2000年以降出版が続いた「天変地異による人類史への影響」本のはしりである。著者は西暦535年ないし536年に人類史上最大級の噴火が起こったと推定する。場所はジャワ島とスマトラ島に挟まれた海峡にあるクラカトア火山だ。
この大噴火の結果、一年半ものあいだ世界中で暗闇がつづき、結果的に続く100年間の間にそれぞれの文明圏では不可逆的な変化が起こったという。
本書では東ローマ帝国、ヨーロッパ、東洋、アメリカ大陸など世界各地の変化を満遍なくとりあげているのだが、とりわけ興味深いのはトルコ系諸族の動きだ。トルコ系諸族は噴火後にハザール帝国を建国、中央アジアからポーランド国境まで領土を拡大した。このハザール帝国はのちにユダヤ教を国教とする決断をする。
東欧を起源とするユダヤ人はアシュケナジムと呼ばれるのだが、その多くがハザール帝国の住民だったと著者は考える。宗教の記憶としてのディアスポラはあったのだが、民族の記憶としてのそれは本来は希薄だということだ。
それにしても、海外の作家による天変地異ものはじつにダイナミックで歴史的視点に富み興味深い。このような本は面白がって読むべきだ。けっして防災に役立てようなどという姑息な読み方をしてはいけない。