核兵器よりもたちが悪い『人類史上最強 ナノ兵器』

久保 洋介2017年12月26日 印刷向け表示
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人類史上最強 ナノ兵器:その誕生から未来まで
作者:ルイス・A. デルモンテ 翻訳:黒木 章人
出版社:原書房
発売日:2017-11-14
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昆虫サイズの超小型ロボ兵器ナノボットによる毒殺攻撃。まるでSFのような話だが、超小型ナノ兵器の開発状況をつぶさに調べていくと各国がこのナノボットの開発に注力していることがうかがれる。2014年時点で米軍は重量1gにも満たない「ハエ型ドローン」の製作に成功している。しかも、これを偵察用に使うだけでなく、攻撃を加えられる兵器にするよう開発中という。SFのような世界はそう遠くない将来に実現化しそうな勢いだ。

公表されている情報によると、中国・ロシア・アメリカ・ドイツは数十億ドルを投じてナノ兵器の開発競争を繰り広げているという。日頃、核兵器やミサイルの話題がニュースになりがちだが、水面下では「最強のナノ兵器を手にする国が新時代の超大国となる」という新しいパラダイムに向けての軍拡競争が激化しているといっても過言ではない。

この新世代の兵器を一般人にも分かりやすく解説してくれるのが本書である。ナノ兵器の開発状況や現在の配備状況は、各国の軍事機密でありベールに包まれたままだが、著者は入手可能なナノ兵器の断片情報を事細やかに調査し、点と点をつなぐことで、どのようなナノ兵器を各国軍が開発しているかについて根拠ある推察をしている。

近年、ナノ兵器は核兵器を超える大量破壊兵器とも言われている。たとえば毒性ナノ粒子の威力は驚異的だ。何百万人もの人々や動物をいとも簡単に殺すことができる。しかも、使用方法はいたって簡単で、単に敵国の水源や食物連鎖のどこかに毒性ナノ粒子をばらまくだけだ。

直径1~100ナノメートルのナノ粒子は、化粧品の宣伝文句である「お肌の奥に浸透する」どおり、生体膜を通過して細胞や組織、器官にすぐに達することができる。目には見えないため、被攻撃国は、最初、攻撃を受けたことにすら気づかないだろう。原因不明の疫病で数百万人の死者が出てパニックになるだけだ。

毒性ナノ粒子による攻撃は初期症状が現れるまでに数週間から数か月かかり、仮に症状が出てきたとしてもナノ粒子を探知するには高価で特別な装置が必要となる。原因が毒性ナノ粒子だと判明したころには国民の大部分が致死量を摂取してしまい手遅れの状態になっていてもおかしくない。しかも大都市ひとつを壊滅させるのに必要なナノ粒子量はスーツケース1個で十分なのだ。

一番恐ろしいのは、ナノ兵器がテロリストに流出することだろう。ナノ兵器は核兵器とは違い、保管や使用が簡単で扱いが難しくない。テロリストが昆虫サイズの毒殺ナノボットをスーツケースに詰めて、大都市に大量に放出するだけで、数十から数百万人もの死者を出すという事態も想定されえる。本書には、テロリストがナノ兵器でロシアを攻撃し、ロシアによる反撃が確実になった際、米国・中国がどのように反応するかのシミュレーションが記されており、まさに手に汗握るストーリー展開である。

毒性ナノ粒子の他にも、偵察・攻撃用の小型ロボット、兵士の健康状態と周辺環境をモニタリングするナノセンサー、核爆発による高レベル放射能耐えるための耐放射線ナノ電子集積回路など、どれも既に広く使用・開発されているという。米国は、2000年以降、クリントン政権下ではじまった国家ナノテクノロジー・イニシアティブのもと、これまでに200億ドルのナノテクノロジー予算のうち、約半分を軍事分野につぎ込んでナノ兵器開発に邁進している。そしてこれに中国・ロシア・ドイツが続いているのがナノ兵器の世界情勢だ。

核兵器は、第二次世界大戦で広島・長崎に投下されるまで誰もその恐ろしさを知らなかった。ナノ兵器も実践投入されるまで、その危険性が一般に認知されることはないのかもしれない。著者は最終章でナノ兵器の使用を制限する国際条約の制定を提唱する。人類は歴史から学ぶのか、それとも同じ過ちを繰り返すのか、大きな問いかけである。

 

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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