『サブカル・スーパースター鬱伝』サブカル男は40歳で鬱になる

栗下 直也2012年09月10日 印刷向け表示
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サブカル・スーパースター鬱伝
作者:吉田 豪
出版社:徳間書店
発売日:2012-07-21
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サブカルライターであり書評家であり、「プロインタビュアー」を名乗る吉田豪がサブカル業界人10人に迫ったインタビュー集だ。雑誌「クイック・ジャパン」の連載をまとめたもので、インタビュー対象はリリー・フランキー、大槻ケンヂ、松尾スズキ、みうらじゅん、菊池成孔など一定の知名度があると思われる人から杉作J太郎など一部のマニアには熱狂的に受けそうな人まで。狭いのか広いのかわからない人選だが、彼らが著者の取材に対して共通して口にするのは「サブカル男は40歳あたりで鬱になってきた」という一言だ。元の連載のテーマが40歳を目前に控えた著者が「サブカル人は40歳を過ぎると鬱になるというが本当かを業界の先輩に聞く」であるため、当然といえば当然の返答なのだが、我々が想像する以上に揃いも揃って悩みが深いのである。

お洒落なミュージシャンのイメージが強い菊池成孔は、駅前の喫茶店で友人と待ち合わせをしていたら「あっというまに全裸になっちゃったんですよ」と何事もないように語る。「ズボンのチャックは開けて、ずっとハーハー言ってる」と自然に振り返るが、間違いなく状況次第ではアウトである。いや完全にアウトである。結果、「自分は絶対に罹らない」と思っていた神経症と診断される。

オカンと僕がどーした、こーしたで小説が爆発的に売れたリリー・フランキーは文章が書くのが嫌になり味覚障害と睡眠障害になり、何もやる気が起きなくなったという。著者の「その時期は主に何をやっていたんですか」という問いに「オナニーだね。酒飲んでオナニー」と答える。「小学生か」と突っ込みたくなる受け答えだが、インタビュー全体のトーンからして間違いなく自慰を繰り返しているような気だるさがつたわってくるので真実なのだろう。

インタビュー対象の10人が鬱(もしくは鬱らしき状態)になった詳細は本書に譲るが、彼らが共通して抱えるのはサブカルという傍流の出自の若造がテレビ出演などメディア露出を経ていつのまにか本流もしくは本流に近いところに組み込まれてしまったというジレンマである。そして、年月を経て段階的に業界でのポジションが上昇して40歳前後で下手すると大家扱いされることによってその居心地の悪さはMAXになり、鬱につながるというわけだ。

その居心地の悪さを絶妙に表すのが本書のタイトルだ。本書内で言及はないがサブカル人の思いを汲んでいる。「サブカル・スーパースターってなんだ。サブでスターって矛盾してないか。俺らは単なるサブカル人だぜ」と。単に梶原一騎原作の漫画『プロレススーパースター列伝』をパロっただけではないのである。

居心地の悪さに敏感であるということからもわかるように、著者はインタビューを通じてサブカル人の大半はサブカルに対する負い目だけでなく自意識過剰が強いことを浮き彫りにする。リリー・フランキーを筆頭に何人かが語っているがサブカル人は体育会系のように「高級車買って、綺麗なオネーチャンを側にはべらして」では満足できないのである。なんとも悲しい話だと個人的には思うのだが、世間的な成功をしても喜べないのである。別に誰も見ていないのだが。

逆に言えば、恥じらいと自意識過剰の強さがサブカルの原動力であったのは間違いないだろう。ありもしない視線に耐え、必死に背伸びをして、おそらく自らの強い意思などなく、いくつものタイミングが重なり世に出てきたのである。自らを計算高くプロデュースするなどできそうもない旧世代の彼らが世に出たのも時代性だろう。そして今、サブカルという言葉がかつてほど勢いがないのも時代性だろう。サブカル人が恥じらいもなくアイドルオタクを公言する時代にサブカルも何もないと著者は指摘する。

面白いのは、巻末の著者と編集者との対話。11人のインタビューを経て(10人+総括で取材した香山リカ)、著者はサブカル人が鬱になる理由をあれこれ挙げるのだが、腑に落ちないらしいのだ。それは各人の生い立ちが違うのだから、括れないのが当たり前なのだが、評論家の町山智浩(本書には登場しない)の「結局、みんな女性問題なんだよ!!」というちゃぶ台をひっくり返すような言葉を引いてくる。小金持って、浮気して、家族がぼろぼろになるから、鬱になって壊れると。「確かに」と思ってしまうが、こうなると、完全にサブカルが関係ない。永田町スーパースター鬱伝でも良い気がしてくる。

その通りなのである。理由は人それぞれにせよ、サブカル人でなくても迷いまくる時代なのだ。喫茶店で全裸になることはなくても、40歳になっても悩むのである。孔子の時代とは違うのである。そう考えると、本書を「どんなに順風満帆でも40歳付近でリズムが狂ってくる10人にインタビューしている本」として読むと楽しみ方も変わってくる。「40歳になるとおかしくなるのか」まではいかないでも「大変だろうな」という危機感は誰しも持っており、そこをうまーく突いたインタビュー本になる。実際、紹介されているサブカル人にはほとんど興味がない私でも最後まで読み進めてレビューまで書いてしまう引力が本書にはあるのだ。

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単行本は10年以上前の本だが、今読んでも古さは感じない。

社会学者の宮台真司の傑作。

漫画や性などの若者風俗の論考が中心だがデータも豊富。

サブカルで食う 就職せず好きなことだけやって生きていく方法
作者:大槻 ケンヂ
出版社:白夜書房
発売日:2012-04-28
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この本を読んでも当然ですがサブカルで飯は食えません。サブカルを取り巻く状況や、最近、なぜ著者がをテレビで見なくなったのかまで。サブカルと大槻ケンヂの半生に興味がある方はどうぞ。

新・人間コク宝
作者:吉田 豪
出版社:コアマガジン
発売日:2010-11-18
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キャスティングが濃すぎる芸能人インタビュー集の第三弾。横山やすしの息子で銃刀法違反で捕まった木村一八、ストーカーで捕まった月亭可朝、ビートきよしに蛭子能収に不良番町の梅宮辰夫などなど。誰が買うのかと思うが、私は『人間コク宝』、『続・人間コク宝』、そして本書と3冊持っています。。。ミーハーでごめんなさい。

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