歴史とリンク『二十世紀美術1900‐2010 (ワードマップ)』

新井 文月2012年09月07日 印刷向け表示
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二十世紀美術1900‐2010 (ワードマップ)
作者:海野 弘
出版社:新曜社
発売日:2012-07-15
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本書は美の歴史100年を俯瞰したものだが、冒頭のワードマップに驚いた。その年表は世界の出来事と、アーティストの登場/主義と歴史がディケイド(十年)ごとに分けて整理している。ありそうで見た事がなかった。すでに〈ワードマップ〉シリーズではロングセラー『現代美術─アール・ヌーヴォーからポストモダンまで』(1988年)があるが、半世紀経過した今のタイミングで改良し本書の発行となったらしい。

内容は19世紀末から21世紀初めの最前線までを十年ごとに区切り、社会状況と結びつけながら案内している。各章は展望を含む十のキーワードで構成されている。展望部分を読むだけでも歴史の全体像が把握できるようになっているので、それだけでも読む価値は充分にある。

今回は、美術に興味はあるけど内容すべて読む時間のない方のために各ディケイドをさらにざっくりまとめて紹介しよう。

まず1900年代。このころパリ万国博覧会が開催された。フランスの洗練されたイメージはここから始まる。アール・ヌーヴォー(新しい美術)と呼ばれるわかりやすい装飾とデザインは、パリを中心としてその後も一般人を巻き込み広がっていった。

1910年代、第一次世界大戦が勃発。ロシアはロシア革命の中、ロシア・アヴァンギャルド(抽象表現)の芸術革命を起こしアートシーンに参入してきた。それまでアメリカは文化歴史を手にいれようと画策していたが、戦争をきっかけにヨーロッパに出兵することで西欧文化でトレンドだったモダン・アート(難解な表現)を吸収しアートシーンに参入していった。

1920年代、世界が戦争を始める中、不安を拭い去るべく人々は真夜中まで踊り続けた時代。ダンシング・エイジとも呼ばれる。だが世界大恐慌が訪れた後はそれらの運動は薄っぺらいものだと人々はあとから気づいていった。その空気とマッチしたのかシュルレアリスムが登場し当時の作風の主流となっていった。一方、ドイツでは有名なバウハウスが誕生し、わずかの間に世界中に強力な影響力を持つアーティストを輩出しデザインに革命をもたらしていく。

このように20世紀は、美術において多くの用語と流れを生み出した。フルクサス、キュビズム、ネオ・ジオ…これらはすべて現代美術のキーワードだが、詳細は各センテンスにまとまっているのでそちらを読めばカバーできる。もちろんアンディ・ウォーホルやマルセル・デュシャンなど最重要アーティストもカバーされているのでご安心を。では次のディケイド。

1930年代、人々の心は大恐慌と第二次世界大戦の間で不安で一杯だった。そんな中、世界中でアートは金持ちの暇つぶしではないか、という風潮があった。そして頽廃美術の弾劾がアートの景気を悪くした。いわずもがなナチスによる追放策である。当時、ドイツの国民文化にそぐわないアート作品は頽廃のレッテルを貼られ、発表を禁じられ数万点が没収されて海外に売られた。その大部分は行方不明となったとの事だ。画家にとって報われない話である。

1940年代、日本に原爆が投下。人はまわりとのつながりが不安定に感じるようになり、それまでの国際主義からナショナリズムの力が強まる。同時にアートもアイデンティティの危機にさらされる。市場は富裕層から大衆へと遷移し、また1945年を境にモダンアートの拠点はヨーロッパからアメリカに移った。

1950年代、復興期。アメリカに亡命していたアーティスト達がヨーロッパに戻り、再建がはじまった。戦争が終わり、若い兵士も帰還し、結婚して家庭をつくった。郊外住宅に家具を揃えたり、絵を飾ったりする趣味が普及しアートは生活に根付いていった。

このように常に歴史と美術は密接に進行する。これなら難解な知識なくとも全体をとらえた時代のうねりを感じとれる。いつか私達も訪れるかもしれないクリエイティブ・クラスの基礎知識だと思って眺めてほしい。では次のディケイド。

1960年代、多種とも混沌ともいえる時代が到来した。ピカソは巨匠とされた。彼の生涯が芸術の人のイメージだと理解されやすかったからだ。1956年にジャクソン・ポロックも悲劇的な死をむかえるが、ニューヨーク美術界はそれさえもニューヨーク・アート界の宣伝とした。以降は集団で討論したり論争する流れになっていき、次第に個々のアーティストが英雄的なモデルには見えなくなっていった。

1970年代、この時代は停滞期と呼ばれている。混乱が終えるとカルトや精神的なものが登場してきた。現世利益的な今すぐの幸福、快感が望まれた。ヨガやセラピーの流行と同様、アートもまた個人の心と身体のヒーリングに存在意義があった。確かにこの時代の作家はどれも評判が悪く「古くさい」「おどろおどろしい」などと批判されるケースが多い。この頃アートにようやくグローバル化がはじまり、アフリカ、アラブ、アジアなどの国が参加してきた。

1980年代、バブルの時代。アート界もその恩恵を受けた。札束が市場にあふれ、貧欲が支配していった。日本人は後半にアート界に参入し、アートの値段をつり上げていった。1990年にはゴッホの「医師ガシェの肖像」が125億円で落札される。またメディアによって情報革命がおこり、アートを近寄りやすくした。作風としては、かつて見たことあるようなものがネオとかニューとかついた思想が価値の再考を試みていた。例えばイーゼルを立ててキャンバスに描くといった絵画に戻るアートへの回帰がそれだ。これらは新表現主義=ネオ・イクスプレッショニズムと呼ばれる。提唱の拠点はドイツだったため、それまでニューヨークに支配されていた市場は移りかわっていった。

1990年代、20世紀最後の十年は崩壊の時代。ベルリンの壁崩壊、ロシア・ソヴィエト連邦の崩壊。バブルの崩壊。それに伴いアート界も宴に対する後悔や反省、空虚が語られるようになった。すると突然80年代のイメージを批判しはじめコンセプチャルな作品が復活するようになった。イメージよりも「いかにあるべきか」、「なにを表現するべきか」という観念が先行してくる。ここから今の現代アートの印象が強まってきた。

2000年以降いまどこにいて、何をやろうとして、どこに行こうとしているか。それは本書で確かめてほしい。20世紀後半になると、これまでのアートではとらえきれない作品が増えてきて、単純な系統図からはみ出してしまう現象が目立つ。

あとがきで著者は言う。21世紀は2つ目のデケイドに入ったが、まだ先は見えない、しかも20世紀の記憶は早くも失われはじめている。本書は20世紀を知らない世代の読者に伝わればうれしい。それはきっと伝わると信じている、と。とりあえずここに一人伝わったので、私はそのバトンをまた誰かに託したい。

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経済面でのアートの接点ではこちら。現代美術で再生した村がある事をぜんぜん知らなかった。現地のアーティストによると、この祭典と直島の祭典は相当集客率が高く経済効果があるそうだ。それは総合ディレクターの北川フラム氏の功績が大きい。

同氏が綴った何もない空間から芸術祭が形になるまで。前例が無いので住民達を説得する部分から本当に苦労している。

大地の芸術祭
作者:北川 フラム
出版社:角川学芸出版
発売日:2010-07-17
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村全体が現代美術の祭典。9/17まで開催しているので興味ある方は足を運んでみては?

越後妻有 大地の芸術祭 http://www.echigo-tsumari.jp/

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