『運慶への招待』一門を纏める仏師

新井 文月2017年12月07日 印刷向け表示
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運慶への招待
作者:
出版社:朝日新聞出版
発売日:2017-09-20
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2017年11月、東京国立博物館にて開催された運慶展は入場者数が60万人を超え終了した。

運慶といえば平安末期~鎌倉時代にかけて活躍した仏師だ。東大寺南大門の金剛力士立像はその代表作だが、全身で8m以上もある。重さは7t。制作年は1203年と制定され、つまり800年が経過しているが、今だもって見る者を畏怖させる。当時の人達は阿吽の仁王から凝視されたら、度肝を抜かれただろう。 

それにしても驚くのは、仁王2体を69日間で完成させていることだ。もちろん運慶ひとりではなく、慶派工房という集団で制作している。運慶はルネサンスの工房よろしく、漆や金箔を貼る塗師や採食を施す絵仏師など分業制の総監督でもあり、高い統率力もを持ち合わせていた。 

本書は運慶の入門解説書である。運慶関連の本は展示会のガイドブックを含め多数出版されているが、本書は実際の作品をフルカラーで眺めながらも見どころを抑えている。B5サイズで持ち運べるし、この一冊で展示会とイヤホンガイドの役割を果たしている。

 

69日間の奇跡

面白い対比として、ギリシャの酒神ディオニュソスと運慶作品を比較している。ディオニュソスは紀元前432年に制作された理想的な人体を追及した写実彫刻だ。かたや運慶の仁王は、筋肉自体が生きた人間そのものに迫りつつも、右肘は肩以上に位置させるなど筋骨隆々になるべく各所にディフォルメが見られる。それでも重心は捻った足の上にしっかりと乗り、反対の足は遊脚させて自然なバランスを保っている。 

時空を隔てた写実の極致

 

運慶展のメインであったインドの兄弟僧がモデルの「無著菩薩立像」と「世親菩薩立像」。それぞれ全長は2m。玉眼の目をもつ国宝だ。玉眼とは眼球に水晶を使用する技法で、内側から水晶と和紙を貼り中心に黒目を描く。これが本物の瞳のように潤いを与える。運慶以前にもこの技術は存在したが、彼は眼球にカーブを採用しリアリズムを入れた。実際に見ると眼球は湾曲しており、リアルを追及しながらも穏やかな内面が伝わる。精神性の描写が秀逸なのか、これらの像の前に立つとしばらく時が止まる。 

無著菩薩立像と世親菩薩立像

 

仏師は当時どれくらいの社会的ポジションだったか。平安時代には仏師に僧侶の身分が与えられていた。さらに11世紀に「法橋」という高僧に与えれる位も存在した。運慶と息子の湛慶は、さらに2段階上である最高位「法印」まで進んだ。仏を鑑賞する7つの基本も掲載されているため、如来・菩薩・明王・天の違いなどを知れば仏像の見方も変わるだろう。

運慶が活躍する以前の平安期の仏像は、起伏の少ない穏やかなスタイルの仏像が主流だった。そこから鎌倉という新たな時代を迎え、運慶は誰もやらないダイナミックな表情を続けた。激動の世を生き抜いた1人の表現者としても、一門を纏めあげるプロジェクトリーダーという面でも魅力的な人間だ。

もし実物の彫刻を観ていないとすれば、本書をガイドに生の存在感を体感してほしい。

画像提供:朝日新聞出版

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