『悲劇的なデザイン』そのデザインが、命運を分けた

内藤 順2018年01月01日 印刷向け表示
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悲劇的なデザイン
作者:ジョナサン・シャリアート 翻訳:高崎拓哉
出版社:ビー・エヌ・エヌ新社
発売日:2017-12-27
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デザインのやり方一つで、人が死ぬこともある。まさかと思うかもしれないが、世の中を見渡せばそのような事実は多々見つかる。そして何より問題なのは近年「デザイン」というものの意味が拡張しており、もはや「世界はデザインで出来ている」といっても過言ではない状況にあるということだ。

本書『悲劇的なデザイン』は、このようなデザインにまつわる悲惨な出来事を事例としてまとめ、悲劇の種類を体系化し、どうすればその惨事を防ぐことが出来るのかまでを言及した一冊になっている。まさに、デザイン版の『失敗の本質』といったところだろうか。

そもそもデザインとは何か? ある者は「デザインとは意図の描写だ」と述べ、またある者はデザインを「プロダクトと人とのインタラクションを設計すること」だと考える。デザインは世界を前向きで楽しいものに変えられる一方で、人を「殺し」「怒らせ」「悲しませ」「疎外感を与える」力もある。ところがデザインに携わるプロフェッショナル達は、自分たちの仕事にその種の責任が伴うことに無自覚な場合が多い。

特に改善の余地があるのは、医療や輸送といった特定の業界で使われる専門機器、すなわち人命に直結するビジネスを対象としたBtoBのデザインだろう。医師の教育は、自らの仕事がいかに人命を大きく左右するかということについて学ぶことから始まるが、デザインを志す学生が最初に教わるのは、ものを立体的に描く方法のみにすぎない。

現実に、セラック25という放射線を使った治療機器で痛ましい事故が起こったことがある。ソフトウェアのインターフェイスが原因で、患者に過度の放射線が照射される事件が6回起こり、6人のうち3人が命を落としたという。

この機械には電子線ならe、X線ならxなど、いくつかのモードがあったのだが、自分が今何のモードを選択しているのかが非常に分かりづらかったこと、そして照射する量の設定を間違えた時、勝手に初期値が採用されてしまったこと、さらにエラーメッセージが分かりづらかったという3つの連続したミスが重なり、惨劇が起きたのである。

また本書では、デザインが悲しみを呼ぶ事例についても数多く紹介されている。たとえばFacebookの「今年を振り返ろう」という機能について。昨年末にも、多くの人が目にしたであろうこの機能は、あくまでも善意によって作られたものだ。しかし以前エリック・メイヤーという作家が、「アルゴリズムの意図せぬ残酷さ」というブログ記事を書き、話題になったことがある。

エリック・メイヤーは、その年にお子さんを亡くしていたのだが、Facebookへログインする度に、今は亡き娘の巨大な写真が現れ、しかも当事はその機能をオフにすることが出来なかったのだ。そして、このような不幸な出来事がその年の「ハイライト」として表示されたのは、一人ではなかった。家の火事、つらい破局、友達の死…。善意で作られた機能が、まさしく数々の人の悲しみを呼び覚ますツールになったのだ。

これはデザイナーが、頭の中に自分にとって都合のよりユーザー像を作り上げてしまうというミスの典型例である。仕事が順調なデザイナーほど、ユーザーが常に理想的で前向きな人物であるという虚像を作り上げてしまいがちだが、現実の人生にはいくつもの浮き沈みがあり、楽しみも悲しみもあるのだ。

さらに、デザインが疎外感を与えてしまうケースも存在する。この場合のパターンは3つのテーマに集約される。それは「使いやすさ」、「多様性または包括性」、そして「公正さ」だ。

デザインには必ず作り手の価値観が反映されるが、人の思考には無意識のバイアスがかかっているのが通常だ。たとえば、登録フォームを作るときのこと。ほとんどのフォームには、選択肢に「男性/女性」の2種類しかない。そのせいで、生物学的に、あるいはアイデンティティの面でそれに当てはまらない多くの人が除け者にされたと感じてしまうだろう。

また、アメリカの交通事故に関するデータにも印象的なものがある。交通事故による負傷は、シートベルトを締めた状態でも女性の方が1.5倍重症になるケースが多かったという。

原因は、驚くところにあった。それは車の安全機能が、男性を念頭に置いてデザインされることが多いことによるというのだ。たとえば一般的なヘッドレストの位置だと、身重の低い人の首を支えられるのに十分ではないのである。これらの事例に顕著なのが、もともと差別する意図は全くなかったにもかかわらず、結果として一部の人を差別することになったという点だ。

つまるところ、デザインの主軸がUXという体験をデザインするものへ広がりを見せる中、最も重要なポイントはデザインに取り掛かる以前の部分にあるということだ。デザインには、暗黙的に人を従わせる権力がある。だからこそ、デザインの力を使ってどう世界を変えたいのかというビジョンと倫理観が求められるのだ。

同時にそれはデザイナーの問題に留まらないことも意味する。デザインを作り上げるプロセスを、いかにデザインするか? クリエイティブという領域に哲学や倫理といった新しい課題を投げかける、実に野心的な一冊になっている。

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