『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』ピーター・ティールがシリコンバレーを離れる日 訳者あとがきにかえて

飛鳥新社2018年04月26日 印刷向け表示
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ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望
作者:トーマス・ラッポルト 翻訳:赤坂 桃子
出版社:飛鳥新社
発売日:2018-04-25
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本書は、2017年9月にドイツのフィナンツブッフ・フェルラーク社から刊行されたPeter Thiel: Facebook, PayPal, Palantir – Wie Peter Thiel die Welt revolutioniert – Die Biografieの日本語訳である。

(c) Manuel Braun

ピーター・ティールは、ドイツのフランクフルトで生まれ、1歳の時に家族でアメリカ合衆国に移住した。自著『ゼロ・トゥ・ワン』(NHK出版)および取材対象の一人として登場する『綻びゆくアメリカ』(ジョージ・パッカー著、NHK出版)などを除けば、ティールのみに焦点を当てた初の書籍であるこの本が、彼のルーツであるドイツで出版されたのは興味深い。ちなみにティールはドイツ語を流暢に操り、ドイツでは取材や講演も必要に応じてドイツ語で行なっている。

その半生および常人ばなれした戦略と思考法がくわしく紹介されている本書が刊行された後も、裏をかくのが得意な逆張り屋の面目躍如といったところか、ピーター・ティールは日々「進化」を遂げ、私たちを驚かせつづけている。

2017年11月23日のロイターのビジネスニュースによれば、ティールはかねてからFacebook株を断続的に売却していたが、残った株の75%も売ったとのことだ。ティールがFacebook社の取締役会に今後もとどまるのか、また、大統領選で熱心に支援したドナルド・トランプ大統領との関係がその後どうなっているのかも取りざたされている。

2018年2月、メディアはティールが仕事の拠点をシリコンバレーからロサンゼルスに移そうとしていると一斉に報じた。すでに所有しているハリウッドの家に自宅を移し、ティール・キャピタルとティール財団の本拠地もロサンゼルスに移すだろうというのだ。

2018年3月7日のニューヨークタイムズ紙のインタビューでは、ティールはニューヨークのマンハッタンにある彼の新しいアパートメントで、現在の心境をかなり腹を割って話している(なお、彼の数ある新しい拠点の一つであるこのアパートメントは、トランプタワーを文字通り「見下ろす」位置にある)。さすがのティールも「自分で考えていたより、もっとずっとクレイジーな2年間でした」と語る日々はどんなものだったのだろうか。

この取材で、ティールは大統領と最後に話をしたのは「数か月前」としつつも、望めばいつでも大統領と直接連絡が取れる状態にあると述べている。二人の間のホットラインはいまだに存在するのだ。現実のトランプ大統領は、2016年7月の共和党全国大会のスピーチでティールが熱弁をふるった大統領像とはズレがあるものの、彼はトランプを支持したことを悔いてはいない。「それでもヒラリー・クリントンや、共和党のゾンビたち(党内の対立候補たちのこと)よりはマシだからね」と彼らしい辛辣な口調で述べている。

もっとも、ホワイトハウス側はこの件ではニューヨークタイムズの取材に対してノーコメントだった。

著者トーマス・ラッポルト

ティールにとって、本書にもあるスタンフォード大時代の恩師ルネ・ジラールの影響は大きい。彼は、模倣と競争を研究のテーマとする哲学者ジラールから、起業家・投資家としてのあり方を学び取ったのだろう――「人は、完全に模倣から逃れることはできないけれど、細やかな神経があれば、それだけでその他大勢の人間より大きく一歩リードできる」と語っている。

模倣に陥ることを避け、唯一無二の存在であろうとしてきたティールは、大統領選挙後、シリコンバレーで多くの批判を浴び、モノカルチャーで不寛容なシリコンバレーの空気にいっそう不満を感じるようになった。現在の彼は、「テック・バブル」のシリコンバレーから距離を置くことで、自分の投資活動をよりクリアに展望できるのではないかと考えている。

「ネットワーク効果は非常にいいものですが、それが群集の狂気に変わってしまう転換点があることもたしかです」――このインタビューでの彼の弁だ。

「訳者あとがき」を書いている現時点で、ケンブリッジ・アナリティカ社がフェイスブックの個人情報を使ったことが、フェイスブック社を揺るがす大きな事件に発展している。この件については、本書も第8章ですでに触れている。個人情報の流出と不正利用をめぐり、Facebookの収益モデル自体が批判にさらされている現状だ。2018年4月10日、CEOのマーク・ザッカーバーグは米議会公聴会で証言し、「起きたことの責任は私にあります」と謝罪。本書でも指摘されている社会的インフラとしての責任について、「フェイクニュースやヘイトスピーチ、外国による選挙介入、開発者やデータのプライバシーの面で、フェイスブックのツールが悪用されることを防ぐ措置が十分でなかったことは明らかです」と認めた。フェイスブックの今後とティールの立ち位置についても、まだ二転三転することだろう。

並の人間の思惑を超えた行動に出ることこそが、ティールのティールたるゆえんだとすれば、彼は今後も私たちの予想を裏切りつづけるような気がしてならない。

2018年4月 赤坂 桃子

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