『物流は世界史をどう変えたのか』物流が国家や歴史を変えた?

2018年2月22日 印刷向け表示
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物流は世界史をどう変えたのか (PHP新書)

作者:玉木 俊明
出版社:PHP研究所
発売日:2018-01-17
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 2017年3月、英エコノミスト誌は「脅威のアマゾン帝国」という特集を組んだ。その冒頭で、今後10年以内に売上高は50兆円に達するだろうと予測している。事実、17年の売上高は19兆円を超え、米国のEコマース市場の50%に迫る勢いだ。

アマゾンはこの巨大な売り上げを支えるための物流システム構築に余念がない。16年、海運ではNVOCC(船舶を持たない貨物運送事業者)の事業を開始。空運では40機の専用貨物機を順次離陸させると発表している。

日本の小売業の平均物流コストは売上高の5%弱だが、16年度だけでもアマゾンは売上高の13%もの資金を物流につぎ込む。アマゾンは物流で世界を支配しようとしているように見える。

『物流は世界史をどう変えたのか』は紀元前12世紀に地中海で活躍したフェニキア人、17世紀に世界初のヘゲモニー国家になったオランダ、19世紀の大英帝国誕生、20世紀に衰退したソ連などの国家の盛衰について、物流の側面から概観した好著だ。

著者が言うように、物流の歴史こそが世界の一体化=グローバリゼーションの歴史なのだ。アマゾンが国家を超えて成長し続ける今、全く新しい国家観や国際秩序が生まれてくるかもしれない。

トランプ大統領のTPP(環太平洋経済連携協定)復帰検討表明は、米国だけがグローバリゼーションに逆らうことができない証でもあろう。アマゾンは国際政治経済を巻き込みながら、まさに新しい形態の帝国への道を歩み続けているように見える。

ところで、現代の物流を支えるのはコンテナである。機械や食品など重量あたりの単価の高い貨物のほとんどはコンテナに積まれて運ばれる。コンテナがあるからこそ、中国・重慶の工場から米国テンバーの小売店まで、ドア・ツー・ドアで貨物が届く。

天候にかかわらず貨物の積み下ろしが可能になり、中抜きなどの犯罪も減少した。そして船舶とトラックはコンテナで一本の輸送線につながった。

実はこのコンテナは政府機関などではなく、米国のマルコム・マクリーンという一個人が1950年代に発明して標準化した物流システムだ。『コンテナ物語』はその経緯を素晴らしいノンフィクションに昇華させた名著である。

コンテナなかりせば、中国は世界の工場になれず、国際分業で生産されるスマホも登場しなかったかもしれない。

では、そのコンテナは誰がどのように運ぶのだろうか。『最適物流の科学』はそれを知ることのできる良書だ。著者は小規模混載貨物事業者を営む。自費出版の会社案内として企画されたものかもしれないが、立派な読み物に仕上がり、著者の海運にかける情熱のほとばしりはまぶしいほどだ。

海運全般の解説は適切で、初心者にもよい。壮大な物流の世界を歴史、標準、技術の観点から学び直してもいいだろう。

※日経ビジネスより転載

コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった

作者:マルク・レビンソン 翻訳:村井 章子
出版社:日経BP社
発売日:2007-01-18
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最適物流の科学――舞台は3億6106万平方km。海を駆け巡る「眠らない仕事」

作者:菅 哲賢
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2017-12-07
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決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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