『猫はためらわずにノンと言う』吾輩は吾輩である

堀内 勉2017年12月23日 印刷向け表示
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猫はためらわずにノンと言う
作者:ステファン・ガルニエ 翻訳:吉田 裕美
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2017-12-07
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最近、静かな猫ブームである。私は元々、猫派で、知る人ぞ知るNHK BSプレミアムの『岩合光昭の世界ネコ歩き』も密かに楽しんでいるのだが、飼育のしやすさもあってか、特に都会では猫の人気が急上昇のようだ。「なめネコ」や「ネコ鍋」のように、これまで何度か猫ブームというのはあったが、今回は”This Time Is Different”のような気がする。

ところで、犬型タイプの人と猫型タイプの人がいるというのはよく言われる話だが、これは単なる人間のタイプ分けなのだろうか。人間には色々な性格があるから、大きく分ければ、犬っぽい人と猫っぽい人に分けられる・・・そんな感じに漠然と思ってきたのだが、最近、それだけではないのではないかと思うようになってきた。

つまり、犬っぽい人というのは犬に育てられた人で、猫っぽい人というのは猫に育てられた人なんじゃないかと。えー、 何言ってるんですか?と言われそうだが、実は自分自身が猫に育てられた、正確に言えば、猫に学んで育ったのではないかと感じているからである。

私の実家では、私が生まれる前は犬を飼っていたのだが、その犬が死んでからは、ずっと猫を飼っていた。飼っていたというよりは、家に迷い込んできた猫を追い払わないでいたらどんどん増えてしまったというのが正解のようで、私が物心ついた時には10匹くらいの猫が我が家を自由に出入りしていた。

以前、石垣島の知り合いの家に泊めてもらったら、近所の人が出たり入ったりしながら、適当に食事してお酒を飲んで歌ったりしていて、すごく驚いたと同時に、都会でサラリーマン根性の染み付いていた自分にはとても新鮮で楽しかったのだが、そんなイメージである。

歳の離れた末っ子だった私は一人で遊ぶ機会が多く、というよりは猫と遊ぶ機会が多く、猫と幼少時代を過ごしたら猫みたいな性格になってしまったような気がする。「子は親の鏡」と言うように、子供にとって一番影響力が大きいのは身近にいる親だと思うが、それと同じことである。

只、これは全く科学的に実証された話ではないので、なんとなくそう思っていたのが、この本を読んでやっぱりなと思ったというくらいの話である。

本書『猫はためらわずにノンと言う』は、フランスでベストセラーとなり、22カ国で翻訳された、猫に学ぶ自由な生き方の指南書である。

歴史を振り返ってみれば、人間は常に自由を追い求めてきた。制度的には自由を獲得した現代人であってもそうだ。いつでも好きなところに行って、好きなことをして、自分の気持ちに素直に生きる・・・我々現代人の見果てぬ夢が自由なのである。にも関わらず、私たちは自分で自分をどんどん縛り付けている。

人類は種の中で唯一、自分の種を受け入れない。 猫は猫でいることに何の困難も感じない。単純なのだ。 猫は、犬になろうなどというコンプレックスも矛盾も葛藤も意思ももち合わせていない。 

人間の五段階欲求説で有名な心理学者のアブラハム・マズローはこのように言っている。

個人の趣味の問題だからどうしようもないのだが、私は犬の階級社会とか上下関係とか群れ方とかがどうしても好きになれない。猫の自由で毅然とした態度が好きなのである。

だから、人間でも犬型タイプの人とはどうも馬が合わない。どちらが上でどちらが偉いかとか、グループの秩序を何より重んじるとか、男同士の濃密な人間関係とか、そういうのが大好きな人もいると思うが、犬と違って猫は自分の性質そのままに自然体で生きている。

猫は、好奇心が強く、同時に慎重でもある。群れるのが苦手で、いつもマイペース。命令されるのが苦手で、いつも自由だ。人間のように社会の「型」に合わせて偽りの自分を演じるというようなことはしない。自分に忠実であることに関して猫には迷いがない。

「誰にも注目されない『その他大勢』にならないためにはどうすれば良いか?」猫はそんなことは考えない。猫は他の何者かになりたいなどという無意味な欲望は最初から持っていない。猫にとって、自分に満足し自分を愛するというのは生き方の基本であり、それが猫の賢さなのである。

今、私たちは至る所で「見かけが大事」という価値観に支配されつつある。他人が自分をどう見ているか、どう見えているかという、「他人の目」が作り出した「見かけの私」こそが一番大事なものになってしまった。でもこれは、他人のために自分自身に対してつく最大ウソである。

才能がある振りや誠実な振りをして期待される役割を一生懸命演じた結果、最後には自分自身も騙されてしまうほどウソで固まった人物像ができ上がってしまう。自分がどうあるべきかではなく、他人がどう見ているか、他人にどう評価されているかだけが目的になってしまうのだから当然のことだ。 でも、それで良い訳がない。他人の目を気にして、自分を本当に幸せにするのは何かということを見失ってはいけないのだ。

他人が自分をどう見ているかはひとまず忘れて、 自分が本当はどんな人間なのかを考えてみよう。それが本書のメッセージなのである。日本人から見たらとてつもなく自由で独立して見えるフランス人でさえそうなのだから、もしかしたら、今の日本人は皆、犬に育てられたのかも知れない。

そんな中で到来した再度の猫ブームは、これから日本社会が大きく変わっていく前兆のような気がする。  

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