全体像を明らかにしたことである。

一つひとつの段階に科学的なエビデンスがあり、次の段階へ進むための具体的な学びの打ち手がある。また、この表の優れた点は、対象は幼児から大人までと幅広く、家庭、学校、放課後、職場のどんな場面にでも活用することができることだ。つまり、赤ちゃんの発達過程であり、子どもが新しいことを学んでいくプロセスであり、大人が未知の分野に取り組む方法である。

いっぽうで成長は左から右へ、下から上へ直線的には実現しない。螺旋を描くように伸びてゆく。そして、この6つをバランスよく発達させるのには、遊び(Play)が欠かせない。遊びと学びを一体化させ、プレイフルな学びの場と子育てを実現してきた著者らの取り組みは、どれもが実践的であり、すぐに参考にできる。

子育ての場面で何を選び、何を選ばないかで悪戦苦闘する家族、理想と現実の間でぐしゃぐしゃにされ現場で葛藤する教員、そして、溢れる情報に踊らされ、不透明な社会をさまよう大学生や若手社会人、その誰にでも、明確な指針を指し示してくれるおすすめ本である。まずは、親として、市民として、自分が今どこの段階にいるか、成績表として活用してみてはいかがだろう。

自分の子供に「教える」のではなく、自分の子供と「面白がって一緒に遊ぶ」ということ。それが子供の教育に関わるということなのである

(※画像は訳者より提供いただきました)


学びとは何か――〈探究人〉になるために (岩波新書)
作者:今井 むつみ
出版社:岩波書店
発売日:2016-03-19
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訳者の書籍その1。書評はこちら

探究する力
作者:市川 力
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出版社:ダイヤモンド社
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超一流になるのは才能か努力か?
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出版社:文藝春秋
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教養は児童書で学べ (光文社新書)
作者:出口 治明
出版社:光文社
発売日:2017-08-17
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子どもと面白がって一緒に学ぶには、まずはこの書籍から。

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