『退屈すれば脳はひらめく』マインド・ワンダリングがいいんじゃない?

山本 尚毅2017年12月26日 印刷向け表示
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退屈すれば脳はひらめく―7つのステップでスマホを手放す
作者:マヌーシュ・ゾモロディ 翻訳:須川 綾子
出版社:NHK出版
発売日:2017-10-26
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退屈すれば脳はひらめく、というのはなんとなく、直感的に、そうだなぁと思えることである。例えば、皿洗いをしているとき、ベビーカーを押しているとき、シャワーをあびている時、車を運転しているときなどはよくちがった考えや新たな気づきが浮かぶ。

退屈で心がさまよっている状態を、心理学の用語でマインドワンダリングと言い、心がさまよっている状態の神経科学分野での研究ははじまったばかりだ。そのとき脳はデフォルトモードネットワークという部位が活発に動いている。デフォルトモードとは、脳が「休止」している状態のことで、正確に言えば、はっきりとした目的のある作業に集中していない状態のことである。

その状態のときに脳神経に起こっていることは休んでいるのではなく、意外なことに、真剣に集中して考えているときに使う95%のエネルギーを使っている。しかし、それがなぜかはまだわかっていない。すべきことが与えられていないにもかかわらず、脳は勝手に動き、思考は止まらないのである。

一種の瞑想法であるマインドフルネスに注目が集まって以降は、マインドワンダリングはストレスの原因として扱われるなど、悪影響が喧伝されてきた。この20年で、デジタル機器を日常的に持ち歩くようになり、SNSのチェックを頻繁に行い、注意散漫で集中できないことが増え、他人の投稿に妬むことでうしろめたくて不快な状態になりやすくなった。マインドワンダリングのネガテイブな影響が出やすい環境が整っている。しかし、マインドワンダリングのすべてが悪いわけではない。

気分とマインドワンダリングの関係を調べる研究によると、過去と結びつく思考は落ち込んだ気分へとつながり、未来や自分にまつわる思考は、内容がうしろ向きでも、気分の改善につながることがあきらかになった。

では、どうすれば、過去の出来事にくよくよ悩まずに、健全なマインドワンダリングができるのか。そして、スマホに中毒になっている状況で、それは実現できるのか。研究室での実験や理論を、実生活で研究結果を検証するべく、2015年2月、著者はホストを務めるニューヨーク公共ラジオ局の番組で、リスナーに「ぼんやりする時間をみんなで取り戻そう」と呼びかけた。

全米及び国外から2万人以上が参加した。1日のデジタル機器の使用時間は平均で2時間57分、実験参加者が抱えている不安トップ3はありきたりなのだが、誰しも一度は心に抱く悩みである。

・生産性がひどく低下している
・中毒になっている気がする
・もうすでに健康を害しているかもしれない

そして、回答者の40パーセントが、スマホをチェックする回数を減らし、利用したいという衝動をおさえたいと思い、子どもの手本になりたいと願う人が大勢いた。子供はスマホをチラッと見、メールをウチ始める親の姿を見逃さない。スマホをちらちら見ることで、子供に暗にどんなメッセージを伝えているか、不安を抱えていた。

さらに、SNSを使うことは「時間の浪費」なのか「有意義な交流」なのか、その境界線をはっきりさせたいという意見もあった。ごもっともである。

そして、プロジェクトに取り組んだ一週間、ラジオから参加者に呼びかけた具体的な内容は

Day1 自分を観察しよう
Day2 移動中はスマホをしまおう
Day3 写真を撮らずに一日過ごそう
Day4 例のアプリを削除しよう
Day5 フェイクケイション(偽休暇)をとろう
Day6 いつもとはちがうものを観察しよう
Day7 プログラムメニューまとめ

である。実験の結果、使用時間は

「6分」

減った。これはたったの6分なのか、6分もなのか、アマゾン、フェイスブック、グーグル、世界でもとりわけ優秀な人材が集まる組織では血眼になって、ユーザーに広告をクリックさせることにエネルギーを注ぎ高給を稼いでいるなか、平凡な庶民のささやかな抵抗は無駄に終わったということなのだろうか。6分の解釈については参加者からフィードバックや研究者の意見があった。

繰り返しになるが、本書を通じて参加者や著者が常に気にかけているのは、デジタルネイティブ世代のことである。デジタル業界のリーダーたちは自分の子どもたちには、自分たちが創った製品やサービスの利用を制限していると聞くと、複雑な気持ちになる。彼らは、子どもたちがマインドワンダリングして妄想する時間を確保し、家族との会話を大切にしている。

しかし、子どもにスマホを渡して、家事や仕事の時間を確保して日常をなんとかやり過ごすなかで、できることはなんだろう。深い集中ができず、読書を続けることがままならなくなり、記憶や選択を機械に任せきりのデジタル中毒のように見える子どもたちの症状に悩むことは杞憂なのだろうか、子どもたちだけでない大人もそんな状況である。技術革新に対して不安がることは時代の常であり、時間が解決してくれることなのか。

デジタル機器は是か非か、うまく活用できているのか、ただ振り回されているのか、どちらかの主張を伝える本ではなく、バランス良く両論が併記されている。平易な文体でサクサク読めて、ストレスも少ない。年末年始にスマホやSNSとの距離感を考えなおし、ぼんやりマインドワンダリングするなら、本書がおすすめである。

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意識と無意識のあいだ 「ぼんやり」したとき脳で起きていること (ブルーバックス)
作者:マイケル・コーバリス 翻訳:鍛原 多惠子
出版社:講談社
発売日:2015-12-18
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デフォルトモードネットワーク、マインドワンダリング、メンタルタイムトラベルについて詳しい。ぼんやりする時間の価値を伝えている。   

いつも「時間がない」あなたに: 欠乏の行動経済学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
作者:センディル ムッライナタン 翻訳:大田 直子
出版社:早川書房
発売日:2017-01-07
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時間の豊かさが、時間の欠乏を生む。なんで時間がないんだろうと思って冷静になりたいときには、本書がおすすめ。解説文はこちら

 


キラーストレス 心と体をどう守るか (NHK出版新書)
作者:NHKスペシャル取材班
出版社:NHK出版
発売日:2016-11-08
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