世界一の戦闘飛行機を創った男『銀翼のアルチザン』 中島飛行機技師長・小山悌物語

刀根 明日香2017年09月21日 印刷向け表示
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銀翼のアルチザン 中島飛行機技師長・小山悌物語
作者:長島 芳明
出版社:KADOKAWA
発売日:2017-07-28
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「疾風(はやて)」。離陸速度、最高速度、旋回、急降下等、その性能の高さは世界の中でも群を抜き、第二次世界大戦中、米国軍に「悪魔の機体」と名付けられた。それだけではなく、何よりもパイロットの安全を考え、彼らが迅速に機外脱出出来るよう設計されていた。戦後、米軍はその性能を分析し、驚愕した。

本書は「疾風」を世に生み出した中島飛行機と、そこで生きた人間の物語である。戦闘機について無知な私が、登場人物を通じて戦闘機の世界をはじめて知った。軍によるコンペティション(競争試作)が何度も行われ、そこで中島、三菱、川崎等の会社が競っていたこと。地上試運転で多くの命が失われたこと。戦局が不利になり物資が不足するなかでも、世界一の機体を作り上げていたこと。国民がどれほど戦闘機に夢を馳せていたのかということ。

昭和3年、最初のコンペが開かれた頃、三菱や川崎は飛行機だけでなく戦艦などの軍需物資も手がけていたため、新興企業の中島は軍にほとんど相手にされなかった。そんな小さな会社が、なぜ東洋一の飛行機工場になれたのか。

いくつかの要因があるが、まずは創業者・中島知久平の人柄と先見の明であろう。後の技師長となる小山悌と中島がはじめて出会った時の会話が面白い。

小山「飛行機なんてサーカスじゃないですか。それが戦局を左右するなんて」
知久平「うん、そうだいね、サーカスだいね。でも次の戦争は空が主役になるんね」

1903年にライト兄弟が世界ではじめての有人動力飛行に成功したと言われているが、当時はまだ飛行機が一種の道楽の時代である。その当時から資源のない日本に巨大戦艦を建設する余裕はなく、戦闘飛行機が日本の戦局を左右させることを中島は既に見抜いていた。

そして中島知久平がまるで磁石になったかのように、次々と重要な人材を中島飛行機に惹き付ける。

その中の1人が、後に「疾風」の設計技師長となる小山悌。きっかけは、親の紹介で中島に入社したわけだが、自身が手がけた「九一式戦闘機」が軍に採用され、陸軍機技師のエースとなる。そして「九一式戦闘機」の次の「九七式戦闘機」は小山の人生を変えることとなる。

昭和8年当時、日本では複葉飛行機(2枚以上の翼を配置した機体)が主流だった。単葉はスピードは出るが、複葉の方が安定し、多様性がある。しかし小山は複葉の飛行を見て違和感を覚える。重要なのは、何よりもスピードだ。なんとしても、単葉理論を確立させたい。

そんな時に、新入社員として入社したのが糸川英夫。小山から単葉派か複葉派かを問われ「単葉に決まっています。プラントル理論を超えた新しい翼理論で挑みたいです」と即答する。プラントル理論はドイツ人のプラントルが編み出した翼理論で当時の基礎となる理論。糸川は新理論を確立し、世界一の飛行機を創ると言う。この小山と糸川のダックが独自の理論で生み出した機体こそが「九七式戦闘機」であり、多くのパイロットの命を救った。

小山と糸川は、軍から要望があったとしても、それが「パイロットの安全」の飛行機哲学に反するものなら拒否し、取っ組み合いの喧嘩をする。他社の動きよりも、欧米の飛行機を分析し、世界に勝負出来る戦闘機を常に求めてきた。小山が手がけた機体は、「九一式戦闘機」「九七式戦闘機」の後、「隼」「鍾馗」「疾風」と続く。「疾風」のお披露目は1943年4月。

“現在の常識は未来の非常識であり、現在の非常識は未来の常識である” ライト兄弟が創った飛行機は木製だった。それが20年経てば金属に変わり、戦場の空を飛び回っている。中島知久平は、中島飛行機は戦争と共に滅びるのが良いと語った。戦争が終われば、戦闘機は必要なくなり、その代わり自動車の時代が来る。だから、よく勉強しときなさい、と後輩たちに説いて回った。

そして、中島飛行機の現在の姿は、株式会社SUBARU。日本を代表とする自動車メーカーとなって、現代も存続している。

人間の可能性は無限である。この言葉が中島飛行機にはよく似合う。オタクは人ではなくものに興味があるからオタクなんだ、といつか聞いた時になるほどと思ったことがあるが、本書は戦闘機自体の詳細においても、また人間の生き様の観点から呼んでも十分に得ることは大きい。何よりも、中島飛行機で日本の命運を背負って働いた人々がいて、その歴史の延長線上に、私が生きているのが誇らしく思う。

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