『ノモレ』映像あっての作品ではなく、この本自体がひとつの世界をもった小宇宙である

下山 進2018年07月18日 印刷向け表示
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ノモレ
作者:国分 拓
出版社:新潮社
発売日:2018-06-22
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これは素晴らしい本だ。

NHKディレクターの国分さんと最初に知り合ったのは、沢木耕太郎さんに紹介されてだった。アマゾンの未開部族についてのドキュメンタリーを本にする、とのことで、正直言うとその時「ああ、またテレビの人が本を書くのか」と、軽くみていた。後で送られてきた本『ヤノマミ』は、書き手である国分さんの視点から、文明と接触していない部族「ヤノマミ」が文明と接触するとどうなるか、ということが描かれてあり、襟を正した。活字の作品として完成されている。この本は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞する。

新作『ノモレ』は、アプローチからして前作と違う。ドキュメンタリーでアマゾンの奥地に入っていった国分さんの視点はまったく出てこない。

冒頭から歌うように始まるこのノンフィクションは、アマゾンで100年前に生き別れたイソラド(文明にまったく接していないアマゾンの部族)の物語だ。

100年以上前、ゴム農園をアマゾンの奥地に切り開くために、奴隷とされた先住民。銃で支配をするブロンコ(白人)に、はむかった5人の男たちがいた。木の棒で白人をめったうちにし、一緒に逃げた。追手は執拗だった。銃と犬を持って追う追手に、イネ族の5人の男は二手に別れて逃げた。ノモレ(仲間)よ、いつかまた必ず会おう。

そして100年が過ぎた、と国分は書く(このあたり、夏目漱石の「夢十夜」第一夜のように美しい。「百年待っていてください。きっと逢いにきますから」と言って死んだ女の夢の話だ)。

100年後のアマゾン。イネ族から文明に帰化し、先住民(イソラド)の保護を生業とするNPOに働くロメオの視点から終始ノンフィクションは描かれるのだった。

未開の部族が、文明化された先住民を、弓矢で射て殺している。そんなニュースに翻弄されるロメオのもとに、その未開の部族とおぼしき人々が川の向うに現れたという報せが入る。

彼らは、イネ族の古い言葉を話した。彼らこそ100年前に生き別れた伝説のノモレ(仲間)の末裔なのではないか。イネ族の部落は沸き立ち、バナナを川をわたって彼らに渡す。

しかし、100年の月日はあまりにも長い。バナナをいったん与えると際限なく、そのバナナを要求するノモレ。やがて畑のバナナはなくなると、ノモレは不機嫌になる。

そして、村はノモレたちの襲撃にあう。なぜバナナを渡している人たちの集落を襲うのか?
しかし、彼らの倫理観は、文明に触れた村の人々とはまったく違っていると考えたほうがいいのだ、とロメオは考える。イネ族は結局村を出て都会へ避難することになる。

このNHKスペシャルは私も見た。映像では、ロメオの内面の心の動きを語ることには限界がある。しかし、活字であれば、それは自由に飛翔できる。この本は文明に帰化したロメオのどちらに属することのできないデラシネ的な心を内面から描くことで、文明とは何かを描き出している。その意味で、映像より優れている、と私は感じた。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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