『図解 世界の名作住宅』歴史に名を残す住宅は何がすごいのか?

堀内 勉2018年10月30日 印刷向け表示
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図解 世界の名作住宅
作者:中山 繁信
出版社:エクスナレッジ
発売日:2018-09-30
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建築は誰でも楽しめる。特に住宅は、衣食住の根幹をなすものだから、住宅建築に全く関心がないという人はまずいない。

加えて、日本人は世界的に見ても、建築がかなり好きな国民だと思う。美術館で建築展をやると、他のジャンルに比べて圧倒的な集客力がある。昨年、国立新美術館で開催された「安藤忠雄展―挑戦―」や、今年、森美術館で開催された「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」も大盛況だった。

本書『図解 世界の名作住宅』は、月刊誌『建築知識』のエクスナレッジ社による、歴史に名を残す住宅は何がすごいのかについて、世界の名作住宅60点以上をイラストで分かりやすく解説した珠玉の一冊である。

近代建築の三大巨匠と呼ばれるル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエをはじめ、これらの住宅を設計した世界の巨匠たちの人となりが紹介されているのも、建築の理解に役立つ。

本書で最初に登場するのが、1880年代から始まった、生活と芸術を一致させる「アーツ・アンド・クラフト運動」を主導したウィリアム・モリスが建てた赤レンガの自邸「レッド・ハウス」(1859年)である。

モリスは、「役に立たないものや、美しいと思わないものを家に置いてはならない」と語っているが、工芸品を内装や家具などのインテリアに配し、人間の手技が生み出す自然な美を強調した、白洲次郎・正子夫妻の「武相荘」を彷彿とさせるような落ち着きのあるカントリーハウスである。

近代建築の巨人・ル・コルビュジエは、世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」の構成資産のひとつである上野の国立西洋美術館を設計し、丹下健三をはじめとする日本のモダニズム建築家たちに大きな影響を与えたことで、日本でもよく知られている。

フランスの「サヴォア邸」(1931年)は、ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由なファサードからなる近代建築の五原則の全てが表現されている、20世紀住宅の最高傑作である。

本書にはないが、コルビュジエの終の棲家が、フランスの「カップ・マルタンの休暇小屋」(1952年)である。

これは、彼が構想した「最小限住宅」を実践した、3.66メートル四方の8畳ほどの小さな丸太小屋で、室内には生活のための必要最小限の家具だけが配置されており、住宅建築の原点とも呼ぶべきものである。

もう一人の巨匠・フランク・ロイド・ライトは、今は愛知の博物館明治村に移築されている旧帝国ホテルを手掛けたことで有名だが、ライトが滝の上に建てたアメリカの「落水荘」(1936年)は、自然との一体感を見事に保っており、建築好きなら一度は泊まってみたいと思わせる物件である。

日本の住宅だと、アントニオ・レイモンドの「軽井沢夏の家」(現ペイネ美術館)(1933年)などが紹介されている。レイモンドは旧帝国ホテル建設の現場責任者として来日して、その後43年間も日本に住み続けることになったそうだ。

コルビュジエ、レイモンドの元で学んだ前川國男の「前川自邸」(1942年)も出ている。前川は、上野の東京文化会館などの公共建築以外に住宅も数多く手掛けていて、現在、この家は小金井公園内の江戸東京たてもの園に移築されており、実際に中に入ることができる。

六本木の国際文化会館は、元々は丸亀の多度津藩藩主京極壱岐守の江戸屋敷があった所で、これを引き継いだ三菱グループ総帥の岩崎小弥太邸跡の建築を、前川國男、坂倉準三、吉村順三の三巨匠が手掛けたものである。

広島平和記念資料館や東京都庁舎などに代表されるモダニズムの巨匠で、「世界のタンゲ」と呼ばれた丹下健三の「丹下自邸」(1953年)も、日本を代表する住宅建築である。

上述の「建築の日本展」では、平和記念資料館を彷彿とさせるような、ピロティで持ち上げられた水平に細長いこの建物の3分の1スケールの復元模型が展示された。

また、この建築展と同じタイミングで、「未来の考古学 ~未来へ向かう日本建築~」と題する、若手建築家・田根剛の講演も行われた。26才の時にエストニア国立博物館の国際コンペで最優秀賞を受賞し、今世界から最も注目を浴びている建築家の一人である。

「建築界のノーベル賞」と言われるプリツカー賞での日本人の活躍は際立っており、1979年に同賞が創設されて以来、これまで丹下健三、槇文彦、安藤忠雄、妹島和世、西沢立衛、伊藤豊雄、坂茂の7人が受賞している。

受賞者以外にも世界で活躍する日本人建築家はたくさんいて、なぜこれ程までに日本人は世界で強いのかは、同じく世界で大活躍する日本人シェフと併せて大きな謎である。

特に、バブル崩壊以降、「失われた30年」と言われる中で、世界における日本人ビジネスマンのプレゼンスが全くなくなってしまったのに比べると雲泥の差がある。

この点については、知り合いの建築家と話すたびに議論になるのだが、明確な答えはまだない。
「建築の日本展」では、日本人建築家の国際的評価の高さについて、「古代からの豊かな伝統を礎とした日本の現代建築が、他に類を見ない独創的な発想と表現を内包しているから」ではないかと解説しているが、自分は別の仮説を持っている。

即ち、第二次世界大戦の大空襲で、東京の半分が灰燼に帰してしまった後、日本が奇跡の経済復興を遂げる中で、丹下健三をはじめとする若手建築家たちが自由闊達に都市の未来を論じ、実際に様々な建築にチャレンジしたことが、国全体としての経験値を高めたからではないかと考えている。

何はともあれ、本書は眺めているだけでも楽しい本なので、同じくイラストで綴られた『世界の建築家 解剖図鑑』と併せて一読してみることをお勧めしたい。  

世界の建築家 解剖図鑑
作者:大井 隆弘
出版社:エクスナレッジ
発売日:2018-06-01
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