居心地はセルフプロデュースで『最高に気持ちいい 住まいのリノベーション図鑑』

新井 文月2012年07月17日 印刷向け表示
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最高に気持ちいい住まいのリノベーション図鑑 (エクスナレッジムック)
作者:大島芳彦
出版社:エクスナレッジ
発売日:2012-06-30
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住居空間は生きる上でかなりの時間を費やす非常に重要なスペースだ。普段の生活も環境さえ整えば、住んでいる当人はとても豊かになっていく。デザインも日々進化しているのと同様に、住居もそれに伴い住んでいる人の用途に合わせて生き物のように変化していいはずだ。

2012年現在では単純に新しい空間がよいと思える時代は終わったのではないだろうか。これからは、すでにある空間や材料をうまく活かしながら新しい世界をつくりあげていく時期に突入している。特に新しいだけの空間は無機質になりがちだ。私事になるが、震災における仮設住宅を彩る活動をしている。無機質な空間を明るくするのは本当に喜ばれる行為で、自分の手でやりとげるのはえも言われぬ達成感がある。

ペンキはもっとも安価で、効率よく空間の質感を変える仕上げの基本だ。ツヤを出すか、それともザラっとした質感でいくかで雰囲気が決まる。本書でも紹介されているが、基本となる白ペンキはときに魔法のようである。「白く塗る」のはおそらくもっとも安い仕上がりで、もっともドラスティックに空間を変える事ができる。掲載されている写真では、レンガ造りの壁をざっくり荒く塗ってみるのと、べったり塗りつぶすのでは醸し出す空気がまるで違う事を紹介しており、白にもさまざまな表情があるのを教えてくれる。

それ以外で現在の環境をなんとかしたいと思ったら、いまの素材の見方を変えることだ。例えば、日の目を見ることのなかった部材が住居には隠されている。縁の下を支えてくれていた構造部材、ありきたりの昭和の家でみられる天井などは、いっそ天井の壁を剥がすことで迫力満点の松丸太梁の小屋組が表れる。それを間接照明で見せることで空間が広く見えるし、その奥の天井に写りこむシルエットは趣深い。説明するとやや堅いが、写真でみると単純に迫力あってカッコイイ。

と楽しんで本書を眺めていると、あらゆる建物に宝が埋まっているように思えてくる。創造力は無限だ。リノベーションの楽しさは、こうした使い方の創造力を働かせるだけで、新築よりも容易に成果を挙げられることにある。

掲載されている約200のリノベーション事例はすべて実際にできることを考え選出されたものだ。素材を活かした仕上げやディテールを解説しているので、本書から得られる知識は膨大になる。私は学問のための学問は好きではなく、使える知恵はすぐ実践すべきだと考える人間なので、ぜひこれらは実生活に役立てていただきたい。(HONZに参加させていただいてから、使える知恵が飛躍的に増えた。感謝!)

と暑苦しい前置きはさておき、これから自宅や事務所を購入する予定の方、現在のオフィスを改装したい方に強くオススメする。また今はシェアオフィスやシェアハウスが流行している。これは家賃が単純に安いという現象ではなく、高くても人と人とのつながりを大切にしたい人が増えている結果だ。そういったモデルのヒントも多数あるので、シェア物件を検討している方達にも強く推薦することができる。

去年より震災の影響で、世間は耐震構造について敏感になっている。そんな中、「補強を見せる」章は衝撃的だった。本棚が建物を補強する事例が掲載されいるのだが、壁全体の本棚自体が耐震補強の役割を担うなんて発想はこれまでチェックしていた本には無かった!入れ子の壁が分散して重荷を負担しているので、縦横の揺れにも耐えられる。つまり本棚、見た目、耐震の一石三鳥コースとなっている。HONZ読者なら興味をそそられる本棚だ。

トップで紹介されているのは、古めかしいタイルも見方を変えれば今では絶品となる事例がある。年期の入った建物も、いまつくれば高価な職人技の装飾が入っていることが多い。それらを再発見し、現代的なデザインのなかにリミックスしていく感覚。そんな遊び心もリノベーションの楽しさだ。施工後のちょっとした改変も気軽に手を加えていくようなことだって簡単だ。私も家を購入した場合、いい感じに経年変化している素材が残っていれば、隠してしまうのはもったいないので見せていく事にしよう。

「仕上げ」の章も興味深い。ペーパーウッドという積層合板の断面を床見切材として見せており、市松張りと呼ばれる和をとりいれた最新のパターンは、ラーチ合板の木目のタテヨコをはりあわせることで市松模様に見える方法が載っている。木板、タイル、塗装のコンビネーションでは青の壁から白へとグラデーションで色が塗られ、WICと洗面室の壁には鮮やかな水色の塗装と杉板がボーダー状で貼られている。うーん美しい。こんな調子で先日HONZ朝会で本書を紹介していたら、内藤順のお宅はこの中の建築家が手がけたとの事。世の中狭いものだ。

ところで、こういったセンスのよいリノベーションをしてくれる会社があるのだろうか?不動産マニアの間で絶大な人気を誇る東京R不動産ではtoolboxというサービスを始めた。これは建築や住宅パーツのセレクトショップであり、部分的な工事を職人に発注できるオーダーシステムになっている。プロに任せるところは任せてしまえ。誰もが服に体をあわせのではなく、身体に服を合わせたい、お仕着せでない空間がほしいと思っているはずだ。

ちなみに他のマニアにとって人気不動産会社であるオモロー不動産では、ユニークな物件を多数紹介している。紹介されているオモローな物件をここから探しあて、あなたのセンスで自分だけの住処にするのもまた一興だ。

とにかく新しいインスピレーションの材料がてんこ盛りなので、まずは本書でムフムフと最高の住みかを創造してほしい。情熱が高まれば、きっと行動にうつしたくなるはずだ。

---------【こちらもオススメ】---------

見せ方次第で人が集まる好例。市立美術館は年間5万人来場が平均だが、金沢21世紀美術館では年間150万人オーバーの快挙を遂げた。

超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦 (角川oneテーマ21)
作者:蓑 豊
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以前紹介したリフォームまではいかないまでも、プチお部屋改造にもってこいの一冊。レトロな味の出し方の基礎が満載。
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