『女子高生 制服路上観察』女子高生の着こなし戦略は、自分らしくチューンナップすること

小松 聰子2018年01月12日 印刷向け表示
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女子高生 制服路上観察 (光文社新書)
作者:佐野勝彦
出版社:光文社
発売日:2017-11-16
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本書のタイトルだけ見るといわゆるJKビジネス的な何かを連想してしまう人もいるかもしれないがそれは全くの誤解だ。制服メーカーのマーケッターが「なんでこんなヘンテコな着こなしや改造を施すのだろう??」と現場に張り付いてこれでもかと聞き込んでたどり着いた、制服を着る中高生の実態である。様々な読み方ができるがとりわけ改造と着くずし視点からの観察と分析、そしてメーカーとしての攻略法が素晴らしい。

中高生の制服と言うと、ついつい昔々の自分を基準に考えてしまう。私が育った90年代初頭静岡某所の田舎中学校ではちょうどヤンキースタイルの代表と言えるロングスカートの終わりという頃合で、昼休みに円陣バレーに興じる先輩の長い長いスカートがふわりと宙に舞っている姿はとってもすてきだった。ロングスカートは永遠だと思っていた矢先にそんな片田舎にも都会の女子高生文化の嵐がやってきて、私たちは高校に入るとあっけなくあのズルズルしたスカートを捨てて膝出しスカートにルーズソックス姿になった(少し脚色してます)。たとえ制服の無い学校に通った人だったとしても、日本で学生生活を送ったことのある大半の人が何らかの制服に対する思いを持っているのではないだろうか。

著書は1996年からトンボ学生服のユニフォーム研究開発センターに所属し、20年に渡って制服の着こなし観察を行ってきた。ウィキペディアによると(そして私の遠い記憶によると)ルーズソックスの一大ブームは93年から98年ごろとのことなので、ルーズソックスにミニスカート時代の後半辺りからの観察ということになる。

制服納品業者という立場ゆえ、本来はコンペに勝って納品完了すればそれ以降のことを気にする義理は無い。どんなにへんちくりんに制服が着崩されていたとしても関係ないのだ。しかし、著者の考え方は違う。制服をどのように着こなしてもらうのか、そこまで研究し尽くしてこそ信頼関係が構築され、ひいては次の新製品の提案につながるのだ、と全国各地に飛んで現場でのヒアリングを重ねる。

もちろん全員ではないのだが、中高生特に女子高生の制服着こなし戦略というのは大人の想像の遙か向こうを行く。スカートを短くするためにヒダのくずれなどお構いなしに巻き上げるのは当たり前、制服に施された「改造対策」をくぐり抜けるためにカッターでスカートを切る、ニットベストは彼女たちの思う最適な長さにするために引っ張って伸ばされ(さらに皺による陰影まで調整されるのだという)、或いはスカートの下にジャージを履き(いわゆる埴輪スタイル)、極めつけはキュロットタイプのスカートを「おばさんくさい」と一刀両断しキュロットの片足側に足を突っ込んでスカートのごとく履くという姿だ。執念としか言い様がない。

これらは一体どのような心理から行われるものなのか。著者はターゲット達が一番本音を言いやすい環境を工夫しながら、その本心をさぐり出そうとする。時には不審者と間違われ、時にはグループインタビューが高校生同士の合コンと化してしまいなにも得るものがないままジュース代だけを虚しく支払うなどしながらも声を集める。そして制服の改造や着崩しの真意が、自分たちにとって大仰なアイテムである制服を『自分らしく』チューンナップする姿なのだと理解する。

チューンナップする部位は大人からすれば思いもよらないものだ。上述の通り、大人の常識からすると理解不能なものも多い。男子学生の例だが、詰め襟を開襟シャツのようにきれいに開いて着崩すなどするのだという。こんなの大人の発想には無い。

著者にとってのあるべき制服は、衣服としてTPOに沿って(ところで、この言葉ってVAN創業者の石津謙介氏が提唱したものだったんですね、知らなかった)着こなされるべきものだ。もちろん、制服納入業者としての理由もある。着崩しや改造が横行する制服はモデルチェンジさせられてしまう可能性が高いからだ。そうなると、必死の思いでコンペを勝ち抜いたのもおじゃんである。想定通りに着こなしてもらえないというのは業者から学校へのある種の裏切りとも言える。どうにかおかしな改造や着こなしを改めてほしい!!願いは切実であった。

彼女らのチューンナップ心理を逆手に著者はとあるセミナーを始める。各高校を訪問してのこの企画は、初めは学校側の先生ですら「そんなの効果ないですよ」と冷めた反応だったという。初回は惨憺たる結果だった。ところがこれを就職試験を意識した高3生をターゲットにすると大当たり、競合各社が競って真似をするほどのイベントとなった。

単に表面的な改造や着くずしだけを観察していたら、生徒の心理に焦点を当てた企画など実現できなかっただろう。せいぜい今まで以上に改造しにくい新型制服の提案だったに違いない。ユーザーの真意を洗い出して本当の意味で制服の効果を引き出していく姿がマーケッターの「鑑 オブ 鑑」としてキラッキラに輝いて見える。

さてこのエピソードは、ここでめでたしめでたしなのだが(本書の内容はまだまだ続く)、どうしても書いておきたいことがある。前述の通り私は中学でロングスカートにこっそり丈詰めを施したセーラー服、高校でミニスカート(では無かったがひざは見えていた)ルーズソックスを経験した。そんな人間としてはなんだかとても悔しいのである。

細かく細かくこだわって自分らしく着こなしていたつもりなのに、オトナが仕組んだ仕掛けごときで「正しい」姿になってしまうだなんて、なんだかとってもつまらないではないか!そんなの女子高生じゃないっっ!!

と、20ん年前の自分だったらオトナたちのほくそ笑む顔を見て腹が立って仕方なかっただろうなあ…。今の子はそこの所どう思ってるんだろうなあ…。いや、オトナ向けと仲間向けで着こなしをソツなく分けていくだけなのか??きっとそうだよなー。だって女子高生だもんなー。

スカートの微妙な丈感からルーズソックスのたるみ感まで一々気にしていたあの頃の気持ちをすっかり忘れてしまった私はそんな風に考えるのであった。

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