『パラドクスの教室』 論理の限界へチャレンジ!

鈴木 葉月2012年05月28日 印刷向け表示
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パラドクスの教室
作者:富永 裕久
出版社:PHP研究所
発売日:2012-04-19
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これぞ逆説の魔術。どこかおかしい、でも、どこに間違いがあるのか、答えが出そうで出ないのがパラドクスの魅力だ。バラエティに富んだパラドクスが、12章にわたってこの一冊にギュッと濃縮されている。

まずは、予測のパラドクスの中で有名な「抜き打ち試験のパラドクス」にちなんだ、こちらのエピソードから。

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とある中学校でのお話。週末の休みを目前にそわそわし出した生徒に釘を指すべく、数学のM子先生は来週、抜き打ち試験をすると発表した。数学の授業は月曜から金曜まで毎日ある。このいずれかの日が試験だ。ただし抜き打ちだから、生徒は試験日の授業が始まるまでその授業が試験であることを予想できない、そういう試験にするという。

M子先生が教室を出て行った途端、一斉にため息をつく生徒たち。そんな中、P君が不思議なことを言い出した。M子先生は試験を実施できないというのだ。P君曰く、「試験日は来週月曜から金曜のいずれか、抜き打ちなんだから、その授業で先生が『今日は試験をします』と言うまで、僕らは試験があることを確信できないってことだよな。」

P君はやおら立ち上がり、黒板に

月火水木金

と大書きした。そして「金曜日に試験は絶対ないよ」と断言、黒板の「金」という字に×を付けるP君。

月火水木

「もし木曜日まで試験がなければ、できるのはもう金曜しかない。でも、金曜日に先生が『今日は試験をします』って言う前に、金曜日に試験があることが論理的に予測できる。これじゃ、先生の言う抜き打ち試験にはならないよな。」

うなずくクラスのみんな。

「ところがね」と、再びP君。「そうすると木曜日にも試験はできないことになるよ」と言いながら、黒板の「木」の字も×をつけた。

月火水木金

「だって、金曜日に試験はできないんだから、試験ができるのは月曜から木曜の4日間なのに、水曜日まで試験がなかったら、木曜の朝、僕らは『今日は試験だ』って分っちゃう。これじゃ抜き打ち試験にはならないよ。」

と、同じ要領で「水」「火」「月」にも次々と×をつけた。

月火水木金

「『数学は論理よ、論理が大切』ってのがM子先生の口癖、その先生が論理から外れたことなんて、できっこないよ。」とP君の売り言葉に、「いいぞ!」「そうだ、そうだ!!」と買い言葉の歓声をあげるクラスのみんな。

結局、「抜き打ち試験はできない」とクラス全員の意見は一致。土日を遊びほうけ、抜き打ち試験が行われる予定の週の月曜日を迎えることとなった……。

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私のパラドクス初体験は高校時代。物理の時間に聞いた「アキレスとカメのパラドクス」と「飛ぶ矢のパラドクス」。講義内容はさっぱり忘れてしまった今も、その余談は鮮烈に覚えている。

  • 瞬足で有名なアキレスが鈍間なカメに追いつけない?
  • 弓から放たれた矢も、わずかな一瞬を見れば静止している

    →あらゆる瞬間で矢は静止している

    →矢が静止した瞬間をいくら集めても、矢は動いているとは言えない??

多くのパラドクスは、研究の第一線にいる哲学者や数学者、論理学者でもやすやすと答えられるものではない。他方、いくつもの解決策が出されているものの、研究者間の意見が一致しておらず、明確な回答を持たないものも多い。

例えば宇宙と時間をめぐるパラドクス、無限に続く直線的な時間を提唱したのはデカルト(1596-1650)だ。人類が進歩するのは、無限に続いていく時間があればこそ。もし時間が有限だったり周期的であるならば、進歩はそこで止まってしまうだろうと彼は考えた。

それから約250年。哲学者のフリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)も時間は無限だと考えた。しかしそこから導き出された結論は、デカルトとは正反対。「無限の時間のなかで有限の物質が組み合わさるとすると、あらゆる組み合わせ(パターン)は過去にすでに実現している。そして、これは今後も無限回にわたって繰り返される」という「永劫回帰」の考えだ。

(一体、どっちなんだ!?)

お次は意味論のパラドクス。とは勿体ぶってみたものの、あまり意識はされていないかもしれないが、我々の日常でもこちらのパラドクスにはお世話になっている。皆さんも、冗談交じりで、一度や二度、こんなセリフを呟いたことがあるはずだ。

  • 講演会などで「後ろの方、声が聞こえなかったら手を挙げてください」
  • 暗闇に向かって「誰もいませんよね」と声をかける
  • 「私はあなたとの約束は守るつもりはない」と相手と約束
  • 「私の命令には従わないように」と命令  (……などなど)

教室での生徒の議論の呼び水として、職場でのコミュニケーションの潤滑油として、パラドクスのネタ本にこの一冊、お手元にいかがだろうか?

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舞台は再び先ほどの中学校へ。月曜日、火曜日は平穏に過ぎ、迎えた水曜日。授業に現れたM子先生の手には試験問題の束が。そして、チャイムとともに「それでは試験を行います」と言うではないか。

すかさずP君が、とっておきの推論をここぞとばかりに披露。それを焚きつけるかのような「数学は論理、数学は論理!」の大合唱で、皆が囃したてる。それを聞いても先生は「そうよ、数学は論理の学問なのよ」と涼しい顔だ。

M子先生「みんなは、P君の言う論法で、今日は試験が行われることはない、と結論づけたんでしょ」

(大きくうなずく生徒たち。)

M子先生「そういう考えでいるときに行われる試験を、抜き打ち試験と言うんですよ!」

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